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みんなが求めているのは”品のいい”安倍政権?

橘玲作家
(写真:Rodrigo Reyes Marin/アフロ)

7月2日に行なわれた都議会選挙では、小池百合子東京都知事が率いる都民ファーストの会が大勝し、都知事を支持する公明党と合わせて過半数を確保しました(小池知事は選挙後に代表を辞任)。それに対して自民党は23議席の“歴史的大敗”で、「一強」といわれた安倍政権は大きな衝撃を受けました。

この選挙結果は、「国民は安倍政権を積極的に支持しているのではなく、ほかに選択肢がないだけだ」との説を強く裏づけました。森友学園や加計学園の疑惑に加え、稲田防衛大臣の失言や豊田議員の暴言という逆風下の選挙だったとはいえ、新しい選択肢が出てきたときに、有権者は自民党を見捨てることになんの躊躇もなかったのです。

ここでのポイントは、「都民ファーストは自民党とほとんど変わらない」ということでしょう。小池都知事は日本新党で政治家としてのキャリアをスタートしましたが、その後、自民党に入党し、小泉内閣で環境大臣として入閣、2005年の衆院選では「刺客」として郵政民営化に反対票を投じた自民党議員を落選させました。第一次安倍政権で防衛大臣を務めたあと、2008年年の自民党総裁選に立候補しています。この経歴からわかるように、そもそも自民党のまま都知事になったとしてもなんの不思議もないのです。

その一方で、自民党以上に“歴史的大敗”を喫したのが民進党(民主党)で、2009年には54議席で都議会の最大政党だったのに、13年に15議席、そして今回はわずか5議席に減り、公明党(23議席)はもちろん共産党(19議席)にも大きく引き離され、このままでは「泡沫政党」になってしまいそうです。

民進党は野党第一党として、国会で安倍政権の強権ぶりを強く批判してきました。三権分立は権力の暴走を防ぐ仕組みで、こうした活動は重要ですが、残念ながらその成果は国民にはまったく評価されていないようです。

すでに論じられているように、今回の都議会選挙は、マクロン新大統領が結党した共和国前進が308議席の地すべり的勝利を収めた6月のフランス総選挙にとてもよく似ています。ここでも、保守派(中道右派)の共和党が112議席で踏みとどまったのに対し、オランド前政権で与党だったリベラル(中道左派)の社会党は30議席の歴史的大敗を喫しました。

民進党は政権を失ったあと、「リベラルの再生」を目指して安倍自民党と対決し、共産党との選挙協力を模索してきました。しかし今回の都議選やフランス総選挙をみるかぎり、この戦略が有効かはきわめて疑問です。米大統領選では、リベラルを代表するヒラリーではなく、稀代のポピュリストであるトランプが選出されました。マクロン仏大統領はオランド政権の閣僚でしたが、その政策を見るかぎり現実主義の“グローバリスト”です。リベラルの掲げる理想が輝きを失い、たんなるきれいごととして忌避されるのは世界的な現象のようです。

成熟した先進国ではもはや政策の選択肢はほとんどなく、ひとびとは“ゆたかさ”という既得権を守りつつ、大過なく日々を過ごしたいと思っています。そんな日本人が求めているのは、安倍政権とそっくりでもうちょっと品のいい政治なのかもしれません。

『週刊プレイボーイ』2017年7月18日発売号 禁・無断転載

作家

作家。1959年生まれ。2002年、国際金融小説『マネーロンダリング』でデビュー。最新刊は『言ってはいけない』。

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