「老後に2000万円」はコロナ禍でさらに縮小 「老後に55万円」でもいけるか?

2000万円が老後に必要というレポートから数年、コロナ禍で「老後に55万円」?(写真:GYRO_PHOTOGRAPHY/イメージマート)

コロナ禍で「老後に2000万円」問題はどう変化したか

2020年は新型コロナウイルスの影響で、特に高齢者の生活スタイルに大きな変化が生じました。

気軽に映画に出かけたり美術展に行くのは難しくなりました。スマホで日時指定予約が必要になり、操作ができず観覧を断念した人もあるようです。

旅行も減少しました。旅行ビジネスはほぼ半分、概算では10兆円くらい縮小したと言われています。高齢者の多くが旅行自粛をしている影響が大きいようです。火曜や水曜の朝、東京駅前にはツアーに出かけるグループを旅行代理店の方が大声でとりまとめていましたが、今は静かなものです。

ところで、2019年に「老後に2000万円」として大騒ぎになったことはまだ記憶に新しいところです。誤解が多かったので、改めて正しい理解を示しておくと、

  • 公的年金が破たんするわけでもなく、むしろ老後の一生続く収入源として確保されている(夫婦なら6000万円以上の収入になることも)
  • 日常生活費は年金でなんとかなるが、趣味や娯楽のために使う額は足りない(手元資金を取り崩している)
  • 人生100年時代に、この不足額を自助で備える必要がある(退職金はここに数えてよい)

というのが正しい「老後に2000万円」問題です。

さて、報告書では当時の家計調査年報の数字を用いて「毎月の不足額の平均は約5万円であり、まだ20~30年の人生があるとすれば、不足額の総額は単純計算で1300~2000万円になる」としていました。

資料で用いられているのは2017年の家計調査年報における高齢夫婦無職世帯の家計です。

 実収入 209198円

 実支出 263718円

 収支差 -54520円

総務省 家計調査年報(2017年)

実はこの数字、2020年には大きく変化しています。

老後に2000万円問題はコロナ禍で「老後に55万円」まで減少した?

2月5日、総務省のホームページに2020年の家計調査年報の速報が出ています。そこではコロナ禍の高齢者の家計の変化が明らかになりました。

ちなみに2019年は

 実収入 237659円

 実支出 270929円

 収支差 -33270円

と収支差が縮小しており「老後に1200万円」にダウンしていました。収入も支出も増えているので、統計のブレがあったということでしょう。

総務省 家計調査年報(2019年)

Yahoo!ニュース個人(山崎俊輔) 「老後に2000万円」はたった1年で40%ダウンし「老後に1200万円」に縮小していた怪

そして、2020年はこうです。

 実収入 257,763円(前年比+20104円)

 実支出 259,304円(前年比-11625円)

 収支差 -1541円

総務省 家計調査年報(2020年)

なんと、収入が月2万円増、支出が月1.2万円減で、家計の赤字は月1541円まで縮小してしまいました。これを「老後に2000万円」の計算式と同様に単純計算すると、

月1541円×30年=554760円

なんと「老後に55万円」問題になってしまいました!

これなら退職金さえられば問題ないことになってしまいますが、コロナ禍での特殊な状況だと考えられます。もうちょっとカラクリをみてみましょう。

(支出減少)コロナ禍で支出減 特に教養娯楽費、交際費の減少が大

2020年、高齢者の家計が大きく変化したのは、支出の減少です。消費支出が12,600円減っているのですが、内訳の多くは「老後の生きがいやゆとり」の予算です。具体的には

教養娯楽費 3238円マイナス

交際費   5969円マイナス

となっており、これだけで、減少額の4分の3くらいを占めています。

年に一度、小旅行に出かけて10万円とすれば、月あたり8000円となりますし(家族でいけば娯楽費、友人といけば交際費になるかと思われる)、ときどき行く映画や美術展を平均すれば月数千円くらいにはなるでしょう。

高齢者がしっかりとコロナ禍で活動を自粛していたことは家計の数字にはっきり表れているといえます。

(収入の増加) 収入増は年金ではなく 特別定額給付金が大きい

収入のほうが2万円も増えている、と聞いてピンときた人も多いでしょう。特別定額給付金です。

実際、公的年金等の社会保障収入については1000円弱の変化しかありませんでした。影響しているのは国民がみんな条件抜きでもらうことのできた「1人10万円」の存在ということになります。

紹介しているのは年金生活をしている夫婦の統計ですから、2人分の合計で20万円となります。月あたり1.66万円ですから、増加額におおむね一致します。

全国の年金生活者の家計はこのくらいの給付が一度あるかないかで、収支が大きく変わるということも統計数値として如実にあらわれているわけです。

「老後に55万円」は続かない やはり1000万円前後は必要か

もともと、高齢者の家計は、日常生活費と公的年金収入をおおむねバランスさせ、若干の不足と趣味や生きがいのための予算を手元の財産から切り崩す構図です。

今回の統計では、日常生活費には大きな変動はないことも確認できています(巣ごもりしても食費や日用品の支出が減るわけではない。実際、100円前後の変化にとどまっている)。

これから、ポストコロナの時代にお金の動きがどうなるかは気になるところですが、高齢者の旅行や映画、美術展観覧などはある程度の回復はあっても、全回復するまでには時間がかかるものと思われます。特に家族旅行は回復しても、友人との旅行や外出は先送り傾向が生じるでしょう。しばらくはこうした支出は急増しないと思われます。

だからといって「老後に55万円」が続くとは考えられません。特別定額給付金のような取り組みが今後も続くとは考えにくく、また一定の所得のある高齢者は給付対象から除外される可能性もあります。

となると「収入増は一時的」「支出減少はしばらく続く」と考えられ、月2万円とすれば30年分として720万円くらいはやはり老後に必要な額は上乗せが必要です。

「老後に55万円」はさすがに非現実的です。やっぱり「老後に775~1200万円」くらいはウィズコロナ、ポストコロナを考えてもやはり考えておきたいところでしょう。