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国際ロマンス詐欺師をとことん追ってみた。だまされたフリをした女性が行きついた先で見た犯人の姿とは!?

多田文明詐欺・悪徳商法に詳しいジャーナリスト
(写真:SunnySide/イメージマート)

国際ロマンス詐欺の被害に遭ったとわかった後、相手の詐欺師をとことんまで追ってみた女性がいます。行きついた先には何が見えてきたのでしょうか?

振り込め詐欺でも、詐欺の電話を受けた家人が引っ掛かったフリをして、警察を呼び、犯人を逮捕する、だまされたフリ作戦を行っていますが、国際ロマンス詐欺の被害に遭った女性は、まさにこの方法を敢行しました。

「1千万円以上の被害に遭っているのに、警察には被害届を受理してもらえません。もうこうなったら、自分で犯人捜しをするしかない」

そう思って、彼女は国際ロマンス・だまされたフリ作戦をスタートしました。

まずは被害経緯です。

2020年の夏、多くの人が利用する大手のSNSにて、30代の韓国人男性と出会いました。現在は出張先のイスラエルにて建築関係の仕事をしていて、本社はアメリカのM州にあると言います。

そもそも彼女自身は既婚者です。なぜ彼とつながったのかといえば、彼女の趣味は海外旅行で、今はコロナ禍で行けませんが、以前はSNSで知り合った友達のいる国に行くことがよくあり、外国人とリアルで会えることを楽しみにしたといいます。ですので、どちらかというと、恋愛感情というよりは、仲の良い友達を探していて出会いました。

1か月ほど、英語でのメッセージのやり取りをするなかで、男は「財布をなくして、かなりのお金を失ってしまった」と言います。それを聞いて、彼女は心配します。

「生活に困っていない?」

男はその心につけこむように「もうお金がないので、本社のあるアメリカに帰りたい。15万円を貸してもらえないか。本社に戻ったら、必ずお金を返す」と言います。

支払い方法は、ビットコインでお願いされます。コロナが終息すれば、アメリカで会った時にでも、お金を返してもらえればいいかとの思いから、彼女は送金します。

その後も「持ち金がなくなってしまった」と、ほぼゼロになった口座の画像を送ってきたり「ご飯が食べられない。助けてほしい」とのメッセージが送られてきます。彼女は「かわいそうだ」「大変だ」との思いが溢れて、生活費として再び20万円ほどをビットコインで送ります。さらに「今、住んでいるアパートの代金も払えない」とも言われて送金します。

「おかしいな?」と思う頃に、次の手を打つ詐欺師

数か月もこの状況が続き、さすがに彼女も「こんなにお金に困るのは、おかしくはないか?」と思います。しかし、相手はその気持ちを見透かすように、顔写真つきのパスポートや、勤務先の身分証の画像を送ってきます。ここで彼がオーストラリア国籍であることがわかりました。身元もわかったので大丈夫との思いで、さらにお金の要求に応じてしまいます。

総額で約100万円を送った頃でした。男から、いきなり10本のバラの花束が送られてきます。彼女はびっくりしましたが、「お金を借りていることへの相手の誠意を感じた」と言います。

翌週には、指輪も送られてきます。

男からは事前に「手の写真を送ってくれ」とメッセージがきていたのですが、「それはこのためだったのか」と思いました。様々なサプライズをする男に心を許していきます。

すると、ここで要求する金額を一気に引き上げます。

「仕事も一段落ついたので、本社のアメリカに帰ろうと思う。けれど、困ったことに、飛行機代がないんだ」

「必ず返すから、アメリカのM州までの飛行機代、アパート代などを貸してほしい」

そこで彼女は400万円以上を送金します。

すると「ありがとう。アメリカに帰るチケットが取れた」という具体的な帰国日を記載した感謝のメッセージが届けられます。

彼女はひと安心しますが、その後も「アメリカではコロナが流行っていて、簡単には入国できない」「隔離先での検査費用が必要」との理由で、10万円単位を小刻みに無心してきます。

その結果、昨年末までに1000万円以上の被害に膨れ上がりました。

さすがに、一銭もお金を戻してもらえない状況を怪しみ、メールを見返すと、おかしな部分が見えてきました。

「飛行機に乗って帰ります」と言っておきながら、なぜか、次の話では、元のイスラエルに住んでいるような状況が展開されます。今頃は、フライト的にアメリカに到着しているはずなのに、なぜか「メキシコにいて」といった文面もみられます。

