兵庫県尼崎市民の個人情報のデータが入ったUSBメモリーを委託業者の社員が持ち出して、紛失したとの発表がありました。今後、その情報が悪意ある者たちに悪用された場合、約46万人もの全市民が詐欺のターゲットになってしまう恐れがあります。

しかし、USB内の個人情報が流出しようと、しまいとにかかわりなく、詐欺の魔の手が、尼崎市民に迫ってきています。

この事件による、尼崎市民の方々の不安はとても大きいと思います。

市長も会見で「最悪の事態を想定しての対応」の必要性を話されていました。まさにその通りです。こうした事態が起きた時には、個人情報がすべて漏れた場合の最悪の事態を考えて、どのような対策を講じるべきかを考えておかなければなりません。

なんといっても、個人情報流出による最大の懸念は、詐欺などの犯罪への悪用です。

全市民が詐欺のターゲットになってしまったことへの危機意識

今回のUSB紛失事件でもっとも深刻なのは、尼崎の全市民が詐欺のターゲットとして、犯罪グループにロックオンされてしまっていることです。

詐欺というものは、時事問題に便乗し、人々の不安につけ入ってきます。

そうした点から考えて、USBメモリー内の個人情報を手に入れていなくても、この機に乗じて、犯罪グループは詐欺の電話をかけてくることが考えられます。

たとえば、役所の人間を装い「今回は、申し訳ありませんでした。公に発表されていませんが、あなたの個人情報が流出しています」という詐欺電話が一番、心配されます。

もしこの詐欺の前触れ電話(アポ電)を信じてしまうと、本当に本人の個人情報が吸い取られて、オレオレ詐欺、架空請求詐欺などの被害に遭う可能性が高くなってしまいます。

USBメモリーにはパスワードが設定されており、現在のところ、情報漏えいは確認されていないということです。しかし個人情報が流出したとして、すぐにその情報が使われるとは限りません。闇のサイトなどで、高値で売買されて、時間が経ってから、それらが使われる懸念もあります。

今後、詐欺グループは尼崎市の人たちに、何かしらの不審電話をかけてくると考えられますので、長きにわたっての警戒が必要になります。

住所、名前、生年月日は、犯罪グループにとって喉から手が出るほど、ほしいもの

どのような個人情報が、USBメモリーに入っていたのでしょうか。そこから、どのような形で悪用されてしまう恐れがあるのかをみていきます。

住民基本台帳の情報として、全市民の氏名、住所、生年月日が入っていたということです。

「なんだ、この程度の情報なら電話もかかってこないので大丈夫」と侮ってはいけません。これらが流出したら、大変な危険が生じます。

ご存じのように、すでに私たちの多くの個人情報は漏れていて、闇の世界で売り買いされています。特殊詐欺グループが摘発されると、たいがいそこから膨大な名簿が押収されることからも、それがわかります。しかしその名簿の中には数年前のデータで、すでに住んでいない方の情報や亡くなった方のものも含まれていて、詐欺の電話をかける際に、役にたたないことがあります。

ところが、今回流出した、尼崎市民の氏名、住所、年齢(生存情報)などのデータは最新バージョンに更新されていて、詐欺グループや悪徳業者などの手に渡れば、どんな被害が発生するかわからないのです。

特に住所の最新バージョンへの更新は怖いことです。家族構成や一人暮らしか否かが明らかになるとともに、今、闇バイトなどの募集で人員を募り、お金のある家に強盗に入るという事件も起きていますので、そのことへの警戒感も高まります。

深刻なことにUSBメモリーには、生活保護や児童手当の受給世帯の口座情報が保存されていたということです。口座情報は、今、詐欺グループにもっとも知られてはいけない情報なのです。

勝手にインターネットバンキングが開設される詐欺が横行している

今年に入って、口座情報や暗証番号を電話で聞き出されて、勝手にインターネットバンキングが開設されて、知らぬ間に不正送金されてしまう被害が、全国で相次いでいます。

手口としては、まず市役所などの職員を騙り「払い過ぎた保険料をお戻しします」との電話がかかってきます。次に、金融機関を装った人物から「お金を振り込むための口座番号と暗証番号を教えてほしい」と言われます。もしそれを伝えてしまうと、インターネットバンキングの口座が知らないうちに開設されて、預金から繰り返し不正送金されてしまうという恐ろしい手口です。

今や、還付金詐欺はATMに呼び出して、お金を振り込ませるだけでなく、スマホなどで簡単に振込みができるインターネットバンキングを悪用する手口も出てきています。

今回、口座情報が流出すれば、「口座番号などを聞き出す」という手間が省けて、この詐欺が簡単に行えることになってしまいます。

この手口ですと、残高のある時に不正送金すればよいので、生活保護などを受けているような方で、今、口座に残高がなくても、数万円でもそれが入った瞬間にお金が引き出されてしまうこともあり、お子さんを持つ世帯の方の口座とともに、気をつけなければなりません。

対策としては、「絶対に、暗証番号は教えない!」です。

大丈夫と思っている心にも危険がひそむ

「電話なんかで、暗証番号は教えないから、大丈夫だ」

そう思っていると、これまた騙されることにつながりかねません。

詐欺グループのなかには、暗証番号を電話口で直接に尋ねることをせずに、自動音声ガイダンスを流して「暗証番号を押してください」と、電話器のボタンを押させることで、その情報を知ることもあります。

不審な自動音声ガイダンスの電話にも注意が必要です。

このインターネットバンキングを開設する手口は、全国で起きていて、先日も近県である、香川県警からも注意が呼び掛けられています。

口座情報巧みに聞き出し⇒勝手にネットバンキング開設⇒不正送金 被害相次ぐ【香川】 2002/6/23 OHK岡山放送

「つい、うっかり」の連鎖はもうやめて、最大の危機意識の共有を

「つい、うっかり」の負の連鎖が、被害を広げることにつながります。

委託先の社員も、ちょっと飲むくらいならいいだろうで、お店で飲食をした結果、USBメモリーを紛失したのではないかと思います。

さらに記者会見でも、県の職員が「英数字13桁のパスワードを設定している」と答えていますが、これも「つい、うっかり」でしょう。

おそらく情報漏洩の難しさを言おうとしたのでしょうが、ちょっと危機感がなさすぎました。これでは、悪意あるものに、パスワード解読の大きなヒントを与えてしまうことになりかねないからです。市長が話すような最悪の事態への想定への気持ちがあったのかどうか、疑問を持ってしまいます。

同じように、私たちも巧みな詐欺グループからの電話に「つい、うっかり」と暗証番号を教えないようにしなければなりません。こうしたことが積み重なり、大きな被害につながってしまいます。

昔に比べて、現代の詐欺の手口は巧妙になってきています。単に、息子などを騙ったオレオレ詐欺の電話に注意するだけでは、防ぎ切れなくなっています。

今後は、尼崎市民にむけての不審なメール、メッセージもあるかもしれません。役所を騙る詐欺電話とともに、尼崎市民の皆さんは、最大級の警戒をお願いします。

ひとたびこうした事態が発生すると、地域住民に大きな不安と不信感を与えて、詐欺などの危険を呼び込みかねません。他の自治体の方々も、こうしたことが起こらないように、個人情報の扱いには充分な注意をお願い致します。