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なぜ、わざわざ商品を送るのか?実は新手だった偽ダイソン詐欺サイトの手口!謎の種送り付けとの共通点も。

多田文明詐欺・悪徳商法に詳しいジャーナリスト
(写真:Panther Media/アフロイメージマート)

今年の夏を中心に、「ダイソン」などの大手メーカーを騙る偽の通販サイトが多数現れました。そして注文したものの商品が届かなかったり、違う物が届いたといった被害相談が消費者センターに数多く寄せられています。

今回のダイソンを騙るケースは、これまでの偽通販サイト詐欺の常識を大きく変える手口だと考えています。

これを知らなければ、詐欺による被害が、今後、さらに広がる可能性もありえます。

これまでは、偽サイトで商品の注文をすると、商品は送られてこず、注文時に入力したクレジットカード番号が抜き取られ、勝手に別の高額商品が購入されて被害に遭うことが一般的でした。

ところが今回は、注文後にわざわざ、手間をかけて本人に商品を送ってきているのです。

もちろん、送られてきたものは、ダイソンの商品ではなく、帽子やマフラーといった偽のブランド品。なぜ、偽サイト側は違う商品を届ける必要があったのでしょうか?

ここには、偽サイト詐欺の進化が見て取れます。

これまでの手口を踏襲しているところは、ネット利用者はより安い値段の商品を探していますので、「正規サイトの写真や宣伝文句を勝手にコピーして貼り付けて、値段の部分だけ線を引き、80%の激安価格を提示する」や、「時機に合わせた商品を載せて、利用者を誘導する」です。過去にも、マスク、水着、ふるさと納税サイトなど、利用者にクリックしてもらいやすいサイトを立ち上げています。

今回は、コロナ禍で巣ごもり需要が増える中、ウィルスのいない清浄な環境を手にしたいと思う人たちを狙って、なかなか高価で手に入りにくいダイソンの掃除機などの商品を使い、罠にはめています。

ここからが進化です。これまでなら商品は送らないものなのですが、今回は送っているわけです。

二つの可能性を考えます。

一つ目は、「より確実に、現金を手にするため」です。

通販利用者は、ダイソンの正規サイトにクレジットカードの情報を入力したつもりかもしれませんが、実際には海外に拠点を置く、偽ブランドの販売サイトへの注文をしたことになっていて、商品が送られてきている可能性です。

ここでは正規のサイトを装うだけでなく、別の販売サイトへの注文にもつながっているという、二重のダミーページの作りになっていると思われます。

実際に、被害者はクレジット決済されて、商品が届けられています。

これまではカード情報を盗み取るのが一般的ですから、偽サイト詐欺で本当に注文した金額でクレジット決済されるなどありえません。

正直、数々の偽サイト詐欺を検証してきて、常識を打ち破るこの手法に衝撃を受けました。

この背景には、クレジットカードの不正使用の警戒感があると考えています。

本来は盗んだクレジット情報を使って、どこかの家電サイトなどで商品を購入したいところですが、多くの通販サイトで、カード悪用を防ぐための不正検知システムを導入しています。もしカード利用者が、通常行っている購買パターンと違っていると、不正使用が検知されてしまうのです。

ここには、他人のカードを使っての不正購入がやりづらくなった事情があるのではないかと思います。

当然、クレジットカードを使用して、販売業者に入金されるまではタイムラグがあります。その時間を稼ぐために、あえて商品を送っておくこともありえます。もしメールなどで、利用者から違う商品が届いたとの問い合わせを受けたら「間違えました」と言い訳をして時間を稼げば、確実に現金を手にできるわけですから。

これまで偽サイト詐欺で、カード番号が不正使用されると、数万円以上の高額な被害になりましたが、今回は一件あたり、7千円程度の引き落としと、案外、少額です。ですが、数千円でもたくさんの人から詐取することで、塵も積もれば山となります。

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(消費者庁HPより)