実は、メッセージは組織的詐欺グループのメンバー数人が、一人の人物になりきって送ってくることがあり、文面につじつまの合わない内容が出てくることがあります。ここは、詐欺に気づくポイントになります。

次々に、嘘が発覚

今年初め、彼女は彼が勤めているというアメリカの会社に在籍確認をしました。すると「その問い合わせは、よくあるんですよ。それは詐欺だから気をつけて下さい」との返事をもらいました。

そこで彼のパスポート画像を調べました。

本来、パスポートに載る番号には、最初に国名が載ります。ところが、彼の国籍はオーストラリアなはずなのに、「AUS」のアルファベットが記載されていません。さらに、続けて生年月日も入るはずですが、パスポートに記載されている年月日の数字とも一致していません。よくみると、フォントの大きさも違っていて、彼女はこのパスポートが偽造だと確信します。

本来なら、ここで「詐欺だろう!」と相手を責めたてたいところですが、彼女は違いました。

「もう、こうなったら、とことんまでだまされてやる」

だまされたフリ作戦を開始する!

彼女は、ハートマークをメッセージに添えて、逆ロマンス詐欺を仕掛けていきます。

「アイ ラブ ユー ダーリン」「ナイス マイ ラバー」(素敵な私の恋人)との甘い言葉でささやくと、相手の男も「グット ナイト スイートハニー」という言葉を返してきます。

彼女が「あなたと早く一緒に住みたい!」と言うと、「どんな家がいいの?」と男は尋ねてきます。そして「こんな家はどうだろうか?」と写真を送ってきて、どんどん話は盛り上がります。

ただし彼が「早く君を抱きたい」と言ってきましたが、彼女は既婚者なので、これだけはスルーしたそうです。

しかしこのツンデレな対応が、男の心を盛り上がらせたのでしょうか。

2か月ほどがたって、突然、男からビデオ通話での着信がありました。

彼女はそれに出ます。

そこには、相手の顔が映し出されました。

その姿を見た瞬間、彼女は思いました。

「やられた!!」

映っていた人物は……

相手はイケメンの韓国人男性のはずでした。

被害者提供写真・メッセージアプリでやりとりしていた時の韓国人男性の写真
被害者提供写真・メッセージアプリでやりとりしていた時の韓国人男性の写真

しかし、実際には、若い黒人男性だったのです。

被害者からの提供写真・実際にメールをやりとりをしていた男性
被害者からの提供写真・実際にメールをやりとりをしていた男性

「やられた!!!」

しかし、彼女はその思いをおくびにも出さずに、男からの「ハロー」の言葉に、彼女も「ハロー ダーリン」と返します。

男はもう完全に、彼女は自分の虜になっていると思ったようで、訛りの強い英語で話しまくります。よく聞き取れなかたそうですが、彼女は必死に笑顔を振りまきます。

そして「アイ ラブ ユー」「あなたがいなくて寂しい」と言葉を返します。

1回目の通話は、2分ほどでした。

それから、ほぼ毎日かかってくるようになります。

もはや彼女は女優です。

彼女が送られた指輪をはめて画面越しに見せると、男は嬉しそうな表情を浮かべて話してきます。

そのうちに、この男性だけではなく、他の詐欺仲間と思しき男たちもビデオ通話に参加してくるようになります。トータルで6人ほどの人物が映っていました。やはり、組織で詐欺を働いていることがよくわかります。

彼女は必死に証拠をつかもうとしていました。

「あなたの住んでいるのは、どこなの?」

最初は答えてくれませんでしたが、尋ね続けると「今は、南アフリカにいる」と答えます。

彼はビデオ通話越しに色々なものを映してきましたが、その一つに炭酸飲料のペットボトルの写真がありました。これは西アフリカで売られているものです。

またある時、男は自分の車の写真を送ってきました。そしてぬけぬけと「君の送ってくれたお金で車を買ったよ」と言います。

彼女は心底、怒り爆発の気持ちでしたが、グッとこらえて、笑顔で頷きます。

そのナンバーを調べると、これも西アフリカのある国のものであることがわかります。しかし、彼は南アフリカに住んでいる?

西アフリカから、南アフリカまでは、かなりの距離があります。彼は嘘をついているのでしょうか?

