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ビットコインの投資詐欺、だまされたフリで犯人を追ってみると…社会の壁、億超えの被害がみえてきた(2)

多田文明詐欺・悪徳商法に詳しいジャーナリスト
(写真:PantherMedia/イメージマート)

連日のように、マッチングアプリなどで出会った異性に誘われて、投資被害に遭うケースが後を絶ちません。最近では、詐欺師が入金指示を出したメッセージを短時間のうちに消す手口も出てきています。

なぜ、ロマンスを絡めた投資詐欺の被害が多く起こっているのでしょうか?

前回に引き続き、「BT**-FX」という偽の投資サイトにビットコイン(BTC)で送金して被害に遭った、CさんとDさんにお話を伺い、その理由に迫りたいと思います。

【お二人の被害経過】

Cさんは、シンガポール系中国人を名乗る「T」と出会い、被害に遭いました。Dさんは、東京在住のシンガポール人男性「H」に出会いだまされています。

お二人とも、同じマッチングアプリで男性と出会い、指示されて開設した国内の仮想通貨(暗号資産)交換所も同じ。送金先のアドレスも一緒で、被害金額も約300万円とほぼ同額です。

【前回の記事】

手口は同じ。「姉」「家を買う」「ボーナスイベント」隠された投資詐欺のマニュアルがみえてきた!(1)

軍人や医師など外国人の異性をかたる国際ロマンス詐欺もそうですが、残念なことに警察署によっては、被害届を受理してくれないところもあるのが実情です。被害に遭った方々は、警察に捜査をお願いするのに、本当に苦労しています。

これまでに話をお聞きしたAさん、Bさん、そして今回のCさん、Dさんも警察に相談には乗ってもらっているものの、詐欺に気づいて5か月ほど経った今も、被害届を受理されていません。

それでも皆さん、人の心を弄ぶような詐欺行為を許すことができない思いを強くもっているゆえ、同じ偽サイトで被害に遭った仲間とタッグを組みながら、本人たちなりに調査をして、何度も警察に足を運んでいます。

だまされたフリ作戦で、犯人につながる証拠を探る

前回でも少し触れましたが、Cさんがだまされた「T」と思しき男に対して、Dさんが逆アプローチして、犯人追及に至る証拠がないかを探っています。

「その経緯について、Cさん、ご説明頂けますか?」

「私が詐欺にだまされたと気づいた後に、Dさんと知り合いました。その後もマッチングアプリを調べていたら、『T』に似たような顔の人物が出てきました。そこで自己紹介文をみると、私の時とほぼ同じなのです。もしかすると、私をだました人物かもしれない。そこでDさんに、この男へのアプローチをお願いしたのです」

「はい。男に誘われて、LINEでの友達登録をしました。すると彼女をだました『T』と同じ名前で、同じアイコンを使う人物でした!」(Dさん)

顔写真はネット上からの盗用ですのでコロコロと変わりますが、日本語の自己紹介文は同じ犯罪組織であれば同じようなものを使用している可能性は高くなります。しかも同じ名前で、同じアイコンの写真を使ってLINEをしていたとすれば、同じ詐欺組織が絡んでいることがかなり疑われます。

「同じ人物(組織)だとすれば、マッチングアプリに登録している情報を警察に調べてもらうことで、犯人に行きつく手がかりを得られるかもしれないと思ったのです。そこで、警察にそのことを伝えて『私をだました人と、同じ犯人の可能性があります。もう一度調べてください』とお願いをしたら『それはできない』と断られました」(Cさん)

「調べられない理由は、なんと言っていたのですか?」

「それは『同じ名前や同じ画像で(別な人物が)登録することはあり得るから、それだけで(あなたをだました)人物だとは確定できないし、同じ人だと仮定して捜査をすることはできない』と言うのです。捜査というのは、可能性を探っていき、証拠をつかむためにするものですよね」と、Cさんは憤ってお話をされます。

それでも彼女は諦めません。

「以前に、マッチングアプリのやりとりで『T』から受け取ったLINEのQRコードは、もう私の手元にはありませんが、もし私がやりとりした時に送られたQRコードが、Dさんに送ってきたものと一致すれば、同一のLINEであり、同じ人物(同一組織)である可能性は高くなります。それで、警察にアプリに問い合わせをして、その時のメッセージ(QRコード)を調べてもらえませんか?とお願いをしました」

「その結果はどうだったのですか?」

「なんとか、この件は調べてもらえましたが、アプリ側の回答としては『個人情報の交換なので、それは公開できません』と言われたというのです」

そこで彼女自身もマッチングアプリに「その時のメッセージをほしい」と言いましたが、「それはできない」とアプリ側から断られたそうです。

「それで、QRコードが一緒かどうかも確認できないのです。もう行き詰まっています」彼女は苦渋の表情を浮かべます。

ここにこそ、被害の相談を受けながらも警察が「調べられない」と口にした事情があるように思われます。それはアプリ側の積極的な捜査協力がないことです。

警察が照会しても充分な回答が得られない。本人が聞いても何も答えない。これでは、詐欺師に行きつく術がありません。このような対応をされては、被害者の意向に答えられるような充分な捜査を警察もできないことになります。

マッチングアプリは裸の王様のような状況になりつつある!?

