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フォローしたら、だまされる!SNS上で横行する、緻密に計算された情報詐欺。歴の浅い男性は要注意!

多田文明詐欺・悪徳商法に詳しいジャーナリスト
(提供:CarteBlanche/イメージマート)

SNS上で30代の男性を狙って仕掛ける「稼げる情報あり」という手口が、国際ロマンス詐欺による高額被害女性を取材していくなかで、新たな被害として見えてきました。

男性には公営ギャンブル、女性には詐欺被害の回復を持ちかけるといった、ターゲット別にやり方を変える手口の緻密さがみえています。

男性らは「稼げる情報あり」というアカウントをフォローしたり、情報の内容を聞こうと気軽にメッセージを送ったりしたことがきっかけで被害に遭っています。

男性たちの振り込み先の口座は、前回の記事 「死にたいです」1000万円もの詐欺被害者を狙い、さらなる被害に追い込む、新たな二次トラブルが発生! にて、国際ロマンス詐欺の被害女性らが、弁護士費用の名目でお金を振り込まされた口座と同じでした。

どのような手口なのでしょうか。

30代男性Aは、今年の春、SNS上で「競艇、競輪、中央競馬の勝てる情報の配信をしている」というアカウントをフォローしました。すると、持田(仮名)なる男からメッセージが届きます。

「月額1万円のマンツーマン指導で、博打(ギャンブル)で勝てる方法を教えます。ひと月のレースの回収率が100%を切った時には、返金します」

その後も男からは「絶対に勝たせます」というメッセージを何度も受けたことから、「そんなに自信があるなら、ちょっとやってみようか」と、軽い気持ちで1万円を口座に振り込み、情報をもらうことにしました。

実は、この1万円がミソで、金額のハードルを低くして誘いの手を伸ばしていたのです。

持田からは、競馬のメインレースのA馬の複勝(3着以内に馬が入れば当たりとなる)を買うように指示されます。ネット競馬で3万円分を買うと、A馬は1着になり、数千円が儲かりました。

というのも、この馬は圧倒的な1番人気でした。最初は、こうした確実なものを買わせることで、確実に儲けられる印象を与えようとしてくるのです。しかしながら、その後に買ったB馬は人気馬でありましたが、はずれます。

さらに競艇で1位~3位までを着順通り予想する3連単を複数パターン購入するように指示がありました。その情報に乗っかって、お金を賭けてみましたが、これまた、はずれます。

一週間ほど、忠実に男の情報をもとに購入しましたが、負け続けてしまいます。男性は、当初、公営ギャンブルで使う予算を3万円と考えていましたが、はるかにその額を超えたお金を使ってしまいます。

男性は情報に不信感を覚えて、解約を依頼しました。

すると持田は約束通りに「1万円を1ヶ月後に返します」と連絡してきます。

男性Aは信じて待ちましたが、一向にお金は振り込まれず、催促し続けると、連絡が途絶えてしまいました。

男性Aは1万円の被害で済んだわけですが、その理由は後に、お話をします。

130万円の被害にあった男性のケース

持田は相手によって手口を変えています。

男性Bは、130万円を超える被害に遭いました。

彼もSNSのアカウントをフォローすると、「マンツーマンで競艇のサポートさせて頂きます」というメッセージが届きました。やりとりを始めてまもなく、持田は「マンツーマンの指導よりも、自分にお金を預けて、代理購入をした方が、効率よく儲けられる」と言ってきます。そこで、7万円ほどを振り込みました。

男からは「お金は確実に増えています」「今日は、20万円以上は儲かった」というメッセージとともに、舟券の高額的中の画像が送付されてきました。

競艇歴が数年の男性Bは、これを見て驚きます。

「こんなにも当たる情報をもっているのか」と。

その気持ちを見透かすように、持田に「もっと儲けるためには、まとまった額の資金がもっと必要です。必ず増やします」と自信たっぷりに言われたため、男性Bは、一気に120万円を振り込みました。

その後も毎日のように連絡がきます。

「もっと資金があれば、もっと儲かる。1か月あれば、もっと大きなプラスにできる」

その言葉を信じて、お金を振り込み、総額は130万円を超えてしまいました。

しかし、一向に振り込みがありません。心配して「本当に、お金は増えていますか?」と尋ねると「確実に増えています」との答えが返ってきます。それでも、彼が怪しんで「証拠をみせてほしい!」と繰り返し迫り続けると、持田はあっさりと「実は、お金を運用して、儲けているというのは嘘でした」と白状します。

男性Bは元本を含めて返金するように迫ると「わかりました。月末に3万円ずつを返していきます」と答えます。しかしながら、お金は一銭も振り込まれず、ついには、連絡が取れなくなりました。

