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西岡剛・北九州監督の野球学が面白い。チーム3つの牽制アウトを「素晴らしい」となぜ絶賛?

田尻耕太郎スポーツライター
右が西岡剛スキッパー(監督)。その左は寺原隼人投手コーチ

 プロ野球独立リーグ「ヤマエ久野 九州アジアリーグ」の2年目が3月20日、北九州市民球場で開幕した。

 新規参入の福岡北九州フェニックスがホームに初代覇者の火の国サラマンダーズを迎えた一戦。福岡北九州フェニックスにとっては船出となる一戦だったが、黒星発進となった。

【3月20日 ヤマエ久野 九州アジアリーグ 北九州市民球場 1248人】

火の国 `201000220 7

北九州 `001000001 2

<バッテリー>

【火】◯宮澤、石本、橋詰、水野――深草

【北】●本野、櫻井、本村、力丸、松本――ラモン、武蔵

<本塁打>

【北】宮本

<スタメン>

【火】4高山 6中村 7小林 9水本 5高橋 D植月 3佐藤 2深草 8柏木

【北】D西岡 4大河 6妹尾 2ラモン 3宮本 7吉岡 9古賀 5中村 8宇土

開幕投手を務めた本野
開幕投手を務めた本野

<戦評>

 北九州は球団創設初の公式戦を落とした。開幕投手に指名された左腕の本野が緊張からか制球が定まらずに、立ち上がりから4連続四死球で失点。その後高橋に適時打も許していきなり2点を失った。その後は落ち着きを取り戻したが、5回3失点で黒星を喫する悔しいマウンドになった。

 打線は積極果敢にバットを振りに行った。チーム初安打は二回先頭でラモンが記録。チーム初得点は三回、妹尾の二塁適時内野安打から生まれた。そして九回、1死走者なしから宮本がチーム初本塁打となるソロを左翼席へ運んだ。ベンチはもちろん、地元北九州のファンも大いに盛り上がっていた。(了)

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トライ&エラーこそ独立リーグの魅力

 既成概念を破り新しい野球の魅力を発信していく。福岡北九州フェニックスのチャレンジは、記念すべきオープニングゲームからその姿をさっそく現した。

 攻撃中、球場内にはノリの良いクラブミュージックが大音量で鳴り続けていた。例えるならバスケットボールの試合のようだ。「スキッパー」(舵取り役)こと西岡剛選手兼任監督のアイデアだった。

スキッパー発案の爆音ミュージックも

笑顔で選手を出迎える。選手兼任のため打順次第ではヘルメット姿
笑顔で選手を出迎える。選手兼任のため打順次第ではヘルメット姿

「太鼓の音ってプロ野球だと心地いいんですけど、何万人というお客さんが入らない独立リーグでは何か雰囲気が違ってしまうんです。だからこそ、応援団ではなくてDJが回して音楽をかけるという案を球団に出しました。みんなテンションも乗ってたし、ダラっとなりがちな点差でもまた違って見えたと思います。新しいファン層をキャッチ出来たらと思ったし、僕も試合をしながら楽しかった」

 ただ、あまりの爆音に西岡監督も嫌な予感はしていた。

「周りがマンションだらけですからね。途中、警察へ苦情も入ったみたい。選手やお客さんを盛り上げたいと思っていたけど、僕がもし野球に興味がなくて近所に住んでたら苦情言うと思うんですよね」

 このようなトライ&エラーも独立リーグならでは、だ。この日は試合途中から音量を下げて対応をしたが、明日21日以降にどのような演出を取り入れるのか注目だ。

自分の限界を知る

初回の打席に向買ったところでスタンドへ深々と一礼。「選手たちもみんな一礼をしてくれた。その姿も嬉しかった」
初回の打席に向買ったところでスタンドへ深々と一礼。「選手たちもみんな一礼をしてくれた。その姿も嬉しかった」

 また、肝心の野球の方では北九州打線も火の国の好投手陣に食らいついて走者は再三出した。その中で、この試合では3度の塁上での牽制アウトがあった。

 火の国サラマンダーズの投手や連係が優れていたのは間違いないが、北九州の西岡監督はその3つの牽制アウトが北九州フェニックスにとっての何よりも収穫だと語った。

「ずっと、キャンプ中から1人1回は牽制でアウトになろうと、言ってきたんです。3つアウトになったけど、キャンプからそれを言ってきた。実践した選手が素晴らしい」

 それは、つまりどういうことなのか。

「自分の限界を知ってほしいんです。いま、プロ野球でも走者のリードが小さいんです。1つの走塁が本来すごく大切になる。それで勝つこともある。だから、自分の目一杯までリードをとってほしいと選手には話していました。結果3つアウトになったけど、相手は警戒をしてこの試合だけでどれだけ牽制球を投げさせたか。そこに意味があるし、そもそも北九州の選手たちはNPB入りを目指しているんだから、今の自分の本当の限界を知る方法も大事なことだと思ったんです」

失敗ではなく、それは経験

 失敗という単純な表現を嫌う。「失敗じゃない。経験なんです」。見た目でただ派手な野球をするだけではない。侍ジャパン、メジャー、日本プロ野球とあらゆるカテゴリーを知る西岡監督の野球イズムはなかなか興味深い。

※写真はすべて筆者撮影

スポーツライター

1978年8月18日生まれ、熊本市出身。法政大学在学時に「スポーツ法政新聞」に所属しマスコミの世界を志す。卒業後、2年半のホークス球団誌編集者を経てフリーに。現在は「Number web」「文春野球」「NewsPicks」にて連載。ホークス球団公式サイトへの寄稿や、デイリースポーツ新聞社特約記者も務める。また、毎年1月には千賀(ソフトバンク)ら数多くのプロ野球選手をはじめソフトボールの上野由岐子投手が参加する「鴻江スポーツアカデミー」合宿の運営サポートをライフワークとしている。2020年は上野投手、菅野投手(巨人)、千賀投手が顔を揃えた。

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