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副業情報に応募、突撃してみたら、こうなった。「ない」のに「ある」と嘘をつく、悪徳業者と激論をかわす

多田文明詐欺・悪徳商法に詳しいジャーナリスト
(写真:イメージマート)

「ありませんよ!」

「いいえ、あります」

「どこにあるのですか!」

「ない」のに「ある」と嘘を言い続ける業者の男は、ついに「何を目的に(電話を)かけてきているのですか!」とまで言い放ち、必死にこちらの話をごまかそうとします。

この激論のきかっけになったのが、情報提供してもらった一通の副業紹介のメールでした。

今、コロナ禍が長く続き、収入を増やしたいと思う方もいることでしょう。そうした心を見透かすように「マイ**採用通知」という大手サイトを騙るようなメールが届けられています。

そこには「先日は在宅ワークにご応募いただきありがとうございました。おすすめの副業をご紹介させていただきます」とあり、URLが載っています。

果たして、どんな副業を紹介してくれるというのでしょうか?

表面上はまっとうな仕事の紹介に思わせながら、お金を騙し取ろうとする悪徳商法も後を絶ちません。4月より成人年齢が18歳に引き下げられたこともあり、若い世代を狙っていることも考えられますので、URLをタップして、その先を探ってみます。

スマホで簡単副業情報にエントリーしてみた

すると「スマホで簡単副業情報」のサイトが出てきました。

「未経験の方でも安心サポート」とあり、登録は無料で、1ヶ月で20万円以上の副収入が得られるといった言葉も載っています。

筆者がアクセスしたサイト(筆者修正)
筆者がアクセスしたサイト(筆者修正)

「お申込みはこちら」のボタンがありますので、押してみます。

「最高の副業をご案内」というサイトが出てきました。

「今すぐエントリー!」とあり、個人情報を記入するように促しています。

筆者がアクセスしたサイト(筆者修正)
筆者がアクセスしたサイト(筆者修正)

これまでの取材経験から、自ら「最高」と宣伝するところほど、怪しいものはありませんが、あえて名前、電話番号、メールアドレスなどの必要事項を記入してみます。

それにしても、このサイトがどの会社により運営されているものなのか、調べても出てきません。氏素性が分からないところに登録すれば、ほぼ個人情報は洩れますので、皆さんは連絡を取らないようにして下さい。

それでは、送信ボタンを押してみます。

すると「無料エントリーが完了致しました」と出てきました。営業担当より電話がかかってくるようです。

「お待ちしています」とつぶやき、いったん、サイトを閉じました。

どんな副業なのか?聞いてみると…

翌日、男性から電話がありました。

「A社と申します。ご紹介する副業、サイドビジネスは、競走馬の配当に関するものとなります。月に15~20万円が得られるようになっています」

どうやら、競馬情報をもとに副収入を得られるという話のようです。

男性は「競馬経験はありますか?」と尋ねてきます。

この種の取材をしてきて、競馬歴の短い人を狙っていることがわかっていますので「少しだけ買ったことがありますね」と初心者のフリをしてみました。

男は「そうですか」と頷いた様子で、一気に話を進めます。

「公営ギャンブルを使っての資産運用のご紹介です。競馬は当たらないものと思われますが、当社では各方面から情報を得ていますので、確実に的中する情報で、しっかりとした副収入が得られるようになっています」

以前ですと「着順の決まっている仕込みレースがあるので、それに賭ければ儲けられる」といった話を持ち掛けてきました。

さて今回は、どのような話になるでしょうか?

「過去のレースデータをコンピューターで分析し数値化して、利益を出しています。その際、ご自身が馬券を買うのではなく、当社にお金を預けて、代理で馬券を購入し、利益が出た分をお戻しております」

相手にすべてを任せる形では、本当に馬券を業者が購入したのかがわからず、幾らでも嘘をつける状況なので危険な出資といえます。

「いくら出せばよいのでしょうか?」と筆者が尋ねると、「月に1万円からで構いません」と答えます。

指定タイムを知っているかと、聞いてくる

「ところで『指定タイム』をご存じですか?」と男性は尋ねてきます。

「わかりません」

「指定タイムとは、競走馬がゴールするまでにかかる時間です。騎手には、馬主さんから指定タイムが指示されています。つまり、ゴールまでのタイムをあらかじめ決められて走っているわけです。当然、競走馬の指定タイムがわかっていれば、どの馬が上位にくるのかが、わかりますよね。10頭が出走するレースで、ある馬のタイムより、5頭の指定タイムが遅いようであれば、上位には入りませんので、賭けなくても良い馬になります。当社はその情報を馬主さんから得ていますので、的中する馬がわかっており、確実に収入を得ていただけます」

これまでのような「やらせのレースがある」という話ではなく、「ゴールまでのタイムが決まっている」という話を持ち掛けてきました。

しかしその日の馬の体調や、レース展開もあるでしょうから、仮に指定タイムを決められていたとしても、その通りにゴールするとは限りません。それでも業者は「年間の的中率は8割になります。10回中8回は当たります」と話します。

「当社では的中金額の20%の成功報酬をいただいています。もし3万円を出資して、1万円を元手に単勝2倍の馬券が当たれば、20%を引いた額、1万6000円をあなた様の口座に振込みます。考えてみて下さい。当社では8割的中ですので、3万円の元手はほぼ減らずに、次の投資ができるようになっています」

