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リバプールのCL優勝は「新たなスタート」。英紙記者に聞く、欧州制覇の「価値と今後」

田嶋コウスケ英国在住ライター・翻訳家
CLのトロフィーを掲げるリバプールのユルゲン・クロップ監督。(写真:ロイター/アフロ)

欧州チャンピオンズリーグ(CL)でリバプールが頂点に立った。クラブ通算6度目となる欧州制覇を現地記者はどのように見ているのか。そして、今後どのような影響を及ぼすのか──。英紙『サンデー・タイムズ』でサッカーの主筆を務めるジョナサン・ノースクロフト記者に話を聞いた。

──CL決勝でトッテナムを下し、リバプールが欧州の頂点に立ちました。

「今回の優勝は、リバプールにとって極めて大きな意味を持つ。まず、15年10月に就任したユルゲン・クロップ監督にとって、リバプールで獲得した初のタイトルになる。CL戴冠で、クロップ体制が正しい方向に進んでいることを証明できた。そして、もうひとつ重要なのが、オーナーグループの『フェンウェイ・スポーツ・グループ』の存在。10年にリバプールを買収した米国企業の彼らにとっても、初のビッグタイトル獲得になる。ヨーロッパの頂点に立ったことで、オーナー陣は今後クロップをいっそう信頼するだろう」

──リバプールは12年にリーグカップのタイトルを獲得していますが、その価値は当然、比べ物になりません。

「そのとおり。今後、オーナー陣は躊躇することなく選手補強にも資金を投下するだろう。さらに、彼らはクロップとの契約延長も望んでいる。クロップはリバプールと22年までの契約を交わしているが、CL優勝でその先を見据えるようになったということだ。クロップも契約を延長するとわたしは見ているし、今回のCL優勝でクロップとオーナー陣の絆はいっそう深まった。しかも、チームには若手も多く、黄金時代の到来を予感させる。CL制覇で、リバプールは新たなスタートを切った」

──05年のCL優勝時とチームの雰囲気は違いますか?

「当時も選手たちの雰囲気は最高潮に達したが、大きく異なるのが監督とオーナーの関係だ。わたしは、リバプールが決勝に進出した05年と07年のCLファイナルも現地で取材しているが、いずれもラファエル・ベニテス監督(当時)と旧経営陣の間に埋めがたい亀裂があった。特に、07年にチームを買収した旧経営陣ジョージ・ジレット&トム・ヒックスとの関係は最悪だった。ベニテスは選手補強の必要性を訴えていたが、ビジネス主導の米国人オーナーは首を縦に振ることはなかった。サポートがないことに、当然ベニテスは不満を募らせた。ところが今回は、当時とまったく様子が違う。決勝後のピッチ上で、監督、オーナー陣、CEOが揃って優勝を祝福していた。現体制のリバプールが、順調に航海を進めていることを示すシーンだった」

──欧州の頂点まで導いたクロップの功績はやはり大きい。

「極めて大きい。クロップがいなければリバプールは頂点に立てなかった。それは間違いないだろう。例えば、CL準決勝の第2戦。試合前、クロップは印象的な言葉で選手をピッチに送り出している。『普通なら逆転勝利は不可能だろう。だが、君たちなら逆転のチャンスはある。君たちなら』と。指揮官の言葉に選手たちは奮起し、逆転勝利につなげた」

──CL制覇する上で、ターニングポイントになった試合は?

「バルセロナに4−0で勝利した準決勝・第2戦が最も大事な試合だったが、0−3で敗れた第1戦でも勝負の分かれ目があった。試合の終盤、バルセロナのウスマン・デンベレがビッグチャンスを外しましたよね。カンプノウでデンベレのゴールが決まり4−0にされていたら、リバプールがアンフィールドで奇跡の逆転勝利を挙げることはなかったでしょう。もうひとつは、グループリーグ(GL)最終節のナポリ戦。勝利する以外にGL突破はなかったが、試合の終盤、ナポリにビッグチャンスが訪れた。しかし、GKアリソン・ベッカーが神がかったファインセーブでこのピンチを防いだ。あのチャンスを決められていたらGLで敗退していただけに、ナポリ戦も大事なターニングポイントのひとつだ」

──今季CLでリバプールのMVPは?

「多くの選手が優勝に貢献したので、ひとりだけを選ぶのは非常に難しい。まず、FWサディオ・マネ、DFトレント・アレクサンダー・アーノルド、GKアリソン、DFフィルジル・ファン・ダイクの4人を挙げたい。その中からあえて選ぶとすればアリソンだ。さきほど述べたように、ナポリ戦のセーブがなければ、リバプールはGLで敗退していた。さらに、バルセロナとの準決勝・第2戦でもスーパーセーブを連発。トッテナムとの決勝でも、アリソンの落ち着いたセーブが戴冠の原動力になった。振り返れば、昨シーズンのCL決勝では、GKが足を引っ張った。決勝でGKロリス・カリウスが2つの致命的なミスをして敗れたが、今回はアリソンが力強いパフォーマンスで守備を支えた。GKとしては史上最高額となる6700万ポンド(約92億円)の移籍金を費やしたが、その価値は十分すぎるほどあったということだ」

英国在住ライター・翻訳家

1976年生まれ。埼玉県さいたま市出身。中央大学卒。2001年より英国ロンドン在住。香川真司のマンチェスター・ユナイテッド移籍にあわせ、2012〜14年までは英国マンチェスター在住。ワールドサッカーダイジェスト(本誌)やスポーツナビ、Number、Goal.com、AERAdot. などでサッカーを中心に執筆と翻訳に精を出す。

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