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旧統一教会のチャリティバザー、偽ボランティアの生々しい裏側を暴く 善意を前面に出して近づく魔の手

多田文明詐欺・悪徳商法に詳しいジャーナリスト
(写真:イメージマート)

世界平和統一家庭連合(旧統一教会)から、全国の自治体にお金が寄付されていた実態が明らかになっています。地域住民の福祉の推進を図る、社会福祉協議会への寄付も目立ちます。かなりの数になるとみられ、組織として何らかの指示や意図を持って行われている可能性もあります。

なぜこうした寄付が行われて、教団の目的は何なのでしょうか。

今回、寄付を受けた社会福祉協議会への取材とともに、信者時代、中で行われていたチャリティバザーや偽ボランティアの実態からみえてくる、その理由と目的をお話しします。

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善意を前面に出された形での寄付は断りにくい

今月に入り、筆者が一時期、所属していた仙台の旧統一教会から、仙台市社会福祉協議会への寄付があったとの報道があり、急ぎ取材しました。

寄付は世界平和統一家庭連合(旧統一教会)の仙台家庭教会の壮年部からで、仙台市社会福祉協議会によると「バザーの収益金の寄付として、2017年10月に2万9980円、18年2月に3万8645円、19年10月に4万490円の3回で合計10万9115円を受けています。当時、旧統一教会の認識はあったものの、寄付という善意なので断る理由がありませんでした」との答えでした。

この辺りが巧妙なのですが、相手先の団体が霊感商法を過去に行い、甚大な消費者被害を起こした旧統一教会であるとわかっていても、「寄付」という善意を前面に出されるために、断りづらい状況になるのです。

2020年10月佐世保市社会福祉協議会のもとには、世界平和統一家庭連合佐世保家庭教会から、約4万円が寄付されています。同社会福祉協議会によると「チャリティバザーを開催した益金とのことでした。ただ、どんなチャリティを行っていたのか。その詳細までは把握していません」との答えでした。

どうしても善意の行為を疑い、その内容を聞くこと自体が「良くないこと」と思ってしまいがちです。

それゆえ、詳細を尋ねることに躊躇してしまいます。まさにその点を突かれて、寄付を受け取ってしまったといえます。

この他にも、21年11月、香芝市社会福祉協議会は、世界平和統一家庭連合かつらぎ家庭教会より、チャリティバザーによる17万円の寄付を受けています。

この額はなかなか多いとの印象を受けますが、ここでは「SDGs」を謳っていることもあり、多くの人がやって来て、それだけバザーでの収益があったということでしょう。

取材したのは一部あり、報道によると、この他の全国の社会福祉協議会にも同様な寄付がなされています。

募金・寄付・ボランティアは昔から続く、旧統一教会の手口

知っておいてほしいのは、寄付、ボランティアなど、善意を前面に出した形での活動は、旧統一教会において昔から得意とするところだということです。過去には、街頭での偽募金活動や、筆者のいた教団では「しんぜん会」という団体を名乗っての偽ボランティア活動をしていました。

信者時代、同じグループの人たちとともに「しんぜん会というボランティア団体です。寄付をお願いします」と一件一件、家を訪問した経験があります。

実際に、この団体は都内に存在します。そしてこの団体に所属しているという身分証も一人一人に手渡されています。訪れた先の家人が、もしこの会の存在を疑った時には、身分証を見せて信じさせます。そして同会が発行する冊子などを見せながら「車椅子を寄贈するために、寄付を募っています。ご協力、願えませんか?」と言うように言われます。

そして、ハンカチや靴下などの購入を勧めますが、これらの仕入れ値はさほどしないものです。ハンカチ3枚を袋につめて数千円で売ります。一日行えば、1万円以上は集められます。もちろん、もっと売り上げを出す人もいます。

なかには、募金と聞いた人が、これまで貯めていた貯金箱を渡してくれることもあります。それは必ず受け取るようにとの指示がありました。

当時、それを10数人のグループで行っていました。土日は、街頭に出ての伝道活動ですので、たいがい平日を中心に行われます。一人、一日1万円として計算しても、週に100万円以上のお金は集められることになります。

お金のほとんどは、献金に回される

ある時、上の人に「この集めたお金はどうするのですか?」と聞いたことがあります。すると「今月は借金で献金した分の返済が厳しいからな。ほとんどはそっちに回して、あとは、ホーム(教団の施設)の家賃などにあてることになるかな」と言われたこともあります。

このお金がボランティア団体である「しんぜん会」本体に行くことは、まずありません。すべてのお金は所属する組織の上層部にあげられるわけです。

このように、ボランティアという名の下でお金を集めるのは、以前から旧統一教会の得意とするところです。「善意」を前面に出すことで、訪問した先の相手を断れない状況に追い込んでいくわけです。心根の優しい人ほど、お金を出してしまいます。

チャリティバザーは頻繁に開かれる。なぜ?

