JRAの不正受給問題の処分が発表。なぜ、手厳しい報道やコメントが、出てくるのか。その理由について。

(写真:Paylessimages/イメージマート)

4月10日、JRAから持続化給付金の不正受給の問題について、13人の騎手を始め、調教師ら関係者170人に対して、戒告、厳重注意、注意の処分が発表されました。そのうち、最初の調査において虚偽回答をした3人は、5日間の出勤停止。また、100人以上に受給申請の手法を指南したとされる税理士に対しては、現行法規での対応は難しいとして、処分なしとなりました。

今回の裁定に関して、皆さんはどのように、お感じになったでしょうか?

「とても納得のいく処分内容だ」と腑に落ちたという方はどれだけいたでしょうか。なんとも、釈然としないものを感じた人の方が、多いのではないかと思います。

ここにこそ、今回のポイントがあると考えています。

持続化給付金受給問題、JRA戒告止まりの大甘裁定 指南の税理士処分なし (デイリー)

不適切受給税理士処分できず残るもやもや/記者の目 (日刊スポーツ)

記事だけでなく、処分を伝える報道に寄せられるコメントにも手厳しいものが多く見受けられます。

JRA給付金不適切受給 170人処分 調教助手3人出勤停止(毎日新聞)

なぜ、こうした受け止め方をされてしまうのでしょうか。

理由は二つあると考えています。

一つは、具体的な事実がよく見えないままに、処分だけが伝えられたためと考えます。

今回、167人が新型コロナウイルスの影響がないにもかかわらず、持続化給付金の申請をしてお金を受け取りました。そのケースは各人により異なっているはずですが、個別の状況について、詳細がつまびらかにされないまま、処分が発表されました。これでは今回の処分が適切であるか否かは、私たちの目からは、よくわかりません。

これまで不正受給の取材をしてきてわかるのは、「不正な申請を指南する役からの依頼を勧誘者が受けて、実際にお金を受け取る人を募る」といった、大まかな流れは共通していても、一人一人がお金を受け取った状況や経過は違っており、それを見ずして、真実は見えてきません。

特に大事なのは、「いつ」(When)「どのような形」(How)で勧誘を受けて、申請を行い、「いかなる理由」(Why)で給付金を受け取ったのかです。それが詳細に説明されてこそ、多くの人からの理解や納得が得られるのではないかと思います。

当然、申請を指南したとされる税理士に対する処分についても同じで、個別の事案が見えない状況では、「処分なし」が、止む無しなのか、否かも正直、はっきりしません。

二つ目は、経済産業省が「売上減少の理由が、新型コロナウイルスの影響でないのに申請する」ことは「不正受給」との強い警告をしているのに対して、JRAからの「不適切受給」としている点についての違いの説明も、まだ足りないように思います。

不正かどうかについて、JRAとしては「うまく解明できない」ゆえに「不適切受給」との判断になっているとのことです。ですが、どの部分に対して、どのように解明できないのか。やはり、個別事案をもっての説明が求められます。

持続化給付金は、国のお金です。公金を受け取るのに、偽った申請をしているとすれば、それ自体で不正行為を問われると一般的には考えられますが、今回はそうではなく、不適切な受給としています。

この点を明確にしてほしい理由に、ある大きな懸念を持っているからです。

持続化給付金の支給により、コロナ禍で経済がストップして生活苦に陥るなかで、命を救われた人もたくさんいると思います。もしかすると、これから新型コロナの4波がやってこようとしている状況下で、さらなる持続化給付金の支給もあるかもしれません。

その時、本来の趣旨に反した形で、新型コロナの影響がないのに「影響があった」と偽りの申請をして、国のお金を受け取ってしまっても「不適切だった」との理由で、「返金すればそれで済む」とした行為が是認されてしまうような、社会の流れを作ってしまうことになりはしないかと心配しているからです。

悪意を持った者たちは、小さなほころびに、つけ入ってやってくることを、これまでの詐欺や悪徳業者の取材を通じて感じています。それだけに、この風潮ができてしまうと、今回のケースを事例に挙げながら、「罪には問われない。不適切な受給になるだけだから、受け取ろうよ」と制度の間隙を縫って囁きかけて、不正に受給者を募りやすくなるのではないかを危惧しています。

この不正受給の問題に先鞭をつけたのは、JRAだからできたことだとも思っており、非常に評価しています。それにより、ボートレースでも同様な事案があったことも明らかになりました。それだけに、今回の対応しだいでは、社会に大きな流れをつくることになるため、どの部分が不正とまでは解明できず、どこからかが不適切との判断になるのかの、丁寧な説明が必要だと考えるのです。

すべての事案を一括りにして、よいのかもわからない現状も

不正受給問題が起きた時に、池添謙一騎手がTwitterで、貴重な声を発してくれました。

「コロナの影響で、東西間の移動が制限されて騎乗できた馬もできなかった」との話を聞き、少なからず影響を受けた騎手もいたこともわかりました。

確かに5月の緊急事態の宣言下、先行き不安のなかで、競馬界にも影響があると思って、受給申請した人もいるでしょう。となれば、情状酌量の余地もあるかもしれないと得心しました。

しかしその後、コロナの影響で無観客とはなりましたが、中止になったレースはないどころか、昨年の競馬レース数は過去最多となっています。新型コロナの影響がない状況が見えてきているなかで、受給申請した人と、先の申請者たちとは事情は違います。

さらに11月になって、競馬関係者は「持続化給付金の申請事業者に該当しない」との見解を示して「申請しないように」呼びかけたと言います。それにもかかわらず、給付金を受け取った人がいたとすれば、事情はもっと違うはずです。

このような違いがあるなかで、すべての事例を「不適切受給」の言葉で一括りにしてよいものかも、個別の事例がわからない状況では、これもまた判断がつきません。

親切、丁寧な説明こそが、信頼の第一歩となりうる

なんといっても、持続化給付金の勧誘を断り、関与しなかった競馬関係者の方が圧倒的に多いはずです。今も競馬界に尽力している関係者にまで、この問題を通じて厳しい目が向けられてしまうことを本当に辛く思います。

それだけに、できるだけ多くの人に見える形で、給付の実態を明らかにして、一日でも早く、信頼回復のスタートラインについてほしいと思っています。

ちょうど、この記事を書きはじめた頃に、桜花賞のレースがスタートしました。

白毛馬のソダシが1着でゴールを駆け抜ける姿には、とても感動しました。ソダシの名前はサンスクリットで「純白、輝き」を意味するといいます。ゴールに向かって、まっすぐに駆け抜けていく、真っ白な馬体をみながら、純粋に、まっすぐに、この問題に向き合うことが何より大切ではないかと思わされました。

となれば、やはり信頼回復の一歩として、趣旨に反した形で給付金を受け取った当事者たちの反省の弁も今後、必要になってくるでしょう。今は、本当に彼らが反省しているのかさえ、私たちの側に本音は伝わってきていません。

信頼回復の歩みは、競馬ファンのみならず、社会全体への親切、丁寧な説明であるべきだと思っています。今回の処分発表は、その途上に過ぎないものと考えています。