福島県の公式戦連勝記録が95でストップ。敗戦から見えた聖光学院の小さな慢心

来春のセンバツへの望みが絶たれたわけではない。しかし彼らは、まるで夏の県大会で敗れたかのように肩を落としていた。

試合終了直後こそ、グラウンド上では涙を見せながらも気丈に振る舞ってはいた。しかし、ベンチ裏の練習スペースへと場所を移した刹那、ほとんどの選手が泣き崩れ、しばらくの間、その場から動くことすらできない。慟哭――。彼らの嗚咽だけが空間を支配しているようだった。

福島県内の公式戦連勝記録が「95」でストップ。それは、聖光学院の選手にとって受け入れがたい現実だった。

「これ、大事件なんだよね?」

大勢の記者に囲まれた斎藤智也監督は、悔しさをにじませながらも、基本的にその表情は終始、穏やかだった。

「勝つ前提で試合をしていたわけではなかったから。少しは負けを覚悟していた部分はあったと思う」

指揮官が率直な想いを吐露したように、日大東北との秋季大会準決勝は相手のペースで試合が進行していった。

1点を先制された直後の1回裏。1死満塁のチャンスを作りながらも併殺打で無得点。4回表には2安打、3失策も絡み3点を奪われるなど劣勢は続く。4回から6回まで得点圏に走者を進め、鋭い打球も飛ばせてはいる。だが、あと1本が出ない。

結果だけを見れば、8回に1点を返すだけがやっと。1対5の完敗だった。

確かに、相手エースの大和田啓亮の投球は群を抜いていた。

序盤から最速145キロに迫る143キロの速球で相手を翻弄。スライダー、カーブを織り交ぜながら、あくまでもストレート主体の投球を披露し、その球威は9回に143キロを計測したように最後まで衰えなかった。

「大和田君という剛腕の存在。ストレートがいいことは分かっていたからね。それを捉えられなかったうちの力不足。いい当たりも少なくなかったけど、野手の正面を突く打球が多かった。気迫の差が出たんだと思う。日大東北さんの悲壮感は試合中ずっと感じていたし、気持ちの面でもうちを上回っていたということなんでしょう」

斎藤監督は、淡々と試合を振り返る。

それにしても、「負けを覚悟していた」「気持ちの面で相手が上回っていた」という指揮官の言葉は、らしくないと言えば、らしくないように思える。

何せ、県内で約5年半も負けておらず、甲子園でもベスト8進出3度も誇る全国屈指の強豪なのだ。素直に敗北を認めるには理由があってのこと。指揮官は再び口を開く。

「全国の舞台で勝てないストレス。『負けないと強くならない』という想いで戦ってきて、福島で勝ててきた現実。特に、前の代は最初こそ弱かったけど最終的に県内では負けなかった。でも、今年のチームは前の代より力があるし期待していたところもあった。別に福島を見ていなかったわけではないけど、勝ちを前提としていた考えは、心のどこかに少しはあったんだろうね」

前年は、聖光が甲子園の常連になって以降、「最弱」とも呼ばれるほど、新チーム発足時は力が足りなかったと斎藤監督は言っていた。

選手に何度も何度も、「お前たちは弱い」と説く。選手たちは「力がない」ことを認めながらも、自分たちの役割を全うすることで活路を見出した。昨秋は9試合で22犠打、11盗塁と、聖光学院の伝統でもある機動力野球で東北大会準優勝。福島で負けなかったどころか、センバツへの切符も手にした。

試合を経験するごとに強くなる。前年のチームは最終的に、2年生から4番を務めた園部聡を軸とした攻撃野球を演じられるまでにチーム力を高めることができたのだ。

弱くても勝てる――。

前年の成果が、今年の新チームではちょっとした慢心を生んでしまったのかもしれない。

メンバーで前年のレギュラークラスだった選手は、エースの石井成くらい。前年も2年生レギュラーは園部だけだったことを考えると、チームとしての公式戦経験の少なさは今年も同じといえるだろう。

ただ、今年の新チームは前年とは大きく違う。夏の県予選前の壮行試合で3年生を中心としたAチーム(一軍)に勝った実績がある。斎藤監督も「力がある」と期待感を込めるのも当然と言えるだろう。

ただ、一抹の不安もあった。

それが、日大東北の大和田という存在。チームの懸念材料を指揮官はこう話す。

「新チームのピッチャーのなかには大和田君のような豪腕がいないから、速いボールを打つことに慣れていなかった」

敗戦試合の総括、新チームの期待と懸念。斎藤監督の言葉から結論付ければ、こうも受け取れる。

聖光学院は、負けるべくして負けたのかもしれない、と。

とはいえ、県内公式戦95連勝の価値はあまりにも大きい。

聖光学院の敗戦がもたらした最大の功績。それは、福島県内のレベルを格段に上げたことだろう。

最強王者に5年半ぶりに土をつけた日大東北の中村猛安監督は、勝ってなお聖光学院に最大限の敬意を払う。

「福島のレベルを上げてくれたのは、間違いなく聖光さんです。私たちは、聖光さんに追いつき追い越せという意識で、普段の練習から『まだまだ』と思いながら選手たちも頑張り、勝つことができました。今回は大金星ですが、選手も私も、今後へ向けて大きな自信になったのは間違いありません」

打倒聖光――。近年、県内のライバル校たちはその目標を胸に研鑽を積んできた。

「僕は、聖光を倒すために日大東北に来ました」と強い語調で話す大和田をはじめ、県内の有力選手たちは皆、「聖光を倒したい」と絶対王者に牙を剥き続けていたのだ。

その結果、日大東北が聖光学院を倒した。大和田は言う。

「大きな目標を達成できたことは嬉しいです。でも、今度は聖光を倒したチームとして、それに恥じないような試合をしなくちゃいけないです。県内だけではなく、全国的にも勝てるチームにしていきたいです」

斎藤監督は、これまでの連勝記録をこのように振り返った。

「ずっと言っていたことだけど、連勝記録に関してはそこまで興味がなかった。個人的に本音を言えば、100連勝を励みにしていた部分はあったけど、だからといってそこに重点を置いて戦っていたわけではないから。1年ごとにチームは変わる。そのなかで、選手たちに連勝という十字架を背負わせたくなかった。そういう意味から言えば、記録がストップしてすっきりしているかもしれないね」

聖光学院にとっては、また「1」からの再スタートを切ることになる。

斎藤監督は言う。

「いい仕切り直しになればいいよね。自分自身、足元を見つめ直しているつもりだけど、それを選手たちにも意識させて。日大東北さんはじめ、他のチームとも、また互いに火をつけ合っていきたい」

もう一度、地に足をつけ、根を生やそう。太く長い根はいつか、再び巨木となり、聳え立つ。