Yahoo!ニュース

育成選手に迫るタイムリミット。ホークス笠原大芽「やっぱり野球をやりたい」

田尻耕太郎スポーツライター
今月中に吉報は届くか(筆者撮影・写真は今年4月のもの)

一軍見学の中に見た姿

 7月5日のヤフオクドーム。藤本博史三軍監督の発案により、三軍の選手17名が一軍の試合前練習とナイターの楽天戦を見学した。「一軍のプロ野球の試合を球場で観たのは初めてでした」と話したのは2年目のドラ1右腕吉住晴斗。ルーキーの野村大樹は早実の大先輩になる王貞治球団会長に直接激励されて緊張の表情を浮かべていた。

「今は親子試合がない。この雰囲気を味わってほしかった」と藤本三軍監督。普段の筑後とはまるで別世界を体感してポカンとした表情を浮かべる若鷹たちはとても初々しかった。

 その一方で、複雑な表情でグラウンドを眺める選手たちもいた。現在の三軍には、かつて一軍の試合に出場した経験をもつ選手もいる。

 笠原大芽もその一人だ。

3年前には二軍タイトル、2年前には一軍登板も

 ‘12年ドラフト5位で福岡工大城東高から入団した地元出身選手。4年目の‘16年にはウエスタン・リーグで22試合に登板して、リーグ最多の128.1回を投げた。9勝と118奪三振でリーグ投手2冠に輝き、防御率2.52はリーグ3位。翌年に一軍デビューを果たして6試合に登板した。

 つまり、将来の有望株として期待をされて本当の意味でプロ野球選手としての戦いをスタートしたのが、わずか2年前のことだったのだ。だが、昨季は一軍登板1試合のみ。すると昨オフ、笠原は戦力外通告を受けたのだ。そして球団からは育成選手としての再契約を打診された。

「育成ではやりたくないという気持ちは正直ありました。でも、自然と『はい、お願いします』と言っていました。やっぱり野球をやりたいという気持ちがどこか勝(まさ)っていたんでしょうね」

球速は着実にアップ

 背番号は63から130へ、倍以上も大きくなった。

 育成選手の主戦場は三軍だ。対戦相手は独立リーグや社会人が主体となる。実績では頭一つ以上抜け出ている笠原のピッチングを今季何度か見たが、やはり格が違っていた。直球のスピードもキレも、鋭いスライダーも衰えているわけではない。特にストレートは今季最速146キロをマークしたという。一軍で投げていた頃は「なかなか140キロ出ないんですよ~」と嘆いていた。明らかに力をつけている。三軍での今季戦績は12試合登板、5勝1敗、防御率2.57だ。

「真っ直ぐは確かに速くなっています。ここから這い上がっていく中では先発だけじゃなくて中継ぎもやって行く必要がある。強い球を求められる。今まで以上に強く腕を振ることを意識するようになって変わってきました」

7日広島戦で1か月ぶり公式戦登板

 7月7日、この日はウエスタン・リーグの広島戦(タマスタ筑後)で登板をした。6月5日以来、およそ1か月ぶりの公式戦のマウンドだった。

「三軍の練習試合でしたが、ほぼ二軍メンバーの阪神戦(6月25日、鳴尾浜)で抑えていましたから」

 若虎打線を相手に先発で7回6安打1失点を好投していた。その自信をもって臨んだ七夕の広島戦も、七回表の1イニングを三者凡退で仕留めてみせた。直球の最速は145キロをマークした。

 今季中の支配下登録の期限は7月31日だ。もう1か月を切っている。

「現実的には厳しいかもしれない。だけど、そこを諦めたらいけない」

 迫るタイムリミット。焦る気持ちを押し殺すように、笠原はいつもと変わらぬ冷静な口調で決意を述べた。

スポーツライター

1978年8月18日生まれ、熊本市出身。法政大学在学時に「スポーツ法政新聞」に所属しマスコミの世界を志す。卒業後、2年半のホークス球団誌編集者を経てフリーに。現在は「Number web」「文春野球」「NewsPicks」にて連載。ホークス球団公式サイトへの寄稿や、デイリースポーツ新聞社特約記者も務める。また、毎年1月には千賀(ソフトバンク)ら数多くのプロ野球選手をはじめソフトボールの上野由岐子投手が参加する「鴻江スポーツアカデミー」合宿の運営サポートをライフワークとしている。2020年は上野投手、菅野投手(巨人)、千賀投手が顔を揃えた。

田尻耕太郎の最近の記事