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「死にたいです」1000万円もの詐欺被害者を狙い、さらなる被害に追い込む、新たな二次トラブルが発生!

多田文明詐欺・悪徳商法に詳しいジャーナリスト
(写真:beauty_box/イメージマート)

「もう死にたいです」

深刻なメッセージが届きました。

話を聞けば、国際ロマンス詐欺で1000万円以上の被害に遭っているうえに、さらなる借金を重ねて、男性に数百万円を預けたけれど、お金を返してもらえないというのです。

今、被害に遭った人に、お金を払えば被害回復ができると声をかける、二次トラブルが発生しています。

国際ロマンス詐欺とは、SNSで知り合った外国人とメッセージのやりとりをしながら、恋愛感情を抱かせられたり、結婚を意識させられてお金を振り込ませようとする手口。

これまでは軍人や医師をかたることが多かったですが、今は、アジア人の異性が偽の投資サイトに誘導して、ビットコインで送金させることも多くなってきている。

二次被害のきっかけは、SNSです。

彼女自身、被害は公には書き込んではいませんでしたが、リツイートやフォローし合う人の状況などから、詐欺に遭った人物ということがわかったのでしょう。

男から「今まで、詐欺師と戦ってきて、お金を取り戻せる経験があるから、力になりたい。被害の状況を教えてほしい」という熱い内容のメッセージが届きます。

この人物のプロフィールには、お金の取り戻し方を無料で教えるといった内容が書かれており、貯金をすべて失った状況下で、お金をわずかでも取り返せる話が聞ければと思い、彼女は連絡を取りました。

その後、彼女は男に100万円を渡し、その後も何度も無心されて、多額の金額に膨れ上がってしまいました。すべて借金です。

調べてみると、この男による被害は彼女だけでなく、他の国際ロマンス詐欺に遭った女性たちにも同じ手が使われていました。

1000万円以上の被害に遭った別な女性も、「相手の名前、連絡先などがわかれば、犯人が特定できます」「被害金が戻せます」というメッセージを受けて、男に総額400万円以上を振り込みました。しかし最終的には、SNS上で相手からブロックされて、連絡が取れなくなっています。

これはあらゆる詐欺被害者に起こり得るもので、一度でも何かしらの方法でお金を取られた経験のある人は十分に気をつけてほしい手口です。

では、どんな手口でお金をとっていくのでしょうか?

まず金銭的に困っている状況につけ入ってきます。

「自分は苦しんでいる人がいたら、声をかけて助けている」

「社会貢献として、無料で行っている」などと言って、相手の心を開かせようとします。そして、具体的な借金の状況や資産の状況を聞き出します。

そして「僕が、必ずや詐欺の被害金を取り戻してみせる」と言うのです。

本来、返金の交渉は、弁護士か司法書士しか、行ってはいけないものですから、この時点で違法性があるといえます。

そこで、男は次のような提案をします。

「あなたの代わりに、自分が弁護士に依頼をして、返金の話をつけてあげますね」

つまり、詐欺被害を受けた者の代理人として、弁護士と契約をして、解決に導き、返金手続きをするというのです。

「弁護士に依頼するには、着手金が必要です」

人によって金額は違いますが、数万円~100万円ほどを渡すように言ってくるのです。

国際ロマンス詐欺では犯人はなりすました外国人で、相手がどこの国にいるかもわかりません。しかも最近は、偽の投資サイトに誘導されて、多額のお金を仮想通貨で海外送金させることも多く、投資サイトの運営業者の所在地さえも、なかなか判明しません。

詐欺犯が誰か、どこにいるかもわからない状況下で、返金された方は私の知る限りいません。

それにもかかわらず、「返金ができる」という話をして、弁護士への費用名目でお金を取ることは、絶対に許されない行為です。

メッセージだけのやりとりで、お金を振り込んだ方もいらっしゃいますが、実際に男と会って話をして、お金を渡した方もいます。

時に、男は実在する弁護士事務所と弁護士名を出してくるケースもあります。

この辺りは極めて巧妙なのですが、被害女性が男の名前で依頼を受けたかを確認しようとしても、弁護士事務所からは「お答えできません」の回答が来るだけです。

当然といえば、当然ですが、守秘義務があるゆえに、答えることはない。それもわかっているのでしょう。真偽が確かめられない状況で、被害者に弁護士事務所と弁護士名を伝えているのです。

