Yahoo!ニュース

無観客のプロ野球を敢えて楽しもう。「熱男」松田が決めたホークスの新ルールとは!?

田尻耕太郎スポーツライター
今年もたくさんの「熱男」を期待(筆者撮影)

熱男、今年もはじめました

 2020年の初「熱男」が飛び出した。

 5日の福岡PayPayドームのヤクルト戦だ。二回1アウト走者なし、松田宣浩内野手が150キロの外角直球をとらえた打球は右翼スタンドに力強く突き刺さった。キャンプでの実戦形式を含めて、今年初めての一発だ。

 颯爽とダイヤモンドを回りチームメイトの祝福を受けた後、ベンチ横の中継カメラに向かって少し控えめに「熱男~!」を決めてみせた。

「速い球に素直にバットを出せました。オープン戦で0本塁打より、1本打って公式戦に入りたかったので打ててよかったです。熱男はカメラに向かってやろうと最初から決めていました」

 新型コロナウイルスの影響により、無観客でのオープン戦が始まってからまもなく1週間になる。福岡ソフトバンクホークスはその間に本拠地で5試合を戦った。試合中は勿論だが、特に試合前にグラウンドキーパーが整備を行っている時間は広いスタジアムから音がなくなる。グラウンドをほうきで掃く音すら、スタンド最上段にある記者席にいても聞こえてくる。

 慣れてくるものかと思っていたが、違和感はなかなか消えない。

 それは選手たちも同じだ。ファンは野球を見たいし、選手たちだってプレーを見てもらいたい。この日先発した石川柊太投手は「ピンチの場面で本来ならば、ガっと気持ちが入らないといけない。無観客だとアドレナリンを出すのが難しいと感じました」と話していた。

せっかくのプロ野球だから、楽しもう

 ただ、現状を嘆いていても、事が好転するわけではない。

 せっかくのプロ野球だ。どんな状況であれ、楽しまなければ損だ。

 無観客試合だからこそ「野球の音」を楽しんでいるというファンの声も散見される。バットとボールの衝撃音、ミットにボールが収まる迫力、スライディングだって結構な音がする。

 そして、「プロ野球選手も結構声を出しているんだ」と耳にする機会も多い。

 少年野球や大人の草野球と何ら変わりない。むしろ、プロはそのような基本もしっかり行っている。これは子どもたちに知ってもらいたい。たとえ野球をやらない子どもたちにだって、輝かしい舞台裏で“本当のプロ”は、こういうところまで懸命にやっているんだということを感じてもらいたい。

グラウンドで松田は何を発している?

 そして、12球団の中でもホークスの選手たちはよく声を出している。その中のナンバーワンはやはり松田だ。

 三塁守備の時、投手が1球投げるたびに何かしら声を上げている。

 初回の立ち上がりならば「さあ、入り、入りー!」

 先輩の和田毅が投げているときも「テンポ、テンポ、テンポ」と遠慮はしない。和田もそれに乗せられてリズムよく投げていく。

 ヤクルト戦で嶋基宏捕手が打席に入ると、「バッター福岡好きやで、バッター!」と個人的趣向まで把握してヤジを飛ばすシーンもあった。

 3アウトチェンジになってベンチに戻る時には「点とるよー!」と味方を鼓舞する。

 そして、自分が打席に立ち、絶好球を打ち損じてファウルにしたときは「あー、くそ」と声を上げて悔しがる。

 あの声のボリュームならば、おそらく中継を通しても耳にすることが出来たはずだ。

 それに呼応するように、ホークスの若い選手たちの声はどんどん大きくなっていく。松田というプレーヤーが、侍ジャパンという最高峰においてもムードメーカーとして重宝される理由が、このオープン戦の中継を見ているだけで理解出来るはずだ。

新コール「スリー、ツー」の理由

 また、今季のホークスには新しいルールができた。

 味方打者が3ボール2ストライクとなると、ホークスのベンチからは大声が上がる。

「スリー、ツー!!!」

 発案者は松田だった。

「去年まではフルカウント!って言ってたんですけど、スリーツーの方が、音が伸びて声を出しやすいでしょ」

 無観客試合はもうしばらく続く。まだ先が見えない日々が続くが、プロ野球選手たちは3月20日のシーズン開幕日がやってくることを想定して、そして超満員のファンの大歓声を浴びながら全力プレーを見せられることを信じて、最善の準備とアピールを続けている。

 めいっぱい声を張り上げながらプロ野球を楽しむ日が戻るまでもう少し我慢が必要だが、今は違った視点でプロ野球を楽しもう。せっかくのプロ野球なのだから。

スポーツライター

1978年8月18日生まれ、熊本市出身。法政大学在学時に「スポーツ法政新聞」に所属しマスコミの世界を志す。卒業後、2年半のホークス球団誌編集者を経てフリーに。現在は「Number web」「文春野球」「NewsPicks」にて連載。ホークス球団公式サイトへの寄稿や、デイリースポーツ新聞社特約記者も務める。また、毎年1月には千賀(ソフトバンク)ら数多くのプロ野球選手をはじめソフトボールの上野由岐子投手が参加する「鴻江スポーツアカデミー」合宿の運営サポートをライフワークとしている。2020年は上野投手、菅野投手(巨人)、千賀投手が顔を揃えた。

田尻耕太郎の最近の記事