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「ご飯食べた?」「何食べた?」は、美男美女になりすました詐欺師のサイン!背後にうごめく犯罪組織は?

多田文明詐欺・悪徳商法に詳しいジャーナリスト
(写真:GYRO_PHOTOGRAPHY/イメージマート)

ロマンス詐欺を仕掛けられた被害者の話を伺うなかで、いち早く詐欺と気づけるキーワードとして「ご飯食べた?」「何食べた?」が浮かび上がってきました。

今やネット上でリアルに会わずに友達になれる時代です。当然、そのなかには、詐欺をもくろむ輩もいます。どこでどう見抜けばよいのでしょうか。

最近は、プロフィール上では、日本人を装ってくることもあり、なかなかそこからの情報だけでは見抜きづらい状況です。

被害に遭った方々とオンラインにて、詐欺の実態を暴く!

マッチングアプリ、大手のSNSで出会った異性にロマンスの感情を抱かせられて、偽の投資サイトを紹介され、お金をだまし取られる詐欺被害は一向に減りません。

こうしたなかで、被害者一人ひとりがバラバラになって動いても、犯人追及、被害金の返還への道にはほど遠く、かといって、被害者の数が多くなればなるほど、手口も多様化しているなか、まとまりがつかなくなる状況です。

そこで何かしらの被害回復への筋道が考えられないのか、また大きな被害に遭う前にいち早く、なりすまし詐欺に気づける方法はないのかなど、ロマンス詐欺の手口で被害を受けた5人の女性に、オンラインミーティングの形で話を伺います。

皆さん、今年の3月~5月にかけて、ネットで出会った男性に紹介された、同じ偽の投資サイト「BT**-FX」にて被害に遭っています。

「恋愛感情を抱かせられている状況では、”ちょっとした言動で相手の心が離れていくのではないか”その怖さから、『やりとりしたメッセージが、おかしいな』と思っても、それ以上疑問を追及できない思いになってしまいますが、今、冷静になって振り返り、『あれはちょっとおかしかったな?』と思うところがあれば、教えて頂けますか?」(多田文明)

「今、思えば、早めに詐欺と気づけたポイントはあったかもしれませんね」とAさんは、話します。

Aさんがメッセージのやり取りをした男性は、「ヘンリー」という東京在住の日本人とシンガポール人のハーフを名乗っていたといいます。そしてその男から紹介された偽サイトに約900万円分のビットコインを送金して被害に遭いました。

「何かにつけて、『ご飯食べた?』『何食べた?』と聞いてくるんです」

彼女がやりとりしたメッセージをみせてもらうと「Baby昼ご飯を食べましたか?今、私は外で昼ご飯を食べて」「Babyは夕食を食べましたか?おやすみなさい。愛しています」といったものが本当に、多く見られます。

普通、日本人であれば「今日は、暑かったね」「寒かったね」という天気の話や「体調は大丈夫?」など健康面の話をまじえながら挨拶するものです。当然ながら、私自身も知人に「ご飯食べた?」とのメッセージをしたことは、ほとんどありません。

ここからみえてくるのが、中国系の犯罪組織の存在です。

実は、これは中国の方の挨拶によくみられるものだといいます。つまり、この詐欺のシナリオを書いて実行しているのが、中国系の人たちであることがうかがわれるのです。

もし日本に住んでいると言いながら、「ご飯食べましたか?」を挨拶代わりに頻繁に聞いてきたら、相手はなりすました詐欺師かもしれないと疑ってみてください。

「私の時も、そうでした。その後に、きまって料理の写真を送ってくるんです」

こう話すのはBさんです。彼女は大手の証券会社に勤務しているという日本人の苗字を名乗る男性に偽サイトに誘われて、国内の銀行口座へ約270万円を振り込んで被害に遭っています。

「でも、その写真をみると、どこか変なんです。日本のお店で『お刺身』を食べているらしいんですが、サーモンの下にある“つま”は大根ではなく、キュウリが敷かれているんですよね。その下に大根の“つま”らしきものがみえる。こんな盛り付け方、日本のお店でしないよなと思ってみていました」

このように、「何食べた?」の挨拶の後、きまって料理の写真を送ってきて、しかも、日本ではあまり見られないようなものだった時には、これまた相手が詐欺師であるサインの一つかもしれません。

もし私が知人女性に「ご飯、なに食べた?」と挨拶をして、素敵なお店の料理の写真を送ったら、「なに、自慢?」と言われて、しばらくブロックされてしまうと思います。

日本人にとっては、かなりの違和感があるやりとりですが、やはり相手にロマンスの感情を抱いている状況下では、それを受け入れてしまう傾向があるようです。

いずれにしても、国の違いは、詐欺の手口にも表れてくるものなのです。

実際に、なりすました相手がアフリカ人と思われる国際ロマンス詐欺師と、やりとりをした女性のメッセージを見返してみても、「ご飯食べたか?」の言葉はありません。それよりも「おはようございます。あなたのことを考えずに一日を始めるなんて想像もできません」「毎朝あなたを愛して」という、熱烈な愛を訴える挨拶から始まっています。

