Yahoo!ニュース

SBI証券のiDeCoが対象商品をざっくり減らしてきたが、評価できるか~専門家はこう見る

山崎俊輔フィナンシャル・ウィズダム代表/お金と幸せについて考えるFP
iDeCoの投資商品の本数が一気に半分に減るその影響とは(写真:アフロ)

iDeCoで早くから存在感を示しているSBI証券、iDeCoの対象商品を29本絞り込むことを発表

税制優遇が強力で、老後資産形成としては最適の制度のひとつ、iDeCo(個人型確定拠出年金)ですが、制度発足当初からSBI証券は力を入れており、加入者数でも多くを獲得しています。

そのSBI証券がひっそりと掲載した記事に業界の注目が集まっています(トップページではなく、iDeCoの詳細ページに掲載)。それは同社がiDeCo対象商品を一気に29本も減らすことを公表したものです。

これにより、残る商品は38本(ゴールの年度が異なるターゲットデートファンドを1商品と考えた場合35本)になります。

SBI証券:運用方法の選定・提示に関する基準の見直しに伴う除外予定ファンドのご案内

これからiDeCoを検討する人、すでにSBI証券でiDeCoの投資をしている人がどう考えるべきかポイントをまとめてみます。

法律の上限が35本に決まったのだが、その理由は「選びやすさ」のため

同社が一気に商品本数を半減してきたのには理由があります。実は5月1日に施行された確定拠出年金法改正によるものです。

そこではいくつかの法改正が実行になりましたが、運用商品数の上限を35本に限ることが決められました。これは諸外国の確定拠出年金において、広く一般の人が投資を行う場合に、運用商品数を豊富にすることより厳選することのほうが有意であるとしたトレンドに従ったものです。

ベストセラーとなった「選択の科学」でもアメリカの確定拠出年金について紹介されており、運用商品本数が多すぎることは加入者の選択の自由に役立つというより、むしろ混乱を招いており、「まったく投資をしない人」を増やし、かつ「投資をする人の投資割合も低めにさせる」効果を生み出すとしています。これはつまり、運用の期待利回りも下がるということです。

日本では、厚生労働省のもとに確定拠出年金の運用に関する専門委員会が設置され、上限本数等の議論を行い、商品数の上限本数を何本にするべきか議論が行われました(実は筆者もその委員のひとりだったわけですが)。いろんな意見がありましたが、最終的に35本を上限とすることになったのです。

ちなみに同種の規制はつみたてNISAにもあり、こちらは商品の適格性について条件を課すことにより、6100本以上ある公募投資信託の中から、購入対象を約160本に絞り込み、「よく分からないからやめておこう」という気持ちを持たなくて済むようにしています。

SBI証券の絞り込みをみると、同社のiDeCoのビジネスモデルの「本気度」が見えてきた

さて、法律のルールとして35本以下にしなければならないため、35本とした、というのが今回の商品数半減の理由なのですが、絞り込みにもいろいろやり方が考えられます。

方向性が「選択肢を狭める」ところにある以上、自分たちの儲かりやすい商品を残し、客の利益の薄い商品を残すとか、そういうやり方はあまりやって欲しくないところです。

この点は、金融庁が強く要請しているフィデューシャリーデューティー(受託者責任)の問題にも抵触しますし、確定拠出年金法が求めている忠実義務にも反します。

除外商品リスト、残留商品リストを比較検証してみたところ「同一投資カテゴリー、同一運用方針であれば、運用コストの高いほうが除外されている」という傾向は確認できました。

運用コスト別にソートを掛けた場合にも、低コスト順に数えて12商品中、除外されたのは1商品しかありません。しかもその1本は同一カテゴリーで投資可能な投資信託があり(コストは同水準)、重複を整理したものと考えられそうです。