善意を前面に出す手口は、これだけではありません。筆者のいたところでは、チャリティバザーを頻繁にしていました。なぜ、それだけ頻繁にできるのかといえば、献身(出家)する信者が次々に出ていたからです。

彼らは身も心も神に捧げて、ホームと呼ばれる教団施設に住み込み、伝道と経済(お金集め)の活動をします。衣服などの最低限の持ち物以外は、教義上、神のもとに手放さなければなりません。それで持っている家具や机など、金目になりそうなものは、すべてバザーに出されてしまうわけです。

また、献身までしない信者であっても、教義に傾倒すればするほど、自分の財産は教団に捧げなければならない状況になります。とにかく、バザーの商品にはこと欠かないのです。筆者も入信当時、なけなしのお金で買ったばかりの6~7万円もする望遠鏡をバザーに捧げました。

当時、霊感商法=統一教会の悪評が立っていましたので、その名を出してのチャリティバザーはできませんでした。それで、ダミー団体を名乗り、統一教会だと知られないように行っていました。

しかし今は、世界平和統一家庭連合の名を出して堂々とバザーを行い、社会福祉協議会などへ寄付を行っています。

つまり、バザーに来場した方が、ここが霊感商法を行っていた旧統一教会であることに気づかないまま、お金を出したのではないかと思います。

2015年の統一教会から「世界平和統一家庭連合」への名称変更の効果は、こうしたところにも表れているといえます。

当時から、言われていたのは「チャリティバザーなんだから、少々値段が高くても、来場者は商品を買っていく。だから、値段は下げるな」です。

筆者のいたところでは、売り上げ目標を100万円にして、数十万円の利益が出ることはざらでした。その後、内部の会議に参加したことがありますが、やはりそのお金のほとんどは、教団への献金や信者らのホーム代や借金の返済にあてるとの報告がなされていました。

お金を自治体に寄付する目的は?

その頃も、チャリティバザーの売り上げの一部である、数万円は自治体に寄付をすることになっていました。今回、多くの社会福祉協議会などが受けた寄付に近い金額です。

何を目的にしているかといえば、募金をした際に受け取る「受領書(領収書)」や「表彰状」です。

当時は、かなりの頻度で教団はバザーを行い、たびたび寄付を行っていたので、会場には、自治体からの感謝の表彰状などが飾られています。それをみた来場者は、ここがしっかりとしたボランティア団体だと思ったことでしょう。それで口コミで来場者が増えて、売り上げがあがるようになっていました。

今回、取材した各社会福祉協議会も寄付を受け取った時には、領収書や受領書を渡しているということです。それを次のバザーの際に見せて、市区町村からお墨付きを得た、信頼ある団体のように見せているのではないかと思います。

さらに今は、寄付したことはHP、広報誌にも載りますので、旧統一教会から名前を変えた「世界平和統一家庭連合」がすばらしい慈善活動をしている団体であるとアピールすることも可能なわけです。こうしたことをきっかけに教団に誘われることは、充分にありえます。

多額のお金をバザーで集めておきながら、寄付は数万円ほどと微々たるもので、そのほとんどが献金などに回されます。時に献金のノルマが厳しいと、一銭も市区町村に募金しないこともあり、その時は、まるまる教団の収益となります。しかしこうしたお金の流れは、外部の人にはわからないことです。

旧統一教会のチャリティバザーは、通常のバザーとは違うという認識を

いずれにしても、この教団の行うチャリティバザーは、他のところで行われている通常のバザーとは違うものだということを、寄付を受ける側は知っておき「受け取らない」という選択肢も頭に入れておく必要があります。

しかし教団は「善意」を前面にして近づくので、自治体としても、受け取るか否か、より判断が難しいところをついてくることもあります。これも想定しておかなければなりません。

取材したある社会福祉協議会では、コロナ禍で寄付されたものが、お金ではなくマスクといった物というケースもありました。そうなると、より対応に苦慮するかもしれません。

しかしこれまで見てきたように、寄付をした事実がHP上などで宣伝されてしまえば、それが一つの信頼性の証となり、新たな布教活動に利用されて、多額の献金をする被害者を生み出すことにもつながりかねません。

「寄付は善意によるものだから」と無条件ですべて受け入れるのではなく、先に何が行われる可能性があるのか。その点を充分に考慮しての対応が必要になります。

また、旧統一教会は様々な関連団体を立ち上げています。そのなかで、私たちも寄付を求められることがあるでしょう。その時には、必ずその団体がどういうところなのかを確かめてください。

今、自民党をはじめとする政治家と旧統一教会の関係が大きく取り上げられています。

まさにこれも、選挙ボランティアという「善意」を前面に出して、議員らを教団側に取り込み、深いつながりを持とうとする手口ともいえます。

いつこの手法が私たちの身の周りで行われるかわかりません。一人一人が気をつける必要があります。

詐欺・悪徳商法に詳しいジャーナリスト

2001年~02年まで、誘われたらついていく雑誌連載を担当。潜入は100ヶ所以上。20年の取材経験から、あらゆる詐欺・悪質商法の実態に精通。「ついていったらこうなった」(彩図社)は番組化し、特番で第8弾まで放送。多数のテレビ番組に出演している。 旧統一教会の元信者だった経験をもとに、教団の問題だけでなく世の中で行われる騙しの手口をいち早く見抜き、被害防止のための講演、講座も行う。2017年~2018年に消費者庁「若者の消費者被害の心理的要因からの分析に係る検討会」の委員を務める。近著に『信じる者は、ダマされる。~元統一教会信者だから書けた「マインドコントロール」の手口』(清談社Publico)

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