しかしその後の通話から、その真実が浮かび上がってきました。

「今、何しているの?」とビデオ通話で彼女が尋ねると、建築中のアパートの動画を流してきました。

被害者からの提供写真・現在建築中のアパート
被害者からの提供写真・現在建築中のアパート

「君の送ってくれたお金で今、アパートを建てているんだ」

それを聞いた彼女は内心で「本来、そのアパートは私がオーナーでしょう!出資しているんだから。お金を返せ!」と言いたい気持ちを抑えて、再び作り笑顔で「そう」と返事をします。

男は「完成すれば、5500ドル(約50万円)の収入がある」とも話します。

この建築中のアパート自体が南アフリカのY都市にあるとのこと。

「ぜひ、こちらに来る時は、自分のところに会いにきてください!」

その後も、朝晩と男からはビデオ通話の着信が続きます。

これまでの会話のやりとりからわかることは、アパート自体は南アフリカに建てているようですが、詐欺組織の実態は、西アフリカから赤道直下の付近の東アフリカにまたがった場所に複数あり、どうやら国をまたいで活動しているようです。彼はたびたび、東アフリカらしき国に戻り、車に乗っている動画も送ってきています。

男は完全に心を許しているようで、彼女に、複数の日本人女性と、ラインでのメッセージのやりとりをしているスマホ画面を見せてきたことがあります。そこには7人ほどの日本人女性と思しきアカウントが映っており、彼女たちもロマンス詐欺の被害に遭っていると思われます

彼女は「送金されている先も、詐欺師のいる場所もある程度、わかっている。日本の警察と現地警察がうまく連携を取ってくれれば、被害がこれ以上、増えるのを防ぐこともできると思うのですが……」と残念な思いを口にします。

あくまでもこれは海外の組織犯罪の一派に過ぎません。アジアを根城にして犯罪をしていると思われるグループもありますので、国際的詐欺グループが日本を狙っているなか、より犯罪抑止のための国際的連携が求められています。

急に連絡を絶つ。何があったのか?

さて急ですが、先週、彼女のもとに「あなたは私を捕まえようとしている!」という連絡が来て、相手の男からの連絡が、突然、途絶えました。

彼女は「自分が相手の居場所を聞き出そうと、し過ぎたのだろうか」と話しますが、私はそうではないと思っています。

というのも、この連絡が途絶える数日前に、次のような事件があったからです。

国際ロマンス詐欺を仕掛けていた、カメルーン、ナイジェリア、中国、日本などの国籍を持つ犯人ら16人の逮捕がありました。いわゆる、国内で活動する多国籍で編成されていた組織的犯罪グループが逮捕されたのです。

ロマンス詐欺容疑でカメルーン人逮捕 兵庫県警 2021/6/14 (産經新聞)

私はこの事件と、彼女にロマンス詐欺を仕掛けたグループとの関連性を疑っています。

これまでのロマンス詐欺の被害者のなかには、仮想通貨の口座開設に時間がかかり、送金に手間取っていると、「銀行口座への振り込みでもよい」と指示するケースもありました。

つまり、海外に拠点を置く詐欺グループと国内のグループはつながっていて、日本での拠点を失うことは、詐欺グループにとって大きな痛手なのです。その逮捕情報が組織内で共有されて「捜査の手が自分にも及ぶかもしれない」という焦りから、真っ先に男は、彼女との連絡を取るのをやめたのではないかと考えています。

国際ロマンス詐欺は犯人が国外にいるから捜査できないということではなく、こうした国内拠点の摘発により、海外の犯罪グループにも大きなダメージを与えることができると思っています。

彼女は今も、詐欺組織の実態をつかむために、孤軍奮闘で映像に残された画像から、相手の居場所を探っています。ある程度の地域は絞りこみつつあるようですが、なかなか特定までは至っていません。また新たな事実が判明すれば、ご報告いたします。

詐欺・悪徳商法に詳しいジャーナリスト

2001年~02年まで、誘われたらついていく雑誌連載を担当。潜入は100ヶ所以上。20年の取材経験から、あらゆる詐欺・悪質商法の実態に精通。「ついていったらこうなった」(彩図社)は番組化し、特番で第8弾まで放送。多数のテレビ番組に出演している。 旧統一教会の元信者だった経験をもとに、教団の問題だけでなく世の中で行われる騙しの手口をいち早く見抜き、被害防止のための講演、講座も行う。2017年~2018年に消費者庁「若者の消費者被害の心理的要因からの分析に係る検討会」の委員を務める。近著に『信じる者は、ダマされる。~元統一教会信者だから書けた「マインドコントロール」の手口』(清談社Publico)

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