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マスクで風邪やインフルエンザは予防できない? マスクの正しい使い方とは

高垣育薬剤師ライター、国際中医専門員
マスク(ペイレスイメージズ/アフロ)

風邪やインフルエンザ対策のツールとして何気なく使っている使い捨てマスク。「マスクしているから安心」と思っているかもしれませんが、結論から言うと残念ながらマスクだけで風邪やインフルエンザを予防するのは難しいです……。ただし手洗い等との合わせ技で使うには良いアイテムと言えます。

マスクだけで風邪やインフルエンザを防ぐのが難しい理由

職場や学校でマスク人口が増えてきました。大切なプレゼンや出張前で風邪にかかるわけにはいかない。受験前の子どもに自分のインフルエンザをうつしてしまったら困る。

このようにマスクを使っている人には「人にうつしたくない」「かかりたくない」という大きく2つの目的があると考えられます。

人にうつさない目的でのマスクの使用。これについては厚生労働省が推奨しており、咳やくしゃみにより飛沫が飛び散るのを防ぐための「咳エチケット」として知られています。

一方、風邪やインフルエンザにかからない目的でのマスクの使用については「市販のマスクの着用だけでウイルスの侵入を完全に防ぎ、感染症を予防するのは難しい」と国内外の公衆衛生に詳しいハイズ株式会社・薬剤師の後町陽子さんは言います。

風邪とインフルエンザは主に「飛沫感染」と「接触感染」という2つの経路によって人にうつります。飛沫感染は感染者の咳、くしゃみによる飛沫と一緒にウイルスが放出されて、それを別の人が吸い込むことで感染するという経路のこと。接触感染は、感染者がくしゃみや咳をおさえた手で周りのものに触れて、そこについたウイルスを別の人が触れ、自分の口や鼻などに触ることによって粘膜から感染するという経路です。

マスクのみで感染症を予防するのが難しい理由として後町さんは、ドラッグストアやコンビニエンスストアで手に入れやすい一般的なプリーツ型のマスクや立体型のマスクでは着用時に鼻や頬のあたりに隙間ができてしまう点を指摘します。

「マスクと顔の間にできた隙間からウイルスを吸い込む可能性があります。そのためマスクによってウイルスの侵入を完全に遮断し、感染症を予防するということは物理的に難しいのです。また市販のマスクのウイルス捕集効率は商品により差があるという報告もあります」(後町さん)

ではマスクは感染症を防ぐのに全く無意味なのかというと、そうではなくメリットもあります。

それはのどを保湿できることです。のどの粘膜が乾燥するとバリア機能が弱まり、ウイルスが体内に侵入しやすくなる可能性があります。

マスクの二度付けを避けるべき理由

風邪やインフルエンザにどうしてもかかりたくない人が意外と見落としがちなのが「接触感染」による感染のリスクです。

「くしゃみや咳を感染者から直接浴びなければ大丈夫だと思う方がいるかもしれません。しかし、自分の手を介した接触感染の機会は思っている以上に多いのです」(後町さん)

たとえば、朝の通勤・通学時に使ったマスクを帰りに再利用。電話や会話の際に顎マスクをしたり、外した後に再装着。ランチやお茶休憩で外したマスクを飲食後にもう一度使用。

マスク使用時にやってしまいがちな「マスクの二度付け」には風邪やインフルエンザのウイルスに接触感染するリスクが潜んでいます。

風邪の主な原因となるウイルスであるライノウイルスは人がよく触れる場所に多く存在します。たとえば、ドアノブ、蛇口、共用のパソコン、電車のつり革、会社の電気のスイッチ、共用のペン、電話などです。24~37℃の環境下で平均2時間程度、場合によってはさらに長く生き続けるといわれています。

そして、ライノウイルスで汚染させたものに触れた手を介してライノウイルスに感染した被験者が50%にのぼったことを明らかにした研究があります。

「ライノウイルスによって汚染させたさまざまな物体の表面を健康な若い成人の被験者に触れてもらい、その手で自分の鼻などの粘膜を触れるという実験について報告した論文があります。この実験によると、汚染されたコーヒーカップの取っ手に触れた10人のうち5人が感染したと示されました。母数は非常に少なく、かなり古い報告ではありますが50%もの人が感染したというのはインパクトがある結果だと思います」(後町さん)