身近なニュースや出来事をスルーするのも、詐欺の兆候

思い返せば、「どうにも、日本に住んでいる感じがしない会話があった」とAさんは話します。

彼女も、相手の男も東京在住です。

「朝方、大きな地震で目が覚めました。そのことを相手の男に伝えますが反応がないんです。そこで『朝の地震、気づかなかったんですね』と言っても、答えをスルーして、またもや『夕食の準備ができた』と料理の写真を送ってきました」

最近は日本に住んでいるという設定で話をしてくることが多いですが、相手がなりすましの人物かを見極めるためには、身近で起きたニュースなどを振ってみて、それに応じるか否かを確かめるのも、良いかと思います。

先にも述べましたが、彼女たちの話を聞けば聞くほど、メッセージのやり取りをする相手が中国系の犯罪組織であることが浮かび上がってきます。

Aさんの場合、相手が次のようなメッセージを送ってきました。

「私は満月が好きです。中国人の心の中で、満月は家族と丸くなっていることを表しています」と。

「今思えば、自分がシンガポール人と日本人とのハーフではなく、(生粋の)中国人であることを告げているようなものですよね」

Aさんは、当時、気づかなかったことを悔やみます。

Bさんも思い出したように「私の場合も、そうでした。一回だけ、なぜか中国語で書かれたメッセージが送られてきたことがあります。その詳細を見ようとする直前に、いきなり消されてしまいました」と話します。

最後に「どの辺りで詐欺だとの確信を持ったのか?」を尋ねました。

Aさんは投資サイト上の金額画面が約4000万円になり、お金を引き出そうとすると、サイトのカスタマーセンターから「あなたは税金を払わなければならない」との連絡を受けます。

日本の税務署にでも払うのかと思っていると、「このプラットフォームに送金してくれ」といいます。

「税金なのに、税務署に払わない?」

彼女の第一の違和感です

さらにカスタマーセンターからは「約56000ドル(約610万円)のビットコインを購入して払う必要がある」と言われます。

彼女が「(本当に)国内の税務署に払わなくていいのですか?」と尋ねると、「日本管轄内のプラットフォームであれば、日本税務署で処理する必要があります。国際プラットフォームは(国際)連合会に税金を支払い、連合会は日本税務署に相応の税金を払う必要がある」との回答がきます。

「さっぱり意味がわかりませんでした。いずれにしても、税金を仮想通貨で払うなんてことは、いくら何でもありえない」そこで、詐欺を確信したと言います。

Bさんの場合は、違っています。

彼女の住む大阪に会いにくると男は言いますが、その直前になって「コロナにかかったので会えなくなった」と言い出します。

「その証拠として、PCR検査を受けているという写真を送ってきたのですが、その写真をよくみると、なんと福岡県の検査会場でした。彼が住んでいたのは、東京のはずです」

詐欺師は、とんでもないヘマをしてしまい、彼女に詐欺を見抜かれました。

犯罪組織が詐欺を行う場合、必ずマニュアルがあります。

今回でいえば、「何食べた?」と挨拶をしてきて、その後に、料理の写真をやたらに送ってくる。そして会う約束をしようとすると「コロナにかかった」と言い出して、会おうとはしない、といったものです。

しかし見てきてわかるように、組織で行うがゆえに、必ず失敗や何かしらの間違いを犯すものです。そのミスを見逃さず、もう一歩先に進んで怪しみ、いち早く詐欺に気づくことが大切だといえるのです。

これからも、新型コロナの影響で家にとどまり、マッチングアプリやSNSを利用する機会も多くなるでしょう。それによる被害も出てくるに違いありません。

出会った相手がなりすましかどうかを見極めるために、「ご飯食べた?」「何食べた?」の挨拶に注目してください。もし、このやり口が見えていたら、中国系組織によるロマンス詐欺が近づく、兆候かもしれないと思い、心の距離を取ってください。

今回はお二人を中心に話を聞きましたが、さらに詐欺の実態を暴くべく、他の方々にも話を伺います。

詐欺・悪徳商法に詳しいジャーナリスト

2001年~02年まで、誘われたらついていく雑誌連載を担当。潜入は100ヶ所以上。20年の取材経験から、あらゆる詐欺・悪質商法の実態に精通。「ついていったらこうなった」(彩図社)は番組化し、特番で第8弾まで放送。多数のテレビ番組に出演している。 旧統一教会の元信者だった経験をもとに、教団の問題だけでなく世の中で行われる騙しの手口をいち早く見抜き、被害防止のための講演、講座も行う。2017年~2018年に消費者庁「若者の消費者被害の心理的要因からの分析に係る検討会」の委員を務める。近著に『信じる者は、ダマされる。~元統一教会信者だから書けた「マインドコントロール」の手口』(清談社Publico)

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