このやりとりを聞いて思うのは、マッチングアプリは、なぜ利用者の目線に立って対応していないのか?という思いです。

自分たちのアプリが詐欺に利用されて、ブランドが大きく傷つけられているわけです。おそらくアプリへの登録時に、なりすました写真や嘘の身分証を使っていると思われますし、登録者が男性だった場合、メッセージのやりとりにはお金がかかりますので、不正に得たクレジットカードを使っている可能性もあります。

様々な不正行為がアプリ内を通じて行われているのに、先のような非積極的な対応しかしない。すでに被害に遭った方々は、これらのマッチングアプリに対して、大きな不信感を持っており、私の知る限り不評が広がりつつあります。

ある意味、アプリ業者は健全に利用してもらうために提供している出会いアプリを詐欺師に悪用されている被害者ともいえます。土足で犯人らに自宅に入り込まれ、踏み荒らされているのに、その被害を口にせず、泣き寝入りしているような状況です。

しかも、非協力的な姿勢を示せば示すほどに、詐欺犯らによる犯罪行為は増えて、アプリの評判はどんどん地に落ちていくことになります。

しかしネット上には「安全に出会える優良サイト」のような広告が頻繁に出てきます。すでに自らのアプリが悪用されて、裸の王様のような状況になっていることに気づかないのは悲しいことです。

ただし、Cさんの利用したアプリは「警察の要請に応じて、詐欺師の使ったカードや登録の情報などを警察側に伝えてくれていて、回答をくれるだけで、まだ協力的な方です」と言います。彼女の話では、他のアプリでは「利用者が退会した時点で、利用者の情報は消えていますと言って、警察の要請にすらも応じていないところもある」ということです。

詐欺を行う側として、いくらマッチングアプリを悪用しても被害届も出さず、警察にも非協力的な態度であれば、自分たちの詐欺行為に対して何ら追及されることはない。となれば、どんどん悪用してやろうということになるのは、当然のことだと思います。

そうしたなかで、新たにアプリに登録した人が、安全・安心なサイトと思って利用し、また別な被害に遭う。この連鎖がずっと続いているのではないでしょうか。

犯罪行為の送金先が、国内の仮想通貨交換所に開設されていた!

次に国内の仮想通貨(暗号資産)交換所についてです。

今回、お二人がビットコインで送金したアドレスが同じ「3k*****」でした。しかも、前回、お話をお聞きした約900万円の被害のAさんも同じアドレスに送金しています。

Cさんが警察に尋ねたところ「送金アドレスは、国内の仮想通貨交換所である」との回答でした。

これを聞いて、私は驚きました。

これまで、犯罪収益で得たお金の送金先は国外のアドレスとばかり思っていたのですが、そうではなく、国内の仮想通貨交換所の口座にも送られていたのです。

“この形が、組織的詐欺で常態化しているのではないか”という懸念がよぎります。

すぐに頭に浮かんだのが、振り込め詐欺などで使う銀行口座や携帯電話を調達する道具屋と思しき「仮想通貨(暗号資産)のアカウントを買い取る」との書き込みが、昨年末よりSNS上でよくみられていたことでした。

SNS上に載る、日本語が少しおかしい、仮想通貨アカウントの買い取り情報
SNS上に載る、日本語が少しおかしい、仮想通貨アカウントの買い取り情報

こうしたアカウント買い取り募集により、どれだけの数の暗号資産の口座がすでに不正に開設されて、詐欺などに使われているのかわかりません。

被害者への対応は、どうなっているのか?

さて、ここで大事なのは、国内の仮想通貨交換業者が、詐欺被害者にどのような対応をしているかです。

Dさんは被害に気づいた5月、すぐに口座を開設した業者に、詐欺に遭ったことをメールで伝えました。しかしなかなか返事がこないために、しびれを切らして電話をかけました。

すると「送金してしまったものは手遅れです。もうどうすることもできない」との回答を受けました。

これは、あまりに不親切な回答といわざるをえません。

その後、送金先のアドレスは国内の仮想通貨交換業者であることがわかりますが、プロである仮想通貨交換業者なら、すぐにこのことを調べられるはずです。

その事実を被害者に伝えず「もうどうすることもできない」と門前払いをして、遠ざける。

もし被害者に伝えられない事情があるとすれば、せめて警察や不正口座を開設された同業者にもつなぎをつけてほしいところですが、そのようなことをしたという話は耳に入っていません。まさに、利用者目線に欠けている対応といわざるをえません。

億超えの不正送金先になっている可能性あり

私も皆さんの被害を受けて、この送金先アドレスを、ある暗号資産関連のサイトで調べてみました。このサイトの正確性はわかりませんが、もし正しいとすれば、このアドレスに送金された総額は、33BTC(ビットコイン)を超えており、約165万ドルと出てきました。