二つ目として、ブラッシング詐欺による、二重の騙しです。

この夏に、被害が多かったわけですが、この頃、広がったもののひとつに「謎の種の送り付け」がありました。

注文をしていない種が勝手に送り付けられてきて、一時期、バイオテロなのではないかと噂されるほどの事態になりました。

注文をしていない商品を、勝手に送り付けてくる点が共通しています。

謎の種の送り付けの目的は、ブラッシング詐欺の可能性が指摘されています。

これは文字通り、サイトをブラッシングする(優良サイトに磨く)ということです。

大手通販サイトでは、注文した商品が本人に届けば、商品購入の感想や評価をサイトに書き込めます。つまり、注文者になりすました人物が、二束三文の種を本人に受け取らせたところで、サイトに高評価を書き込むのです。それにより、高い評価を見た人たちが、その通販サイトへ訪れて注文しますので売り上げを伸ばせます。

今回の偽サイト詐欺でも、クレジット決済をした人になりすました輩が、安価な偽ブランド品を送り届ければ、その販売サイトに評価をあげる書き込みができるようになります。そして、高評価を見た人が注文すれば、偽ブランドサイトの儲けは上がることになります。すでにクレジットカード情報を盗み取り、代金も詐取していますので、まさに「二重取りの詐欺」が可能になるわけです。

こうした可能性があることから、今回の偽ダイソン通販サイトは、偽サイト詐欺の進化版であると考えます。詐欺は日々巧妙化しており、その一端を感じさせられる事件なのです。

騙されないための四つのポイント

いずれにしても、被害に遭わないためには、偽サイトかどうかの見分け方が重要になります。

最後に、四つのポイントをあげておきます。

一つ目は、消費者庁も指摘するように、販売サイトのURLを見ることです。

今回は、検索サイトに連動して表示される、リスティング広告に偽サイトが紛れ込んでおり、しかも大手SNS上に表示されたことから、公式通販サイトと思い込んで注文してしまった人も多くいました。ですので、URLをしっかり見て、公式サイトのアドレスでなく、そこに極端に商品が安く表示されていた場合は、購入を避けてください。

二つ目は、偽サイト上に振込先の銀行口座番号は載っておらず、後からメールなどで教えられます。

しかも、それが個人名だった場合は避けてください。

三つ目は、偽サイトの写真はコピーしただけなので、サイトの写真部分などをクリックしても、リンク先に飛ばない部分が多くあります。それゆえに、サイトのあらゆる部分をクリックして確かめてみるのも、お勧めです。あまりにも飛ばないところが多ければ詐欺サイトを疑ってください。

四つ目は、「送料無料」をやたらに謳うページは要注意です。

しかも、別のページを見ると、日本語がおかしいだけでなく、すべての商品に送料無料と記しながら、送料が詳しく記載されていることもよくあります。矛盾など「何かおかしい」と思ったら、注文の手を即座に止めてください。

私だけかもしれませんが、ちょっとひねくれて「送料無料は、商品を送らないから無料なのではないか」と考えて、画面をじっくり見ていただくのも良いかもしれません。

今回はダミーのダミーといった「二重の罠」のコンセプトが潜んでいるように感じています。

今後も、より進化した偽サイトが出てくる可能性があり、これまでの対策の常識が通じないこともありえます。購入時には、警戒を怠りなく、通販ライフを送っていただければと思います。

詐欺・悪徳商法に詳しいジャーナリスト

2001年~02年まで、誘われたらついていく雑誌連載を担当。潜入は100ヶ所以上。20年の取材経験から、あらゆる詐欺・悪質商法の実態に精通。「ついていったらこうなった」(彩図社)は番組化し、特番で第8弾まで放送。多数のテレビ番組に出演している。 旧統一教会の元信者だった経験をもとに、教団の問題だけでなく世の中で行われる騙しの手口をいち早く見抜き、被害防止のための講演、講座も行う。2017年~2018年に消費者庁「若者の消費者被害の心理的要因からの分析に係る検討会」の委員を務める。近著に『信じる者は、ダマされる。~元統一教会信者だから書けた「マインドコントロール」の手口』(清談社Publico)

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