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「あわや失点」の危険な場面に関与。足踏み続く武藤嘉紀とニューカッスル

田嶋コウスケ英国在住ライター・翻訳家
ラファエル・ベニテス監督から指示を受ける武藤嘉紀(写真:アフロ)

ニューカッスルが、暗いトンネルから抜け出せない。

9月22日に行われたプレミアリーグ第6節のクリスタル・パレス戦を0−0で終え、またしても今シーズン初勝利はお預けとなった。この結果、6節までの成績は2分4敗の18位──。早くも、チームに危機感が漂い始めている。

もっとも、これまでは強豪との対戦が続いたという言い訳があった。トッテナム(1節)、チェルシー(3節)、マンチェスターC(4節)、アーセナル(5節)といった上位陣との戦いが続き、戦力で劣るニューカッスルはスケジュールの点で難しさがあった。

しかし、仕切り直しとなるはずのクリスタル・パレス戦で露呈したのは、チームの力不足だった。クリスタル・パレスにボールを握られ、チャンスの山を築かれる。堅守速攻を志向するラファエル・ベニテス監督だが、ボールを渡してカウンターを狙うという前向きな展開ではなく、単純に相手に押し込まれる苦しい試合になった。なんとか0−0で終えて勝ち点1を掴むことができたのは、間違いなく幸運だったと言えよう。

そして、日本代表FWの武藤嘉紀は6試合連続となるベンチスタートで、こちらもレギュラー陣の壁を打ち破れていない。後半36分から2トップの一角として途中出場したものの、チャンスに絡むことなく試合を終えた。本人は「最初からうまくいくと思ってプレミアリーグに来たわけではない」と語っているが、チームも武藤も足踏みが続いている状況だ。

苦況のチームについて、武藤は次のように語る。

「(格上との対戦が続いた)この前までは縦にボンと蹴ってセンターフォワード(CF)に収める感じだったが、この試合から相手が下のチームになり、しっかりつないでいくサッカーになった。そして、カウンターも狙っていく感じで。

でも、みんな焦ってしまい、前につなげなくなった。あれをやり続けてしまうと、ボールも保持されるし、フラストレーションもたまる。みんながイライラしてしまうので、そこは修正していかないといけない。

内容的に良くなかった。相手の方がアグレッシブに戦えていた。加えて、自分たちはプレーが良くないにもかかわらず、走ったり、ガッツみたいなものが全然感じられなかった。そういうプレーをしてしまうと次にもつながらないし、チームの雰囲気も悪くなる」

武藤としても、難しい試合になった。

「とにかくアグレッシブに行け」とベニテス監督から指示を受けて入ったが、チームの劣勢が続き、前線に残っても良い形でパスが入らなかった。「ずっと押し込まれていたので厳しかった。得点を決めたかったけど、チャンスらしいチャンスがなかった」と悔しそうな表情を浮かべた。

むしろ本人の意に反して目立ったのは、投入から2分後に訪れた相手の決定機の場面だった。

武藤が自陣コーナーエリア付近でボールを持つと、マーカーをドリブルでかわそうと試みる。しかし、クリスタル・パレスのアンドロス・タウンゼントに不用意な形でボールを奪われ、クロスボールを上げられた。フリーで打ったママドゥ・サコーのヘディングシュートが、わずかにゴール右にそれたことで命拾いしたが、「あわや失点」という危険なシーンを作ってしまった。

試合終了間際の後半38分という時間帯の判断ミスに、周囲の選手たちは一斉に「前へシンプルにクリアしろ」と、武藤を激しく叱責していた。日本代表FWも「あそこは簡単にやるべきだった。失点してもおかしくなかった。本当に失点しなくて幸いでした。(自分としては)前に誰もいないのに蹴ってしまっても…という考えがあった。でも、あのようなミスは絶対にしてはいけない」と猛省した。

そんな武藤に対し、指揮官のベニテス監督は、プレミアリーグのプレースタイルに慣れることが必要だと説いた。プレミアリーグはマーカーの当たりが激しいことで知られるが、対照的にレフェリーはファウルを極力とらない。球際で体をぶつけられても、簡単には倒れずプレーを続ける。あるいは、ファウルを要求するために自分の動きを止めてならない。

スペイン人指揮官は、武藤について次のように指摘する。

「練習で見ているとムーブメントやパスなどのプレー自体は悪くないが、今日の試合でも数回あったように、倒されてファウルをもらえなかった際に、腕を広げて不満そうにレフェリーに抗議していた。ムトウは異なるリーグにいることを理解し、プレミアリーグに慣れていかないといけない。このリーグに慣れるのに6カ月や1年かかる選手もいれば、1カ月でフィットする選手もいる。彼は練習の時と同じように、よりポジティブにならなければならない」

武藤としては戦いの場がブンデスリーガからプレミアリーグに移り、審判の判定基準やリスク管理の違いを習得する必要がある。今回のような苦い経験を成長の糧にしなければならない。

そして、ニューカッスルの次節は29日に行われるレスター戦だ。ここで名誉挽回となるゴールを決めれば、序列にも変化が生じるだろう。岡崎慎司が所属するレスター戦に向け、武藤は次のように意気込みを語る。

「レスターは戦えるチーム。そして、自分たちよりもハードワークができるチームです。ニューカッスルはアグレッシブさが足りないので、チームのために身を削るプレーをレスター戦で見せたい。

どういうスタメンになるか分からないですけど、岡崎選手を擁するレスターとの戦いなので、自分がそこでしっかり活躍して、『ニューカッスルにも良い日本人がいるんだぞ』というところを見せたい。もし自分が出たときはスタミナを残すという風には思わず、アグレッシブさだったり、とにかく全てを出し切るプレーをしたいです」

果たして、武藤は日本人ダービーでインパクトを残すことができるか。注目のニューカッスル対レスター戦は、英国時間29日の午後3時キックオフだ。

英国在住ライター・翻訳家

1976年生まれ。埼玉県さいたま市出身。中央大学卒。2001年より英国ロンドン在住。香川真司のマンチェスター・ユナイテッド移籍にあわせ、2012〜14年までは英国マンチェスター在住。ワールドサッカーダイジェスト(本誌)やスポーツナビ、Number、Goal.com、AERAdot. などでサッカーを中心に執筆と翻訳に精を出す。

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