転売話をもちかける手口も展開

30代男性Cは、月額の1万円を払い、情報を提供してもらい、競艇、競馬に賭けてみましたが、まったく当たらないので「やめたい。1万円を返してほしい」と告げました。

すると男から「会員の中でも、一部の人にしか教えてない情報があるのですが」と前置きをされて、次のような提案をされました。

「確実に儲かる転売ビジネスの情報があります。やってみませんか?」

すでにギャンブルで損をしていたこともあり、彼がこの稼げる情報に関心を寄せると、持田は「みなさん、確実に稼いでいますからやってみましょう」と強く誘います。

その内容について「今、人気の家庭用ゲーム機が品薄で高値で売れる状況でして、それを転売することで、確実に利益を出せるのです」と言います。「1台5万円で購入して転売すれば、必ず1万5千円の利益が出ます」と断言します。

そこで男性Cは25万円を振り込みます。

さらに「台数に空きが出たので、買いませんか?」と言われて、10万円ほどを振り込みます。

その後も「抽選しないと購入できない、有名ブランド品の転売もあります」と誘われます。

持田は信じこませるために「抽選に当たったバーコード」や「車に積み込んだ段ボール箱」の画像を送ってきました。これらを見せられたことから、男性Cはお金を振り込み、総額は45万円を超えました。

男からは「3日後には利益が確定しますので、送金します」と言われますが、一向に振り込まれず、最終的には連絡が取れなくなっています。

実は、最初の被害男性Aもギャンブル情報を受け取って負けているなかで、「転売話がある」との情報を持ち掛けられていました。しかし、彼はこの話をやんわりと断っていました。それで、被害が1万円で済んだのです。

この転売話は、国際ロマンス詐欺の被害女性も受けていました。

持田から「被害を回復するために、人気ゲーム機の転売に投資してみないか?」と言われて、数百万円ほどを渡してしまい、一気に被害金額が膨らみました。

そこで、被害男性Cのもとに送られてきた段ボール箱の写真を見せてもらうと、先のロマンス詐欺の被害女性に送付されてきたものと、まったく同じものでした。

プロスペクト理論を利用した巧妙な手口

男性らにギャンブル情報で負けさせて、それを取り返したいという思いにさせて、転売話を持ち掛けて多額のお金を取る。国際ロマンス詐欺の被害女性たちも同じで、すでに多額の被害に遭っている状況につけこまれ、それを取り戻したい思いにさせてお金を出させられる。

これはまさに、プロスペクト理論を利用した手口といえます。

これは、人が損得勘定をするなかで、どんな行動を取るのかを説明している理論です。

もし「『何もせずに5万円がもらえる』と言われた」場合と、「サイコロを振って偶数が出れば50万円がもらえて、奇数が出ればお金は受け取れない」との二つの選択肢があったとして、どちらを選ぶでしょうか?おそらく多くの人は確実にお金をもらえる前者を選択するに違いありません。

しかし、50万円の借金を抱えて返済に苦しんでいる状況だったとすれば、どうでしょうか。この状況下で、同じ問いをされたら、リスクの高い後者の方を選んでしまうことでしょう。

つまり、人は損失を抱えていない場面では、確実な方を選びますが、借金など損を重ねている状況では、それを取り戻そうとする思いが働き、リスクのある選択をしてしまうものなのです。

これは、キャンブル情報でお金を損させた状況を作らせておき、「儲け話を持ち掛ける」という巧妙な手段だったというわけです。

すでに持田の口座は凍結されましたが、お金はほとんど残っていません。足がつかないように、口座のお金はすぐに引き出し、プロスペクト理論を利用するような巧妙なだましを仕掛けているところから、男はかなりの詐欺に精通した人物とみられ、その背後に、組織的犯罪の影も見え隠れしているように感じます。

今、コロナ禍で自宅から公営競技にネットで賭け事をする人が多くなってきており、昨年度の公営競技の売り上げは前年度を上回っています。まさに、この手口はネットで公営競技を始めた経験年数の浅い人たちを狙った手口といえるでしょう。

SNS上だけのやりとりだけで、顔の見えない相手と、お金のやりとりをすることは極めて危険です。相手からブロックされてしまうと連絡が取れなくなってしまうからです。ネット上でお金のやりとりをする際には、相手の電話番号や住所などをしっかりと確認しておくことは、リスクを下げるための必須事項になります。

詐欺・悪徳商法に詳しいジャーナリスト

2001年~02年まで、誘われたらついていく雑誌連載を担当。潜入は100ヶ所以上。20年の取材経験から、あらゆる詐欺・悪質商法の実態に精通。「ついていったらこうなった」(彩図社)は番組化し、特番で第8弾まで放送。多数のテレビ番組に出演している。 旧統一教会の元信者だった経験をもとに、教団の問題だけでなく世の中で行われる騙しの手口をいち早く見抜き、被害防止のための講演、講座も行う。2017年~2018年に消費者庁「若者の消費者被害の心理的要因からの分析に係る検討会」の委員を務める。近著に『信じる者は、ダマされる。~元統一教会信者だから書けた「マインドコントロール」の手口』(清談社Publico)

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