イスラーム原理主義より深刻な問題は「若い男」?

(写真:ロイター/アフロ)

ヨーロッパでもっとも人気のある観光地のひとつバルセロナで、観光客ら15人が死亡、120人あまりが負傷するイスラーム過激派のテロが起きました。その後の捜査で、世界遺産サグラダ・ファミリア教会の爆破を計画していたこともわかり、世界じゅうに衝撃が広がっています。

実行犯グループはモロッコ国籍などのムスリムの若い男性12人で、イスラーム原理主義のイマーム(指導者)に洗脳され、ガスボンベを使った爆弾を製造していたとされています。そのイマームが実験中の爆発事故で死亡したため、捜査の手が及ぶのを恐れ、観光客であふれる歩行者天国に車で突っ込む凶行に及んだのです。

繰り返されるテロは「イスラームの問題」とされ、それがムスリムの反発を招き、双方が憎みあう悪循環に陥っています。

この隘路を抜けるには、白人主流派がムスリム移民への「暗黙の差別」を理解するとともに、ムスリムの側もイスラームの教義に「自由で民主的な市民社会」に反するものがあることを認める必要がありますが、これはどちらもきわめて困難です。しかしそうなると、ヨーロッパ社会はこれからもテロに耐えつづけなければならず、移民排斥の主張が勢いを増すのは避けられないでしょう。

ところであまり指摘されませんが、繰り返されるテロの実行犯にはもうひとつ共通点があります。それは犯人のなかに高齢者や若い女性がいることは稀で、ほぼ全員が「若い」「男性」だということです。いま起きているのは、高度化する知識社会から大量の「若い男」が脱落していることなのです。

すでにこれはアメリカで大問題になっていて、さまざまな調査で小学校から大学まですべての学年において女子は男子より成績がよく、2011年には男子生徒のSAT(大学進学適性試験)は過去40年で最低になり、成績表の最低点の70%を男子が占めました。女子生徒が生徒会や優等生協会、部活動などに積極的に参加する一方で、多くの男子生徒は停学や留年によってドロップアウトしていきます。そしてOECD(経済開発協力機構)によれば、これはアメリカだけでなく世界的な傾向なのです。

だとすれば、これは同じひとつの現象が、国や文化によって異なる現われ方をしているだけなのかもしれません。

社会に適応できない若い男性が「ひきこもる」のは日本社会に特有の現象とされてきましたが、いまや欧米でもオンラインゲームやオンラインポルノに耽溺する若者が急増し、“hikikomori”は英語になりました。アメリカでは、ドロップアウトした黒人の若者はギャングスターに憧れ、下っ端のドラッグディーラーになって人生の大半を刑務所で過ごします。それに対してヨーロッパでは、移民の二世、三世の「アラー世代」の若者たちが社会のなかに居場所を見つけられず、「神」と「正義」の名の下にテロリストに変貌していくのです。

確実なのは、知識社会が高度化するにつれて、ドロップアウトする「若い男」がますます増えていくことです。そしてもうひとつ確かなのは、この問題にどう対処すればいいかだれも知らないことです。

参考文献:フィリップ・ジンバルドー、ニキータ・クーロン『男子劣化社会』(晶文社)

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