どうやら、元本保証の資産運用を言いたいようです。

「HPの掲載はありますか?」

「すみません。会員数を限定して募集しているために、HPはありません」

そこで住所を尋ねると「当社は、B区**1-*-**にあります」とすらすらと答えます。

筆者は「考えておきます」とだけ答えて、電話を切りました。

会社の住所に突撃してみると…

競馬情報に絡めた資産運用の話自体、かなり怪しいですが、これだけでは、悪徳業者かどうかの確証が取れません。そこで会社の住所に突撃してみることにします。

9F建てのビルでした。中に入って各階を回ってみましたが、A社の名前はありません。テナントとして入っている会社に聞いても「そんなところはない!」と面倒そうな顔で追い払われます。管理していると思われる不動産会社にも連絡をしてみましたが、やはりないようです。

筆者は嘘の住所を教えられました。さっそく、この事実を問い詰めたいと思います。

電話をかけると、先日とは違う男性が出てきました。

「先日、副業情報の説明を受けた者ですが、そちらの住所を教えてもらえますか?」

「えっ」という感じの返事がきます。

「ですので、会社の住所を教えて下さい」

「あなた様の営業担当は誰でしょうか?」

「いやいや、担当者がどうこうじゃなくて、会社の住所を教えて下さい」

「あなたが、どういう方かがわかりませんので、教えられません」

「それでは、先日の説明の時に聞いた住所が、合っているかを教えて下さい。B区**1丁目で良いですか?」

「……それはいえません」

「なんで、会社の住所が合っているかも言えないのですか?では、ビル名だけでもお願いします」

「教えられせんので、担当者から電話を致します」

「担当者がどうこうじゃなくて、そちらの住所やビル名を聞いているだけです。なんで答えられないのですか?では、お聞きした御社の住所を言いますね。B区**1丁目*―**ですね。これが正しいかどうかだけ教えて下さい」

「この住所は正しいのですか?」の質問に…

しばらくの沈黙の後、「はい、そうです」と答えます。

「こちらの住所のビルに御社はあるということですね」

「はい」

「おかしいですね。今、ビルの前にいます。各階をすべて回ってみましたが、A社はありませんよ!」

「いいえ、あります」

「どこにあるのですか!管理会社と思われるところに聞いてもないようですよ。住所は嘘ですよね?」

「いいえ、あります」

「だから、今、来ているけど、お宅の会社はないの。じゃあ、このビルの隣に何のお店があるかわかります?自分のいるビルならわかるよね」

ちなみに、横には有名飲食店と、大手のコンビニがあります。

答えられないようで「あなたの担当者名を教えて下さい。そちらから電話をかけます」とこちらの質問をごまかそうとします。

「言えないのですね。あなたは、このビルに会社があると言ったが、ありません。嘘の住所を私は言われたわけですね」

「いいえ、あります!」

「だから、今、おたくの会社に行こうと思って来ているけれども、会社はどこにもないの!」

今、筆者が電話をしているところは、オフィス街です。激しい電話のやりとりに、いぶかしげな顔をして、道行く人たちが振り返ります。ご迷惑をおかけしてすみません。

男性は「当社では、訪問による対応はしておりません」と言い出します。

「そういうことじゃなくて、このビルのどこにもA社はないんですよ。訪問もできないわけですよ。私は嘘の住所を言われたということでいいですね!」

しかし相手は嘘を認めまません。

「あります。いたずら電話は切らせていただきます」

住所を聞いているだけなのに、いたずら電話って何でしょうか。

「何を目的にかけてきているのですか!」と怒ったような口調で男性は、立て続けに話します。

「それは本当の住所を聞くためでしょう。わかってるでしょう。電話を切ってもらってもいいけど、今度、そっちから電話がかかってきたら、怒るからね!」

そして電話は終わりました。

その後、筆者のもとに、A社からの電話はかかってきていません。

「フット・イン・ザ・ドアテクニック」に注意!

嘘の住所を筆者に伝えているところからみて、悪徳業者と見て良いでしょう。経験上、一つの嘘を平気でつくところは、必ず次の嘘もついてきます。こうした業者とは、関わり合わないことが賢明です。

特に、この業者の巧みなのは、最初の投資額を1万~3万円と低く設定している点です。おそらくその金額なら、負けてもいいかと思って、試しに振り込んでしまう人がいるかもしれません。しかしこれ自体が罠で危険です。

これは「フット・イン・ザ・ドアテクニック」といわれるもので、最初に小さな額から始めさせて、徐々に大きな金額へと要求を釣り上げていく手法です。

そのために、最初のうちは若干の配当はあると思います。そして儲かる状況を見せながら「出資額を大きくすれば、さらに儲けられる」と徐々に投資額の増額を指示されることでしょう。それに、今回のように業者の本当の住所がわからない状況では、多額のお金を持ち逃げされれば、取り戻すことは極めて難しくなります。

ネット上には、「簡単」「最高」を謳い文句にした副業情報がはびこっています。しかし、それは悪徳業者にとって「簡単」にお金を取れる「最高」の副業であることを意味しています。充分にご注意下さい。

詐欺・悪徳商法に詳しいジャーナリスト

2001年~02年まで、誘われたらついていく雑誌連載を担当。潜入は100ヶ所以上。20年の取材経験から、あらゆる詐欺・悪質商法の実態に精通。「ついていったらこうなった」(彩図社)は番組化し、特番で第8弾まで放送。多数のテレビ番組に出演している。 旧統一教会の元信者だった経験をもとに、教団の問題だけでなく世の中で行われる騙しの手口をいち早く見抜き、被害防止のための講演、講座も行う。2017年~2018年に消費者庁「若者の消費者被害の心理的要因からの分析に係る検討会」の委員を務める。近著に『信じる者は、ダマされる。~元統一教会信者だから書けた「マインドコントロール」の手口』(清談社Publico)

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