「諦めちゃだめだ!」

すでに国際ロマンス詐欺の被害に遭って折れかけている心に、この言葉をかけられて、勇気をもらったような思いから、どんどんお金を渡してしまいます。

「あなたの被害は高額なので、もっと着手金が必要になりました」「犯人が特定できそうなので、交通費やその他のお金がかかってきます。」というもっともらしい理由で追い金を要求してきます。

さらに「僕が見捨てたら、あなたは死んでしまいそうだから、僕は君を見捨てない」「SNSは、詐欺だらけだから気をつけてね。僕は大丈夫だから、信じてください!」という言葉まで吐いて、とことんまでお金を取ろうとしてきます。

そして「もうお金は借りられない」と困り切った女性に、男は心に寄り添ったフリをしながら、「借金の返済で苦しめているのは、僕なので、自分の責任で何とか解決してあげるね」と、自分が借金を作らせて、自分が解決するという、マッチポンプな手法を使い、どんどん深みにはまらせていくのです。

被害者を狙う卑劣な手口

国際ロマンス詐欺に遭った人たちは、同じ被害に皆が遭わないように、またいち早く詐欺に遭っても気づけるようにと、その手口を自分たちのSNS上で公開しています。それにより、被害に途中で気づいた方も多くいます。

その善意を悪用しようとしてくるとは、卑劣極まりないとしか言いようがありません。

ネットでは善良な人たちだけではなく、犯罪者も見ています。そうした人物らが、被害者の思いを踏みにじるような行為で、足元をすくってだまそうとしている現状があるのです。このことを心に留めての情報発信が必要です。

二次被害に遭った女性は「周りに相談できる人がいなかった。『ここまで心配してやってくれる人はいないでしょう』と言われて、心を許してしまいました。親にも、国際ロマンス詐欺の件で迷惑をかけていて、今回のことは心配させたくなくて、話せなかった」と、涙ぐみながら話します。

別な女性は「男性が、詐欺師を捕まえるために必死になってくれていると思い、私も頑張らなくてはと、お金を出してしまいました」と言います。

真面目な人ほど、詐欺に遭い、だまされてしまうのです。

今、被害回復のためと称して、お金を預かり、ノラリクラリと返さない手口で、被害者を再び狙うケースが起きています。

「あなたを助けます。解決します」と、悪人たちは、本心である狼の顔を隠して、羊の皮をかぶってやってくるものです。そして、周りに相談できない状況を利用しながら、だまそうとしてきます。

一度被害に遭った方が、再度、お金を出さなければいけない状況に陥った時には、ためらわず、身近な友人、知人、親、そして公的機関に相談することを絶対に忘れないでください。

現在、この男の口座は凍結されていますが、お金はすでに引き出されており、残高はほとんどありませんでした。この用意周到さに、組織的犯罪の臭いも漂ってきています。

さらに、今回の事件をたぐっていくなかで、同じ男の名前による、男性らを狙う、別な形の金銭トラブルも起こっていることもわかってきました。改めてご報告いたします。

詐欺・悪徳商法に詳しいジャーナリスト

2001年~02年まで、誘われたらついていく雑誌連載を担当。潜入は100ヶ所以上。20年の取材経験から、あらゆる詐欺・悪質商法の実態に精通。「ついていったらこうなった」(彩図社)は番組化し、特番で第8弾まで放送。多数のテレビ番組に出演している。 旧統一教会の元信者だった経験をもとに、教団の問題だけでなく世の中で行われる騙しの手口をいち早く見抜き、被害防止のための講演、講座も行う。2017年~2018年に消費者庁「若者の消費者被害の心理的要因からの分析に係る検討会」の委員を務める。近著に『信じる者は、ダマされる。~元統一教会信者だから書けた「マインドコントロール」の手口』(清談社Publico)

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