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「怖くてただ怖くて」借金は1600万円、自己破産に追い込まれて【前編】繰り返される詐欺的手法

多田文明詐欺・悪徳商法に詳しいジャーナリスト
(写真:アフロ)

「電話が鳴るたびに、恐怖を覚えました」

被害に遭った当時を振り返り、40代男性は唇を震わせます。

「10社近いカード会社から、次々に支払いの催促電話がかかってきて、早朝から『口座からの引き落しができません』のメールも届きます。ポストには、支払いを催促する書面があふれて、生きた心地がしない毎日でした」

これが自身の借金ならば、自業自得といえるでしょうが、詐欺的手法によって背負わされたものです。その額は1600万円。

「よもやこんな事態になるとは思いませんでした」

それは突然に、訪れました。

彼が多額の借金を背負ってしまったきっかけは、求人サイトで見たブランド時計の買い付けのアルバイト募集です。

「前職をやめた後、次の仕事を探すまでのつなぎで、割の良いアルバイトとして見つけました」

海外に行き自分のクレジットカードを使い、ブランド時計を購入するバイヤーの仕事で、翌月に時計の代金と、購入した金額の5~6%のアルバイト代が払われるようになっていました。

都内の店舗で面接を受けた後、東南アジアへ向かい、指示された400万円の時計をクレジットで購入しました。

渡航の直前に買った時計を腕にはめて帰国するようにとの指示がありました。これは消費税を払わずに国内に時計を持ち込む密輸行為になりますが、当時の彼は依頼の受けた時計を購入しなければという使命感で頭が一杯で、それが違法行為とまでは思いが至らなかったそうです。帰国した翌月には、報酬を含めたクレジットの代金約420万円を店舗で受け取ります。

翌月も海外へ、すると今度は別な指示が。

翌月も香港へ向かい、時計を購入しました。前回と違うのは、購入した時計をアテンドしていた日本人に渡す形だったといいます。事前に、店の実質的責任者であるI男から「予約している時計を買ったら、マカオに行くように」と口頭で指示されています。

バイヤーらはアテンドに連れられてカジノに行きます。そこでチップをクレジット決済で購入して、それをギャンブルにかけることなく香港ドルに換え、アテンドに渡します。日本円で200万円ほどだったそうです。

男によると「現金をストックしておき、時計が安くなった時点で購入する」とのことでした。

クレジットのショッピング枠を利用して現金化を行っていますが、これはカード会社の規約違反になりますので、やってはいけない行為です。しかし、男はこれを指示しました。

毎回、きちんと報酬とともに、支払い日前にはクレジット代金を払ってくれますので、彼はすっかりこの会社を信用してしまい、合計8回、バイヤーとしての仕事をこなしました。

 しかし事態は急変します。

翌年1月初旬のクレジットの支払いは約800万円でしたが、突然に会社からの支払いが止ったのです。責任者である男とは連絡が取れないと、会社側の担当者は話します。さらに翌月の支払いもなされず、1600万円の負債が彼のもとに残りました。

「支払いが滞った時は、次の仕事も見つかっていない状況で、返済の催促がカード会社からひっきりなしにかかってきて、ただ怖くて、怖くて、眠れない日が続きました」と、精神的に追いこまれた胸の内を明かします。

最終的には、消費者センターに相談しました。すると法テラスを紹介されて、弁護士のもとでの自己破産となりました。今は定期的な仕事についているものの、貯金もなく、生活は苦しいままだそうです。

「長い期間、報酬を渡して信用させたうえで、突然に金を払わず、持ち逃げするこの手口は許せない」と憤ります。

 以前に「殺してやりたい」アルバイト応募から地獄を見たの記事にて、新規店舗への出店を持ち掛けられて、所有するマンションを担保に投資をし、1000万円の借金を背負わされた女性のインタビュー記事を書きましたが、あの時も、海外での買い物バイトがきっかけで、もちろん指示した人物は同じです。どれだけ多くの人が苦しめられているのでしょうか。

ジャパンライフの逮捕報道に、期待を寄せる被害者

今月17日、2100億円以上と、過去に類を見ないような巨額な被害を出した、ジャパンライフの元会長ら14人が逮捕されました。

この報道を受けて、ある被害者は「ジャパンライフの首謀者が逮捕されて、私たちの事件も詐欺として逮捕・起訴される可能性もあるのではないだろうか。少なからず期待しています。」と話します。

ジャパンライフは「破綻状況にありながらも、長年にわたって、自転車操業で経営を続けてきた」のは、極めて悪質としての逮捕ですが、買い物代行事件に共通するところが多いからです。

この行為は今に始まったことではなく、同じ人物よって、10年以上前から、タイ、香港・マカオなどで繰り返されて、被害が出ています。

手口も、バイヤーに時計を買わせる、あるいはクレジットの現金化をさせて、そこで得たお金を前回に購入したバイヤーへの支払いに充てるという自転車操業です。もっといえば、求人サイトで人を募るだけでなく、知人からの口コミでバイヤーを誘い入れることもあり、その点もよく似ています。

それにしても、なぜ、こうした詐欺的手法がなくならないのでしょうか。改めて、過去の被害者に取材すると、そこから巧妙な手口と理由がみえてきました。

後編で、その真実に迫ります。

【後編】繰り返される詐欺的手法 首謀者は10年前から野に放たれたまま。あなたの隣にいるかもしれない。

詐欺・悪徳商法に詳しいジャーナリスト

2001年~02年まで、誘われたらついていく雑誌連載を担当。潜入は100ヶ所以上。20年の取材経験から、あらゆる詐欺・悪質商法の実態に精通。「ついていったらこうなった」(彩図社)は番組化し、特番で第8弾まで放送。多数のテレビ番組に出演している。 旧統一教会の元信者だった経験をもとに、教団の問題だけでなく世の中で行われる騙しの手口をいち早く見抜き、被害防止のための講演、講座も行う。2017年~2018年に消費者庁「若者の消費者被害の心理的要因からの分析に係る検討会」の委員を務める。近著に『信じる者は、ダマされる。~元統一教会信者だから書けた「マインドコントロール」の手口』(清談社Publico)

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