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注目集める育成の新星、ソフトバンク尾形崇斗が追求する千賀が投げた「あの1球」

田尻耕太郎スポーツライター
ソフトバンクの尾形崇斗投手(昨年11月・筆者撮影)

「分かっていても打たれない」

 背番号3桁からのサクセスストーリーが、今年も福岡ソフトバンクホークスから生まれそうだ。

 背番号120の尾形崇斗投手。高卒3年目の右腕は今春のキャンプでA組に抜てきされている。2月3日に行われたフリー打撃に打撃投手として登板。まずは一軍で昨季93試合に出場した高田知季と対戦した。球種を伝えて投げる練習にもかかわらず2球目に空振りを奪うと、4球目から8球目は前に飛ばないファウル。その間にバットを1本へし折った。19球を投げて安打性はゼロだった。続く「同じ育成なのでめちゃくちゃ意識した」という砂川リチャードには1本だけ左翼越えの当たりを打たれたが許した安打性はそれだけ。お返しとばかりに今度もバットを1本折った。

 尾形の魅力はストレートだ。阪神の藤川球児が全盛期に投げていた「火の玉ストレート」を彷彿とさせる。

 昨季は驚異的な奪三振能力を発揮した。三軍戦で58.2投球回に対して奪った三振が86を数えた。独立リーグや社会人が主な相手だったためにイマイチ高い評価を得られなかったが、昨年10月の秋季教育リーグ「フェニックスリーグ」でもNPBの未来のホープ相手に、さらに一段階上の投球をしてみせた。計6試合にすべてリリーフで登板し、8イニングを投げて被安打1無四球無失点、18奪三振を記録した。奪三振率に換算して「20.25」という異次元の数値を叩き出したのだ。

 その後、台湾で行われたアジア・ウインターベースボールリーグでの武者修行でも、10試合に投げて3セーブを挙げ、防御率0.77。11回2/3で23三振を奪い、奪三振率は「17.74」をマークした。

「分かっていても打たれないストレートが理想です」

 入団時からその想いは一貫している。それがどんなボールなのか、ずっと漠然と描いていたものが具体的に見つかった。それは昨年10月11日、クライマックスシリーズ・ファイナル第3戦でチームの先輩である千賀滉大が投じた、ある1球だった。

映像を何度も見返し、モチベーションに

 この日の千賀は絶好調だった。CSファーストの第1戦に投げて敗れた後、中5日のあいだにフォームを修正して臨んでいた。ゼロ行進で迎えた五回裏2アウト走者なし、打席の秋山翔吾を追い込んで投じた勝負球の1球に、尾形は魅せられたのだった。

 左打者の胸元をつく、内角高めのストレート。155キロを計測したその球で見事空振り三振を奪った。

「1ミリも落ちないような球筋でした。球団から配布されているスマホには選手専用のアプリが入っていて映像が見れるので、夜な夜な見ています。何度も見てイメージをする。こんなボールを投げたいというモチベーションにしています」

 ホークス宮崎春季キャンプは6日から第2クール。実戦的なメニューがどんどん増えていく。尾形にとって毎日が生き残るための・・・いや這い上がるための戦いだ。シーズンまでの支配下登録、そして開幕一軍入りへ。理想とするストレートを投げる舞台は、今年はタマスタ筑後ではない。PayPayドームのマウンドだ。

スポーツライター

1978年8月18日生まれ、熊本市出身。法政大学在学時に「スポーツ法政新聞」に所属しマスコミの世界を志す。卒業後、2年半のホークス球団誌編集者を経てフリーに。現在は「Number web」「文春野球」「NewsPicks」にて連載。ホークス球団公式サイトへの寄稿や、デイリースポーツ新聞社特約記者も務める。また、毎年1月には千賀(ソフトバンク)ら数多くのプロ野球選手をはじめソフトボールの上野由岐子投手が参加する「鴻江スポーツアカデミー」合宿の運営サポートをライフワークとしている。2020年は上野投手、菅野投手(巨人)、千賀投手が顔を揃えた。

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