初戦で自己最速の147キロ。“無名”の二本松工・吉羽あたるが与えた衝撃

吉羽あたる。名前はひらがなで「あたる」である。

その名には、「いいことが当たるように」という両親の想いが込められているそうだ。“キラキラネーム”が半ば容認されつつある昨今ではあるが、珍しいといえば珍しい。

「小さい頃からからかわれるようなことはありませんでしたけど、やっぱり漢字がよかったかなってちょっと思います」

そう言って、屈託のない笑顔を見せる。

この、どこか可愛げのある名を持つ二本松工のエースが、福島大会で強烈なインパクトを残した。

7月12日、安達東・川俣の連合チームとの初戦。先頭打者への2球目で146キロを計測すると、直後の3球目で見逃し三振に打ち取ったボールでさらに観衆を黙らせた。

147キロ。

プロ野球のスカウトなど誰ひとり来ていない。報道陣もほとんどが地元メディア。幸運にも、ただひとりこの試合の取材に訪れたスポーツ紙の記者が、「すごいですね! 今日、来てよかったです」と色めき立つ。

吉羽のパフォーマンスは、それほどまでに衝撃的だったのだ。

2回以降も、ストレートは140キロ前後をコンスタントに計測。球場のスピードガンが、「80キロ」「90キロ」と“誤表示”を繰り返していたことから、「147キロもそうなんじゃないか?」と疑心暗鬼にかられる記者もいたが、6回にも146キロ。9回にも144キロを叩き出し、その快速球が偶然ではないことを吉羽は証明してみせた。

1対0で初戦を突破。被安打わずか3、自己最多の12奪三振と、圧巻のパフォーマンスを見せつけての完封劇で試合を締めくくった吉羽は、試合後、興奮が冷めていないのか、こうまくし立てた。

「僕が入ってから2年連続で初戦敗退だったんで絶対に勝ちたくて。だから、初回から全力で投げました。追い込んだら三振を狙いましたね。『真っ直ぐを投げてくる』と相手にバレても思いっきりいきました」

福島ホープスに所属する先輩の助言で大きく飛躍する

147キロのストレートを投げるほどの逸材である。今頃といっては語弊があるかもしれないが、もっと早い段階で注目を浴びていてもおかしくはなかったはずだ。

二本松工の橋本紀彦監督は、「それはですね」と切り出し、理由を説明してくれた。

「去年の夏からいいものは持っていましたよ。でも、吉羽と同じくらいの力を持つピッチャーが3年生にもいたもんで。監督としてはやはり、3年間、頑張ってきた選手を試合に出したかったものですから。残念ながら初戦で負けてしまい吉羽は投げませんでしたけど、『よし、秘密兵器のまま新チームを迎えられるぞ』とプラスに考えましたよ」

指揮官が言うように、当時の吉羽の球速は130台中盤。福島県内では速球派かもしれないが、東北レベルで評価すれば「並みの投手」。そんな吉羽が急成長するきっかけをくれたのが、現在BCリーグ・福島ホープスの投手で二本松工のOB、野地竜也だった。

「遠投は大事だぞ」

秋。吉羽は母校に訪れた先輩からアドバイスを受けた。

プロ野球で先発ローテーションを任される選手からすれば、遠投は欠かせない調整法であることなど当然のように理解している。力強いボールで長い距離を投げるためには肩の強さはもちろん、全身のバランスも重要となってくる。野手ならともかく、投手が力任せに投げてしまうと投球フォームが途端に乱れ、不調を誘発する恐れもある。だからこそ、彼らは遠投ではブルペン同様、自分の体と対話しながら慎重に行うのだ。

吉羽もそれを理解していた。

野地から「遠投がいいから」と言われるがまま従うのではなく、冬場のオフにはボールをほとんど投げずに30メートルダッシュを1日50本から100本を行うなど、下半身強化に努めた。その結果、90メートルほどの距離でも体のバランスを崩すことなく投げられるようになったし、春になると「スピードも出るようになったし、今までとは球質が全然よくなりました」と大きな手応えを掴んだ。

さらに、フォームの改造も功を奏した。

「三振が取れるように」と、センバツに出場した好投手たちを参考にし、大会を制した敦賀気比の平沼翔太のフォームが自分の理想形に近いと見極めた。左足を胸元まで力強く上げることで全身に力が伝わりやすくなり、球速は144キロまで伸びた。

聖光学院打線に滅多打ちされるも「あれで気持ちが楽になった」

投手として着々と能力は上がってきている。だが、吉羽がひと回りもふた回りも大きく成長を遂げられたのは、トレーニングやフォーム改造だけが要因ではなかった。

滅多打ち。

その経験が、吉羽をさらに強くした。

春季県北支部予選。決勝の聖光学院戦に登板した吉羽は5回15失点、5本塁打と相手打線の猛攻をこれでもか、というほど受けた。

本来なら自身を見失い、これまでやってきたことが「間違っている」と強迫観念に囚われ迷走してしまうところなのかもしれない。

橋本監督は「それはなかった」と断言する。

「前の年の秋に非公式戦があったんですけど、吉羽が頑張ってくれて聖光さんに善戦したんですね。春も県大会出場が決まっての対戦だったので投げさせなくてもよかったんですが、彼が、秋に負けたことが悔しかったらしく『リベンジさせてください』と言って先発を志願しまして。かなり打たれてしまいましたが、それでも『悔いを残したくない』という吉羽の想いが伝わってきましたから、これなら大丈夫だ、と」

指揮官の思惑通り、吉羽の傷は浅かった。それどころか、その試合での苦い経験を、今ではあっけらかんと話すほどである。

「悔しいというより『やられた』って感じでしたね。全国的にも強い聖光相手に投げられたこと自体がすごくいい経験だったというか、打たれるのが当たり前って気持ちでした。あの試合を経験して緊張しなくなりました。福島には聖光以上の相手はいないというか、他のチームと対戦しても『あの打線に比べれば』と思えるようになったんで、楽な気持ちでマウンドに立てるようになりました」

先輩からの助言で技術が飛躍的に伸び、夏は8連覇中の絶対王者の胸を借り、圧倒的な力を見せつけられたことで精神面も格段に逞しくなった。吉羽がこの夏、我々に強烈なインパクトを残せたのも頷ける。

次の試合は18日。県内ナンバーワン左腕の星雄太朗を擁し、打線の破壊力もあるシード校の光南が相手である。

「野球は打ったほうが勝つんで。僕は自分たちの打線を信じているし、光南には打たせない自信があります。次も全力で投げて絶対に勝ちたいです」

将来的に「大学からプロに行きたい」と、147キロ右腕は力強く目標を語る。

光南戦が、その重要な試金石となる。

自らが築き上げた快速球で、プロへの道を大きくたぐり寄せるのだ。