日本円で約1億8150万円になります。

ということは、彼女たちだけでなく、他にも多くの人がこのアドレスに送金していたことになります。しかも、これが国内の仮想通貨交換所に開設された送金先というのが問題です。

この数字が事実とすれば「億」というのは相当な金額です。すでに警察に徹底した捜査を依頼しているとは思いますが、もしこの犯罪収益に対して、いまだそれをしていないとなれば、ゆゆしきことです。また詐欺との情報をつかんでアカウント開設者への事実確認をするなど、即座の被害防止行動を取っていたのかも、ポイントになります。これについては、さらに調べを進めたいと思います。

もしこれだけの被害を銀行が把握すれば、おそらく詐欺の報告を受けた時点で、警察に連絡して口座を凍結して、積極的な調査をしていると思います。

現在、この送金アドレス先にはお金は残っておらず、ある警察筋からの話では、すでに別な口座を経由して、お金は移されているということです。

今の投資詐欺の蔓延を考えれば、今回のような不正口座の存在は氷山の一角ではないかと思っています。どれだけの犯罪収益金が国内口座を通じて、他の送金先に行ってしまっているのか、想像するだけで恐ろしくなります。

ここにもマッチングアプリと同じ構図があると考えます。

仮想通貨交換業者がこれまで培ってきた信頼が、詐欺師らに不正利用されることによって傷がつけられているわけです。警察などとも連携して、詐欺を絶対に許さないという対応を取らなければ、今後も狙われ、その傷は深くなるのではないかと心配します。

被害者に二重の苦しみを負わせる社会を憂う

今もCさんとDさんは犯人に至る証拠を見つけようと、必死で探っています。

Dさんをだました男は“東京タワーのみえる部屋を借りている”と言って写真を送ってきました。

「しかし、いくら写真を検索しても出てきません。ということは、この写真自体が犯人につながるものかもしれない。本人は家賃は19万円で『W駅』が最寄り駅だと言っていました」(Dさん)

CさんとDさんは調べます。

上記の情報から、写真と同じ位置で東京タワーが写るだろう場所を絞り込み、不動産屋に写真を見せて「この風景がみえる部屋はありませんか?」と聞きこみをしながらマンションを調べて、ここではないかという場所が幾つか、絞れたそうです。

Cさんは話します。

「もし詐欺に使うためにこの写真を撮影したのであれば、国内に協力者がいたことが想定できます。入居するにも審査が厳しそうな物件ですので、犯人の痕跡はみえてくるかもしれません」

組織で詐欺をするゆえに、どこかにほころびは出てしまうものです。それを見つけようと、彼女たちは必死になっています。

これを聞きながら、筆者は思います。

被害に遭った上に、ここまでの調査を被害者にさせなければならない社会は、一体どうなっているのでしょうか。

マッチングアプリや仮想通貨交換所は、詐欺師らが自分たちのサイトで暴れまわっているのに、積極的に被害届を出さないどころか、警察や被害者に対して消極的な対応をする。

被害者らがこんなに辛い思いをして戦っているのに、それに対して、被害はすべて自己責任といわんばかりに何のサポートもない。

これでは、被害者に二重の苦しみを与えていることになっていないでしょうか。

被害者の痛みや辛さを理解しない社会であって、本当によいのでしょうか。

ここにこそ、海外の詐欺組織による偽投資サイト詐欺の被害が、今も続出している理由があると考えています。

本来なら、業者らが被害者と密な連携を取って、警察への捜査を積極的に働きかけていく。そして警察からの照会があったら、積極的に情報を開示して、犯人を追い詰めていき、不正を絶対に許さない社会をつくる。

マッチングアプリは、詐欺が世に出ていこうとする入口を抑えて、仮想通貨交換所では、国内から犯罪収益が流れる出口を防ぐ。

マッチングアプリ、仮想通貨交換所と、被害者の二人三脚の歩み。それこそが、詐欺を世の中からなくすためにもっとも必要なことだと思うのです。

暗号資産に関するトラブルの注意喚起(今年4月の金融庁・消費者庁・警察庁の発表より)
暗号資産に関するトラブルの注意喚起(今年4月の金融庁・消費者庁・警察庁の発表より)

詐欺・悪徳商法に詳しいジャーナリスト

2001年~02年まで、誘われたらついていく雑誌連載を担当。潜入は100ヶ所以上。20年の取材経験から、あらゆる詐欺・悪質商法の実態に精通。「ついていったらこうなった」(彩図社)は番組化し、特番で第8弾まで放送。多数のテレビ番組に出演している。 旧統一教会の元信者だった経験をもとに、教団の問題だけでなく世の中で行われる騙しの手口をいち早く見抜き、被害防止のための講演、講座も行う。2017年~2018年に消費者庁「若者の消費者被害の心理的要因からの分析に係る検討会」の委員を務める。近著に『信じる者は、ダマされる。~元統一教会信者だから書けた「マインドコントロール」の手口』(清談社Publico)

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