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なぜ、つかまらない!その理由とは。SNSに潜む、新型コロナ後遺症にも効果あり!?と謳う悪徳商法の実態

多田文明詐欺・悪徳商法に詳しいジャーナリスト
(写真:PantherMedia/イメージマート)

「このまま市販の薬を飲んでたら、毒素がたまります」

そう言って、不安になったところで、特定の健康飲料を勧める。

エビデンスがないにもかかわらず、さも症状に効果があるように謳って健康食品などを販売すると、医薬品医療機器等法違反になります。

今は新型コロナウイルスの第3波による感染者が急増しており、多くの人が健康不安を感じているなか、注意したいのがこの手口です。

7月に医薬品として承認されていないサプリメントを「新型コロナウイルスに効果がある」とネット上で謳い、販売したとしてエステ店の女性らが警視庁に逮捕されています。11月には「新型コロナの殺菌ができる」と、うがい液を販売した歯科医師らが逮捕されており、新型コロナウイルスに便乗して違法な販売をした業者は次々に捕まっています。

しかし一方で、冒頭にあげた「毒素がたまる」の文言のほか「エイズやインフルエンザを無害化」「新型コロナが退治できる」といって商品を売りながら、いまだつかまっていない人たちもいます。この違いはどこにあるのでしょうか?

それは宣伝をネットの表で行うか、裏で行うかの違いです。

先の逮捕された業者は、誰もが見られるネットの表玄関で宣伝を行っていました。人目につくことで、売り上げは一気に伸びますが、警察による摘発も受けやすくなります。それに対して、限られた人しか見られない閉鎖的な環境下で宣伝することで、つかまらずに商品を売り続けられるのです。

新型コロナウイルス後遺症を利用した巧妙な販売手法とは

入口には人々が興味を引きそうなソフトな文言を並べて誘導しておきながら、中に引き入れると強引な手法で購入を迫る。これは悪徳商法に共通する手口です。

第1波が襲来した時には、風邪のような症状がありながらもPCR検査が受けられず、もしかすると自分が新型コロナにすでにかかっていたかもしれないという不安が渦巻きましたが、ここにつけこんできました。

ある女性は熱が出て下がって体調はよくなったものの、その後に、頭痛やめまい、体のだるさなどに見舞われました。

「もしかすると、自分は新型コロナウイルス後遺症かもしれない」

しかし病院に行っても対処法は見つけられず、いろんな薬を飲んで症状改善に努めているなか、SNSでAという人物の書き込みを見つけたのです。

「新型コロナウイルスの微量感染は多くあります、(PCR検査が)陰性だからといって、感染していないわけではありません。情報に惑わされず、正しく予防と対策をしましょう」

(※ 被害者の特定を避けるため、書き込み内容や言い回しを本文中ではかえています)

ここには、新型コロナウイルス後遺症を改善させるために、どんな薬やサプリを飲んだら良いかといった情報から、健康になるための食事療法や家庭でできる運動法まで、様々なものが網羅されています。これらを組み合わせることで、体内の悪いものがデトックスされて、辛い症状が改善に向かうといいます。

女性は健康になるための有益な情報を得たいと思い、Aのアカウントをフォローしました。すると、Aからメッセージがあり、自らの症状を話すと、十数人のグループで形成された非公開のアカウントに誘われました。

この非公開グループでは、Aが健康不安を抱える人たちの悩みや症状を聞きながら、アドバイスを行います。そして、症状改善のために特定のサプリや健康飲料が紹介されます。その値段は数千円から1万円ほどです。

驚くのが、非公開のグループ内で行われている商品紹介の内容です。

最初にあげた「エイズやインフルエンザを無害化」「新型コロナが退治できる」だけでなく、「原発事故の時、〇〇を飲んだ作業員だけが被ばくしなかった」「サリン後遺症の人が歩けるまでに回復した」といった投稿がなされています。

健康な人からみれば、真偽の確かめようもなく容易には信じないでしょうが、相談に乗ってもらっている人たちは「今の症状を少しでも改善したい」という藁にもすがるような思いから、Aの言葉を信じて特定のサプリや健康飲料を次々に購入してしまうのです。

そのなかでも、グループ内で行われた、手のひら診断を使った販売手法は、かなり強烈でです。

Aは「健康状態は手のひらに表れる」として、その写真をネットにアップすることを勧めます。そして、グループ内に手のひらの写真がアップされると、Aがその人の体の状態を診ます。

情報を寄せて頂いた方の一人によると「ある方は『この手はかなりの重病だ』と言われて『このまま市販の薬を飲んでたら、毒素がたまり病気になる』など、死んでしまうかのような怖い言葉をかけられている人もいました」と言います。

こうして健康不安をあおったところで「インフルもすぐに治る強さがあり、菌やウイルスに効果抜群」と謳う健康飲料が紹介されるわけです。値段は「コロナ禍の体調不良で苦しむ人たちのため」とのことで、約5千円だそうです。

送られてきた商品には、ラベルは貼られておらず、成分表示や賞味期限は記載されていません。ただペットボトルに白っぽい液体が入っているだけです。

巧妙な言い回しで、商品の販売をする。

この健康飲料の効果を示す資料には「コロナ感染からの救世主になりえる」との記述もみられます。この辺りも巧妙なのですが、Aは「新型コロナウイルスに効く」という断定的な言い方はせず、「効果があると思わせる」言い回しをしてきます。これはもし、違法性を追及されても「効くとは、言っていない」と言い逃れできるようにするためでしょう。

深刻なのは、情報を寄せて下さった多くの方が健康情報をAに伝えているために、何かしらの報復を受けはしないかという恐怖心を抱いていらっしゃいることです。

健康不安を人質にとり、被害の声を上げさせないようにする点も巧みです。

相談はどこにするべきか?

この件について、消費者センターにも相談された方もいます。しかしセンターからは「Aは情報を書き込んでいるだけで、販売元との関係がわからず、証明しにくい」と言われています。

消費者庁は2021年から、AIを使い「新型コロナウイルスに効果がある」とネット上で謳う業者を監視する実験をスタートさせるとのことですが、こうした非公開で行われるものには、監視の目は及ばないことでしょう。

やはり、こうした悪質な販売手法を受けた方が、消費庁の景品表示法違反被疑情報提供フォームや、農林水産省の食品表示110番へ連絡することが、今後も重要になってきます。

新型コロナから改善した後も、体に変調をきたす人は多くおり、これからも、こうした人たちを狙う輩は出てくるでしょう。非公開の場で宣伝を行う行為は、公的機関が調べづらいこともあり、跋扈する恐れもあります。

くれぐれも甘い言葉で引き入れられた後、裏玄関で違法な販売手法に遭った時には。お金を出す前に心に警戒の鐘を鳴らし、相談、通報して頂ければと思います。

詐欺・悪徳商法に詳しいジャーナリスト

2001年~02年まで、誘われたらついていく雑誌連載を担当。潜入は100ヶ所以上。20年の取材経験から、あらゆる詐欺・悪質商法の実態に精通。「ついていったらこうなった」(彩図社)は番組化し、特番で第8弾まで放送。多数のテレビ番組に出演している。 旧統一教会の元信者だった経験をもとに、教団の問題だけでなく世の中で行われる騙しの手口をいち早く見抜き、被害防止のための講演、講座も行う。2017年~2018年に消費者庁「若者の消費者被害の心理的要因からの分析に係る検討会」の委員を務める。近著に『信じる者は、ダマされる。~元統一教会信者だから書けた「マインドコントロール」の手口』(清談社Publico)

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