風邪から身を守るには感染者からのくしゃみや咳を浴びないように気をつけるだけではなく、自分自身の手を介して感染する接触感染にも十分に気をつける必要だということがわかります。

一度外したマスクは、マスクそのものにウイルスが付着している可能性があります。二度付けはウイルスに汚染したおそれのあるマスクを顔につけるということになりかねません。仮にマスクそのものは汚染していなかったとしても、マスクをつける際には、ウイルスが多く生存する場所に触れた手で、顔、マスクの紐、マスクの内側や外側に触れることになるので感染のリスクが高まると考えられます。

だからウイルスへの感染のリスクをできる限り低くするためには、一度外したり、顎マスクなどで体の他の部分に触れたマスクの再利用は避け、廃棄することがすすめられます。

絶対に風邪やインフルエンザに感染したくない人はマスクとの合わせ技で対策

大切なプレゼンや出張などを控えていて「今、絶対に風邪やインフルエンザにかかるわけにはいかない」という場合、3つの観点から感染のリスクを遠ざける対策をします。

1)感染源を避ける、減らす

風邪やインフルエンザなどのウイルスに感染した人を避けます。そのために、人が密集する場所、たとえば電車や飛行機に乗ったり、人混みに出る機会を可能な限り避けます。

また、先ほども述べたように多くの人が触る場所、たとえばドアノブ、蛇口、電気のスイッチ、共用のパソコンやペンなどに触れるのは避けたり、それらの場所を消毒するといった対策をします。

2)感染経路を遮断する

体の中に風邪やインフルエンザの原因となるウイルスが侵入するのを防ぎます。マスクの着用はこの対処法に含まれます。

ウイルスの侵入を防ぐために何より大切なのは手洗いとアルコールでの手指消毒を徹底すること。これにより自分の手を介した接触感染を防ぎます。マスクをつける前にも忘れずに実施しましょう。

3)感染症に対する抵抗力を高める

ウイルスなどの病原体が体内に侵入して発育または増殖した状態を感染といい、その結果何らかの症状を現わした状態のことを感染症といいます。感染源に接触した人が感染症を発症するかどうかは、病原体の病原性の強さと体の抵抗力のバランスによります。ですから、感染症にかからないためには感染症に対する自分の体の抵抗力を高めることが大切です。

具体的には、しっかり休息をとること、加湿すること、ストレスをためないこと、睡眠を十分にとることなどが挙げられます。マスクでのどを保湿することもこの中に入ります。

風邪やインフルエンザにかからないため、1)~3)のすべてを実践できれば良いのですが、会社や学校に通っている場合は「人ごみに出ない」「電車に乗らない」ということを必ずしも自分で意思決定できるわけではありません。そんな状況でも、個人で対策できるのがマスクの着用や手洗いです。

身を守るツールのひとつとしてマスクを活用し、これら3つの観点による方法をできるだけたくさん組み合わせて実践して風邪やインフルエンザ感染を遠ざけましょう。

■参考文献

・インフルエンザの感染を防ぐポイント

「手洗い」「マスク着用」「咳(せき)エチケット」(政府広報オンライン)

https://www.gov-online.go.jp/useful/article/200909/6.html

・感染症対策特集~様々な感染症から身を守りましょう~(首相官邸)

https://www.kantei.go.jp/jp/headline/kansensho2013.html

・一流の人はなぜ風邪をひかないのか?―MBA医師が教える本当に正しい予防と対策33(裴英洙著、ダイヤモンド社)

・JM Jr and Hendley JO, Transmission of experimental rhinovirus infection by contaminated surfaces. Am J Epidemiol. 1982;116(5):828-33.

・レジデント2016年1月 vol.9 No.1(医学出版)

薬剤師ライター、国際中医専門員

2001年薬剤師免許を取得。2017年国際中医専門員の認定を受ける。調剤薬局、医療専門広告代理店等の勤務を経て2012年にフリーランスライターとして独立。薬剤師とライターのパラレルキャリアを続けている。愛犬のゴールデンレトリバーの介護体験をもとに書いた実用書「犬の介護に役立つ本」(山と渓谷社)の出版を契機に「人」だけではなく「動物」の医療、介護、健康に関わる取材・ライティングも行っている。

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