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出会ったアジア人に誘われて。1500万の仮想通貨の詐欺被害も!(2)新手のロマンス詐欺がやってきた!

多田文明詐欺・悪徳商法に詳しいジャーナリスト
(写真:Panther Media/アフロイメージマート)

前回は、「プリペイドカードを買ってきて」や、ブラックマネーを絡めた国際ロマンス詐欺を見てきました。

あなたの知らないロマンス詐欺がやってくる。(1)「プリカを買ってきて」から、黒い紙幣まで登場

最近は、アプリをインストールさせて騙す、アジア人によるロマンス詐欺が出てきています。

40代女性は、3月下旬にマッチングアプリで台湾人の30代男性と出会いました。

彼は投資家で、資産はスイス銀行にあると自己紹介してきます。

「ハニー、自分は歳上の女性が好みなんだ」「あなたと結婚したい!」とメッセージアプリでやりとりをするなかで、男は言ってきます。彼女は結婚について「考えていません」と断っても、男は「あなたと一緒に過ごせればそれでいい」と熱烈なラブコールを送り続けます。

彼女に恋愛感情を抱かせながら、将来の夢を口にします。

「これからの二人の生活のために、東京に家を建てよう。私はあなたと一緒に暮らしたいんだ。それにコロナが終息したら、一緒に世界じゅうを旅しよう!」

彼女が嬉しい気持ちになるなかで、男は「そのためにまず投資をしてお金を稼ごうよ!」と言ってきます。

男は毎日のように、株などの投資のデータを解析している様子の写真を送ってきます。

そこで紹介されたのが、カーレースで着順を予想して、お金をかける形のオンラインカジノでした。

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(実際に被害を受けたカジノサイト、被害者からの情報提供写真)

「ここに投資をしようよ。ここなら、データを毎日解析しているから必ず儲かるよ」

「ここでは5千円、1万円からでも始められる」と少額からスタートできることをアピールします。

しかも男は「カジノ」などの言葉は一切、使わず、「投資」という言い回しで話をしてくるため、ギャンブルに詳しくない彼女はリスクの少ない投資だと思わせられて参加を始めています。

しかも、このサイトではUBS(スイス銀行)のロゴマークを使っており、彼からも「ここはスイス銀行の中国ファンドだから」との説明を受けて、彼女は「公式なところがやっているなら、安心かな」と思ったといいます。

このオンラインカジノに参加するには、まずスマホにアプリをインストールさせて、アカウントの設定をします。

入金する際は、まず運営会社のカスタマーセンターに、アプリ内のメッセージから連絡をして、振込先の口座を教えてもらいます。初回時のみ、身分証を添付するようになっており、彼女は運転免許証、パスポートの写真を送りました。そして、お金を振り込んだ後に、入金した額を米ドルに換算して、自分で金額をアプリ画面に入力します。最終的に運営会社が入金を確認後に、サイトに反映される形になっていました。

4月頭、彼女は1万円を銀行口座から入金しました。

レースは3分置きに行われて、米ドルをかけて着順を当てるようになっていました。

もちろん、どのレースの、どの番号の車に、幾らかけるのかは、台湾人の男がメッセージで指示してきます。

その通りに、1万円を元手に4~5回かけると、その日は5千円増えました。

「あ、凄い。当たった!こんな感じで増えるんだ!」

その時、彼女は思いました。2日後も3万円を入金すると、また1万5千円ほどお金が増えていきます。

一週間ほどして、男は「入金額が多ければ増えるのが早くなる。コロナで大きな金融危機が来る前に稼ごう。10万円単位の入金にしてくれないか」と言います。男からは「2000ドル(約20万円)」を指示されましたが、急には用意できず、10万円を工面して入金しました。すると、日本円で5万円ほど増えました。 

