ウォルバーハンプトン監督「中島? 知らない選手だ」。在英記者が見る、中島翔哉・プレミア移籍報道

プレミアリーグ・ウォルバーハンプトンへの移籍が取り沙汰されている中島翔哉。(写真:ムツ・カワモリ/アフロ)

「中島は80%ウォルバーハンプトンの選手だ──」

ポルトガル1部のポルティモネンセのサンパイオ会長が、日本代表MF中島翔哉の去就についてこのように語ったと報じられたのは、英国時間12月6日のことだった。クラブを取り仕切る会長の口から、移籍交渉が最終段階だと明かされたことで、この冬に中島がプレミアリーグ・ウォルバーハンプトン(以下、ウルブス)に移籍する可能性が一気に高まった。

ところが、12月9日に行われたプレミアリーグ第16節のニューカッスル対ウルブス戦後の記者会見で、ウルブスのヌーノ・エスピーリト・サント監督が、中島の獲得報道を否定した。記者会見における日本人記者とのやり取りは以下の通りである。

ー日本代表MF中島翔哉のウルブス移籍の可能性が伝えられた。中島に興味があるのか。

(ヌーノ監督)「それは噂。噂である。これから1月の移籍期間にかけて、我われと色々な選手を結びつける噂がこれからも出てくるだろう。だから、語らない」

ー中島という選手を知っているか?

(ヌーノ監督)「知らない選手だ。そして、これは“噂”ではない(笑)」

文字として読み進めると、ヌーノ監督が移籍交渉について多くを語らないようにしているとも受け取れる。実際、所属先のポルティモネンセが設定する中島の違約金は3500万ポンド(約50億円)で、ウルブスがオファーしたとされる1700万ポンド(約24億円)とは倍近い開きがある。交渉に悪影響が出ないように、指揮官がごまかした可能性はゼロではない。

しかし、取材時の雰囲気では、ヌーノ監督が記者の質問を煙に巻いたようには思えなかった。特に、ひっかかったのは、「中島? 知らない選手だ。そして、これは噂ではない(笑)」のくだり。中島を「知らない」とした上で、「自分が中島を知らないことは噂ではない」と笑みを浮かべて釘をさした。そして、この言葉を発した後、会見場は笑いに包まれた。ヌーノ監督の話しぶりと表情を見ても、数多く飛び交う移籍の噂のひとつとして、中島の報道を否定したと、そんな印象を抱いた。

ひとつだけ確かなのは、ポルティモネンセのサンパイオ会長とウルブスのヌーノ監督のどちらかが、嘘をついていることである。ポルティモネンセ側としては、レスターやサウサンプトン、ドルトムント、アトレティコ・マドリードが興味を持っているとされる中島を少しでも高く売りたいのが本音だろう。商談戦略として、ウルブスの名前をあえて出した可能性もある。しかも、イングランドの市場閉幕日は1月末。ここまで交渉を引っ張っても良いわけだ。

一方、ウルブス側はどうか。中島の獲得に本腰を入れているのが事実で、ヌーノ監督は会見で沈黙を貫いたのか。仮にそうだとしたら、44歳のポルトガル人指揮官は、なかなかの千両役者である。あるいは、指揮官の言葉通り、ウルブスはまったく中島の獲得に動いていないのかもしれない。要するに、あらゆる可能性とシナリオが点在しており、すべてはまだ闇のままということだ。

移籍交渉は「契約書にサインするまで油断できない」とよく言われる。契約寸前で破談になることもあれば、市場閉幕日に突然、契約が成立することもある。すべてが水面下で行われ、契約書にサインした時点で初めて公になる。中島のケースについても、まだまだ注意深く見守る必要があるだろう。

ただ、今回の移籍報道を受け、筆者は地元ウォルバーハンプトンの番記者、ラジオレポーターの合計3名に話を聞いてみた。驚くことに、3人の全員が「中島のことは知らない。プレーを見たことがない」と口を揃え、むしろ「どんな選手だ?」と逆取材してきた。さらに、その内の2名は、ウルブスが中島の獲得に動いている報道すら知らなかった。

たしかに、英国では全国紙デーリー・メールが中島移籍の可能性を伝えているが、これもポルトガルメディアの記事を転載したものにすぎない。デーリー・メール紙が独自に取材したものではなく、「過熱するポルトガル&日本発の報道」と、英国のメディアのそれとの間に、大きな温度差があるのは事実だ。

実際、本校執筆時点で、記者会見におけるヌーノ監督の談話を取り上げた英メディアは皆無である。移籍の可能性を嗅ぎつけていれば、彼らも間違いなく記事にしているはずだ。

それでも、たったひとつの発言やニュースで一気に風向きが変わるのが、移籍報道の難しさでもある。はたして、どう推移していくのか──。今後の動向を注意深く見守っていきたい。