パナソニックに続いてソニーも確定拠出年金100%へ~なぜグローバル企業は確定拠出年金に切り替えるのか

ソニーが好景気の今、確定拠出年金への全面切り替えを予定するのはなぜでしょうか(写真:アフロ)

ソニーが退職金制度を全面的に確定拠出年金化するようだ

日本経済新聞10月14日付記事によれば、ソニーは退職給付制度を確定拠出年金に一本化することを決めたとのことです。

日本経済新聞:ソニー、確定拠出年金に完全移行 エレキ事業3万人

知られているところによれば、ソニーは確定給付企業年金と確定拠出年金、退職一時金の3制度を採用していますが、確定拠出年金導入前の過去の積み立て分については確定給付企業年金に置かれていました。どうやらこれを完全に確定拠出年金に切り替える(資産も移す)ようです。

同じく日本経済新聞10月24日付朝刊によれば、厚生労働省の就労条件総合調査において、確定拠出年金の採用割合がはじめて5割に達し、確定給付型企業年金を上回ったと報じられています。

日本経済新聞:企業年金、確定拠出5割に 確定給付からの移行相次ぐ

近年、大企業でも中小企業でも確定拠出年金の採用が進んでいます。ここまで確定拠出年金制度を採用してこなかった大企業(すでに名前のあがったソニーやJVCケンウッドなど)も確定拠出年金導入に踏み切りましたし、中小企業の導入数の伸びは著しく、導入企業数では30000社を突破しています。

確定拠出年金は会社が実施する企業型と、個人が任意で口座開設する個人型(iDeCo)に分かれますが、iDeCoが100万口座達成と喜んでいるあいだに、実は企業型確定拠出年金の加入者は680万人を突破、会社員のおおむね5人に一人が利用する制度にまで成長しているほどです。

かつて「会社が運用難であるから確定給付をあきらめ、確定拠出年金に切り替える」という説明が行われましたが、今はむしろ業績好調のタイミングながら確定拠出年金の普及が加速していることになります。なぜでしょうか。

株主は確定給付企業年金を持っている会社に厳しい目を向けている

上場企業は会計基準に則った決算報告を行うなど情報開示をするわけですが、退職給付制度の有無、また採用している制度の種類、そして資産の準備状況は情報開示する項目に含まれています。

「(企業名) 退職給付制度」のような検索をすると上場企業のIRページが開き、どんな企業年金制度を採用しているのか、資産状況はどうかなどが読み取れます。

退職金や企業年金は、社員が辞めることになった将来払う約束のあるお金であり企業の「債務」とみなされます。銀行に借りているお金と同様に、将来払うべき金額を見積もって、今ある資産額と比較、準備不足を開示しなければならないわけです。

今は確定給付企業年金の「運用難」は遠ざかりつつあるものの(将来は分からないが)、むしろ悩ましいのはこの会計基準のほうです。

一度景気が悪化すると、「企業業績下がる→決算発表する→株価下がる→企業年金の保有する運用資産も値下がりする→決算発表する→また株価下がる」のような負のスパイラルが起こりかねないのですが、これを経営者は強く恐れています。

企業が制度を運営するとはいえ、確定拠出年金制度にすると運用の結果は社員ひとりひとりの自己責任に委ねられるため「会社の債務」となりません。それが上場企業にとっては魅力になっています。

先ほどのソニーのニュースも、確定給付企業年金を廃止して確定拠出年金に資金移動するにあたって、相当のプラスアルファを上乗せするとしていますが、それでもなお、確定給付型の企業年金制度とお別れしたいとグローバル企業は考えているのです。

グローバル企業にとっての新しい不公平は退職金 「外国は確定拠出」「日本だけ確定給付」問題

もうひとつ、グローバルに活動の場を広げる日本企業にとって難しい問題は「日本人だけ恵まれている雇用条件」が許されなくなってきていることです。

極端な話、日本人は年収600万円で働いているのに、海外の工場で働く社員は平均年収400万円であってもいいのか、というテーマを、グローバル企業は抱えています。「社員はひとつの家族」ときれいごとを述べても、処遇の違いは否定できません。

物価が大きく異なる新興国と先進国ならまだ待遇の違いも受け入れる余地があるかもしれませんが、日本とアメリカであればどうでしょうか。グローバル企業ほど、「日本と海外の公平な処遇」に悩んでいます。

そして退職金もその中に含まれます。例えばアメリカや諸外国の社員はすべてを確定拠出年金型の制度で、日本人だけ確定給付企業年金の仕組み、というのは不公平になってしまうからです。

日本で生まれ、日本で決算を出す会社であっても、社員の半数以上が外国にいる、という会社はどんどん増えています。そして、世界的には退職給付制度を確定拠出年金型とするのがもはや標準的となっています。

かつては福祉年金などの充実で有名であったパナソニックも、新入社員は確定拠出年金に切り替わったと報道等で紹介されているほどです。

こうしたトレンドもまた、グローバル企業に確定拠出年金化を推し進めるもうひとつの要因となっているのです。

中小企業は別の理由で確定拠出年金の採用が進む

最後にもうひとつ、追記しておくと、確定拠出年金普及は大企業、グローバル企業だけの問題ではありません。むしろ中小企業の普及が加速していることが、冒頭に紹介した「企業年金の5割が確定拠出年金」という報道にもつながっています。

2016年度には3654社、2017年度には4084社が確定拠出年金を採用していますが、上場企業はそのほんの一部に過ぎません。むしろ中小企業の企業年金制度の再編が進んだことが、日本での確定拠出年金制度の利用者数増の大きな要因でもあります。

その理由のひとつが、厚生年金基金制度の解散傾向です。中小企業では、かつて業界団体ごとに総合型の厚生年金基金制度を設立しこれを企業年金の一部としてきましたが、制度の解散、確定給付企業年金への変更が相次ぎました。ピーク時に1000万人の利用があった制度も、現在100万人を切っています。

このとき、確定拠出年金を採用する中小企業が少なくなかったことが、この数年の企業数増から見ることができます。

統計的には、中小企業は確定拠出年金導入企業の80%以上を占めており、日本の会社の退職給付制度に大きな役割を占めるようになりました。今後も、中小企業の採用は進むことでしょう。

もはや「確定拠出年金って大企業の話でしょ」という時代ではないのです。

老後資産形成の中核が、日本でも確定拠出年金になる

「自己責任で運用させられる」と悪口もある確定拠出年金制度ですが実はいいこともあります。会社がいきなり倒産しようと、会社とケンカして不当な懲戒解雇されようとも、そこにある積立金は全額もらって辞められるという仕組みが整っていることです(勤続3年未満の場合のみ、減額の可能性あり。条件は各社ごとのさだめによる)。

退職金や企業年金は会社にとっては「人質」の要素がありました。マジメないい子で勤めないと辞めたとき渡さないぞという意味です。

退職一時金の場合、そもそもそのキャッシュの準備すら義務づけられていませんので、中小企業がつぶれると退職金ゼロ、仕事も無職という状態になることもあります。

運用させられる、と考えるばかりではなく、「むしろ確実な老後の資産形成」だと考えてみると、確定拠出年金はポジティブなものに見えてくるはずです。

世界的には、自国民の老後資産形成の中核に、確定拠出年金タイプの制度を採用することは避けようのないトレンドです。景気がいい今、日本で確定拠出年金への切り替えが進むことは、むしろその次の不景気がやってくるときを思えばいいことかもしれません。

企業型確定拠出年金とiDeCo(個人型確定拠出年金)の双方があいまって普及し続けている状況は、日本人の老後の安心が増えていく一歩なのです。