この月だけで、元金15万円で総額40万円になりました。

彼女はお金が増えていることに安心しきっており、お金が増えれば増えるほど、彼への信頼度も増していきます。

さらに、男からは「20万円の入金をしてくれ!」と急かされましたが、この時は用意できずにいると、負けてしまい、ほぼお金がゼロになってしまいました。

すると男は怒り始めます。

「あなたの入金がいつも遅すぎるので、十分なデータが手に入れられず、精度の高い解析ができなかった。だから、負けたんだ!」

「ごめんなさい」

落ち込む彼女に、一転、男は優しい言葉をかけます。

「お金を早く入金して、もう一度、頑張って稼ぎ直そうよ!自分は、あなたの人生を必ず変えるから」

厳しさと優しさ、硬軟を織り交ぜるのは、まさに詐欺師のものの言い方です。

しかしこのテクニックに気づかない彼女は、「この人は真剣に私を幸せにしようとしてくれている。私と一緒になりたいんだ」と強い愛情を感じてしまいました。

このロマンス詐欺の巧妙さは次のようなところにもあります。

彼女自身の生活費が足りなくなってしまい、5万円引き出しの依頼をカスタマーセンターにしたところ、翌日、口座に5万円が振り込まれました。このすばやい対応に、彼女は「依頼すれば、お金は戻る、きちんとした運営会社」と思ってしまったのです。こうしていったんお金を戻すことで信頼を取り付ける手立ても使います。

その後も入金し続けていくと、アプリの画面上で1万1千ドル(110万円)にまでなっていきました。

彼女は、メッセージのやりとりだけで、彼になかなか会えない寂しさから、別なマッチングアプリを何気なく見ていると、なんと彼の顔写真を使った別のプロフィールが出てきたではないですか。驚いて画像検索すると、彼の顔写真は、中国語の素材サイトで販売されていました。

彼女は男に問い詰めます。

「あなたの写真は偽物ではないのか!」

しかし男は「私の写真は悪用されたんだ」と言ってきます。

恋愛感情を抱かされている彼女は、彼との絆を失いたくはありません。

彼の強い口調のメッセージにその言葉を受け入れざるを得なかったそうです。

不信感を持ちながらも、「彼を信じたい」思いで、ゲームを続けると、今度は一気に負けてしまい、残り3ドルに減り、2日後には、男がLINEから消えてしまいました。

おそらく、詐欺がバレたと思い、姿を消したと思われます。

その後、彼女はカスタマーセンターに被害を申し立てたところ、「あなたは既にゲームに負けているから、お金は戻らない」「その男と私達はまったく関係ない」と門前払いされます。

しかし後に、このサイトと男もグルだったことがわかります。

それは、公式のUBS(スイス銀行)から出された「UBSを冠したオンラインギャンブルサイトについて」の注意喚起でした。

「当社を含むUBSグループは上記サイトを運営しておらず、また、インターネットギャンブリング(クジやゲームを含む)に関わる事業は行っておりません」また、偽の業者がUBSの名前を騙って「私共と関係があると偽り、現金を騙し取るようですので、ご注意ください」と書かれていました。

翌月には、このカーレースのアプリ自体が消えてしまいます。

結局、彼女は、台湾人の投資家を名乗る男に3ヵ月にわたり57万円を騙し取られました。

しかし今も、似たようなレーシングカーのオンラインカジノは存在しています。

仮想通貨オンラインカジノ被害も発生

恋愛感情を抱かせた後に、オンラインカジノへ誘導される手口は多発しており、他にも、イケメンの韓国人男性から投資話を持ち掛けられた30代女性は、カーレースのサイトに誘導されています。そして仮想通貨取引所に口座を作らせられてから、ビットコインでアプリに入金するように促されて、被害金額は約1500万円にもなっています。

「一度は、婚活アプリで出会ったイギリス人男性からのロマンス詐欺は撃退したはずだったのに、その2ヵ月後に韓国人にやられてしまいました。まさか自分が騙されるとは、という思いです。もう悔しさを通りこして、涙も出てきません」彼女は正直な心境を吐露します。

被害は水面下で広がっている。

今回、オンラインカジノでの被害に遭った方々は警察に行って相談はしたものの、被害届は受理されていません。被害を公にできずに、泣き寝入りしている人は、かなりの数に上っていると思われます。

今、コロナ禍でオンラインで出会いを求める人たちを狙う詐欺の手口は多様化しています。

詐欺・悪徳商法に詳しいジャーナリスト

2001年~02年まで、誘われたらついていく雑誌連載を担当。潜入は100ヶ所以上。20年の取材経験から、あらゆる詐欺・悪質商法の実態に精通。「ついていったらこうなった」(彩図社)は番組化し、特番で第8弾まで放送。多数のテレビ番組に出演している。 旧統一教会の元信者だった経験をもとに、教団の問題だけでなく世の中で行われる騙しの手口をいち早く見抜き、被害防止のための講演、講座も行う。2017年~2018年に消費者庁「若者の消費者被害の心理的要因からの分析に係る検討会」の委員を務める。近著に『信じる者は、ダマされる。~元統一教会信者だから書けた「マインドコントロール」の手口』(清談社Publico)

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