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日本を救う政治家を選ぶ方法

橘玲作家

橋下・維新の会の影に隠れてしまっていますが、自民党と民主党の党首選が相次いで行なわれます。混迷する日本の政治を担う人物を、私たちはどのように選べばいいのでしょうか。

じつはこれは、科学的にはすでに答が出ています。

ひとつは、候補者の演説など聞かずに直感で決めればいい、というものです。

授業風景を撮影したビデオを大学生に見せて、その教師が有能かどうかを判断させるという実験があります。それを1学期終了後の評価と比べてみると、ほとんど違いがないことがわかりました。

当たり前だと思うでしょうが、じつは学生たちの観たビデオには音声がありませんでした。これでもまだ驚きませんか? だったら、音声なしの授業風景を10秒観ただけだとしたらどうでしょう。

実際には、この実験には5秒と2秒のビデオも使われました。わずか2秒でも、学生たちの判断はその教師の授業を何度も受けた学生と大差なかったのです。

この知見を選挙に応用すれば、告知直後に公共放送で各候補10秒の映像を流して、翌日投票すればいいということになります。これなら選挙費用もずいぶん節約できるでしょう。

ビデオ選挙があまりにも安易だと思えば、もうすこし“科学的”な選考方法もあります。

人間の耳は、500ヘルツより低い周波数は意味のない雑音(ハミング音)としか聴こえません。私たちが会話をするとき、最初はハミング音の高低はひとによってまちまちですが、そのうち全員が同じ高さにそろうことが知られています。ひとは無意識のうちに、支配する側にハミング音を合わせるのです。

声の周波数分析は、アメリカ大統領選挙のテレビ討論でも行なわれています。1960年から2000年までの8回の大統領選挙では、有権者は、ハミング音を変えなかった(すなわち相手を支配した)候補者を常に選んできました。

私たちは低周波の雑音を無意識のうちに聞き分けて、誰がボスなのかを瞬時に判断します。民主党と自民党(維新の会を加えても可)の党首のなかで誰が日本を率いるべきかは、わざわざ面倒な選挙などやらなくても、討論のハミング音を計測して決めればいいのです。

こうした心理実験は、私たちが理性をはるかに上回る素晴らしい「直感力」を持っていることを示しています。難しい理屈をこねなくても、最初の2秒の「なんとなく」で決めればたいていのことはうまくいきます。

これは考えるのが苦手な私たちにとって朗報ですが、残念ながら、直感はときどき破滅的な選択をすることもあります。それは、私たちの判断が外見に大きく引きずられるからです。

アメリカの企業経営者(CEO)の大多数が白人男性であることはよく知られていますが、じつは彼らの多くは長身でもあります。アメリカ人男性の平均身長は175センチですが、大手企業の男性CEOの平均身長を調べると182センチでした。さらに、188センチ以上の男性はアメリカ全体で3.9%しかいないのに、CEOでは3分の1近かったのです。

直感力はとても役に立ちますが、有効な領域は限られています。だからこそ私たちは、しばしば見栄えのいい愚か者をリーダーに選んでヒドい目にあっているのです。

参考文献:マルコム・グラッドウェル『第1感 「最初の2秒」の「なんとなく」が正しい』(光文社)

フランス・ドゥ ヴァール『あなたのなかのサル』(早川書房)

『週刊プレイボーイ』2012年9月17日発売号

禁・無断転載

作家

作家。1959年生まれ。2002年、国際金融小説『マネーロンダリング』でデビュー。最新刊は『言ってはいけない』。

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