だとすれば、これはSBI証券がiDeCoで本気を出してビジネスを拡大させていく意気込みを感じられるものといえそうです。

(一部の高コストアクティブファンドが「残留」しているのは個人的には残念ですが、同一カテゴリーの投資において低コストファンドはしっかりあるので、個人の選択の自由を尊重したものと考え、よしとしたいと思います)

それでは、すでに口座開設している人はどうすればいいのか

今回、除外商品候補のリストが公表されましたが、実際の除外手続きはこれからです。当該商品保有者の3分の2の同意で除外が成立します。なお未返信の人は同意者となるので、よほどのことがなければ除外は成立することになるでしょう。

除外が成立すれば、その商品は新規購入できなくなりますから、すでに保有している人、毎月の掛金で自動的に追加購入をしている人は、類似の商品にスイッチングをしておきましょう。基本的に低コストの商品にシフトできますから不利益はほとんど生じないはずです。

このとき、2018年5月1日より前に購入済みであった当該商品の保有口数(預貯金の場合は残高)については、強制解約の対象とならず、保有し続けることは可能です。しかし、それ以降の購入分については強制的な解約対象となりますので、やはり保有者は手放すことを考えたり、新規購入はもうやめておくといいでしょう。

商品除外が終われば、運用商品リストとしてはかなりスッキリした形になります。同社はiDeCoの老舗(iDeCoという名称が決まる前から参入していた)であったこともあり、何度か商品追加を実施、同一カテゴリーに複数商品が重複していることが、わかりにくさにつながっていましたが、これが整理されることになります。

低コストの商品がしっかりリストアップされていることを踏まえて(一部アクティブファンドは高コストですが)、上手な長期投資につなげていきたいところです。

これから新規口座開設を考えている人はSBI証券を選ぶべきか

これからiDeCoをスタートする人はどう考えるべきでしょうか。SBI証券は、楽天証券やマネックス証券、イオン銀行や松井証券などと並んで「口座管理費用も低め」「運用商品の費用も低め」という「Wで低い」のiDeCoを提供する代表的な金融機関のひとつです。

しかし、同社は運用商品数が多すぎることが玉にキズでした。60本を超える選択肢は投資初心者も多いiDeCoの利用者にとっては混乱のモトで、ちょっとオススメしにくいところがありました。これはライバルよりかなり早い時期から参入しており、適宜競争力のある商品を追加してきたがゆえのやむを得ない状況でしたが、同一カテゴリーの投資信託も複数あり、「で、どっちがいいの?」と初心者を悩ませていました。

今回の除外により、こうした混乱は解消され、選びやすい本数かつ低コストの商品を含むラインナップに整理されます。これにより、SBI証券は「商品数は一定本数に厳選され(他社と比べると多めだが)」「事務コストは低水準」というiDeCo業界のスタンダードなビジネスモデルを実現することになります。

iDeCoをこれからスタートする人にとっては、どこを選ぶか悩ましい選択がしばらくは続きそうです。バランス型ファンドやターゲットデートファンドを使ってお任せ運用を考えている場合には、同社はどちらも低コスト商品を提供しており、有力な選択肢のひとつとなるでしょう。

この夏、iDeCo加入者は100万人を突破すると見込まれます。iDeCoを取り巻くビジネス環境については「暑い夏」がしばらくは続きそうです。

フィナンシャル・ウィズダム代表/お金と幸せについて考えるFP

フィナンシャル・ウィズダム代表。お金と幸せについてまじめに考えるファイナンシャル・プランナー。「お金の知恵」を持つことが個人を守る力になると考え、投資教育家/年金教育家として執筆・講演を行っている。日経新聞電子版にて「人生を変えるマネーハック」を好評連載中のほかPRESIDENTオンライン、東洋経済オンラインなどWEB連載は14本。近著に「『もっと早く教えてくれよ』と叫ぶお金の増やし方」「共働き夫婦お金の教科書」がある。Youtube「シャープなこんにゃくチャンネル」 https://www.youtube.com/@FPyam

山崎俊輔の最近の記事