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利用した人も利用しない人も微妙に不幸な気分になるふるさと納税の後始末

山崎俊輔フィナンシャル・ウィズダム代表/お金と幸せについて考えるFP
その「お礼の品」は誰がお金を払っているのでしょうか(写真:アフロ)

ふるさと納税ブームは熱狂の末、還元率ダウンに

お金に関する物書き仕事を続けているといろんなテーマで執筆依頼が届きます。しかし、一貫して断ってきたものに「ふるさと納税で得しよう」があります。

ふるさと納税といえば、所得税と住民税の一部を居住地以外の市区町村、都道府県に振り替えるしくみです。振り替えた先の市区町村などから「返礼品」がもらえるとして大きな話題になりました。Yahoo!にも比較検索コーナーがありますし、ムック本などはお肉や果物の写真がずらりと並んで、ほとんど「結婚式の引き出物カタログ」状態でした。

Yahoo!ふるさと納税サイト 

所得や家族構成などに応じて、利用上限があるものの、一般的な年収であれば年4万円程度は利用でき、2000円を控除した差額が税額軽減の対象になります。

返礼品については、寄付の感謝の気持ちを込めて、という意味合いですが、現実的には「○○円のふるさと納税をすれば○○円くらいのお肉がもらえる」というように利用されているのが実態です。雑誌やサイトでは「高還元率」のような形でランキングがされたり、地元と無関係の商品を返礼品とする自治体がでるようになりました。

ふるさと納税の利用は知名度がアップしたこともあり徐々に拡大、総務省の調査によれば2013年度が145.6億円、2014年度が388.5億円、2015年度が1652.9億円、2016年度が2844.1億円と、倍々ゲームで増加しています

総務省「ふるさと納税に関する現況調査結果」2016年7月4日

一時期はふるさと納税額の過半が返礼品として還元されるまで返礼品競争が過熱化し、問題となったことから、昨年4月に返礼品競争に釘を刺す目的で、総務省が還元率を30%にとどめるよう通知がされています。

 総務省「ふるさと納税に係る返礼品の送付等について」2017年4月3日 

しかし、まだふるさと納税を「それでも30%は取り戻す」と物色している人は多いようです。

ふるさと納税は、自分の今住んでいるところへの納税額を減らすこと

改めて、ふるさと納税の構図(特にお金の流れ)を確認しておきましょう。

住民税は居住地(都道府県、市区町村)に対し所得の一定割合を納めるものです。これは地方行政サービスをまかなうコストとされており、それこそゴミ処理から公立学校の教育費用までいろんなかたちでコスト負担をしています。

この住民税について「実際には住んでいない市区町村、都道府県」に納税したこととするのがふるさと納税の考え方です。

納税は、所得がある時点で行うので、「若いうちは東京で稼ぐ(そして納税する)」が「引退したら郷里に戻って暮らす(納税は少なく行政サービス利用は増える)」というミスマッチが起きます。

ふるさと納税の初期には「自分の故郷に今から納税してあげられるしくみ」と説明されてきました。文字通り「自分のふるさと」に納税をつけかえる感覚です。

しかし、どこかの誰かが、返礼品が許されることを条文から見つけ出し、本来の狙いとは違う「縁もゆかりもない都会人から税金をつけかえてもらって、地方の名産品を送り返す仕組み」としてふるさと納税を再定義してしまいました(最初に気づいた地方自治体の担当者には敬服します)。

でもこれ、今住んでいる市区町村や都道府県にはしわ寄せがくるはずです。納税額が減ってしまうわけですから。

あえて利用しない人は、不幸せ感覚が拭えない

わが家は共働きですが、ふるさと納税禁止としています。理由は簡単で、子どもふたりを保育園に通わせていて、どう考えても保育料+夫婦ふたり分の住民税額でこれがまかなえているとは思えないからです。

東京23区ではふるさと納税での「住民税流出」が大きいといわれています。2017年度予算案ベースでは207億円、2018年予算案ベースではなんと312億円にもなると言われています(日本経済新聞2018/2/17付)。

世田谷区、港区がそのうちトップ2で流出が多いと言われていますが、港区では区内の子どもの給食費相当がふるさと納税で他の市区町村に「流出」しているとニュースになりました(今はもっと流出しているはず)。税収減により、子育て支援の費用確保にしわ寄せが来ていると述べる市区町村もあります。(ちなみに、東京23区以外の地方自治体はふるさと納税流出額の75%相当が地方交付税によって調整されるので、東京23区は特にふるさと納税のダメージが深刻な地域である)(参考記事

流出が極端なのは主に首都圏ですが、全国的にも待機児童問題があるのは首都圏のみですから、ふるさと納税すればするほど、首都圏暮らしの人の生活にはしわ寄せがくることになります

もちろん、子育て支援だけにしわ寄せが来るわけではありません。現実的にはまんべんなく行政費用を引き下げるしかないので、それ以外のサービスにしわ寄せがくることもあります。人口比率で考えても、住民が多い地域から少ない地域へ住民税が移転することになりますから、人口密集地域の行政サービスは劣化する可能性が高くなります。

そう思って、ふるさと納税を利用しない人も少ないないのですが、理解したうえでふるさと納税を使わない、というのは「使わない人はバカを見る」のにガマンする、ということです。

法がふるさと納税を使った人には納税額の一部について30%還元を認めているのに、合法的に許されたルールを使わないのは経済合理的にはもったいないことです。

かくして、分かっていながら使わない人は、個人の倫理観で自分を抑えていることになり、利用している人をうらやましく眺めることになります。実に不幸な話です。

知って利用した人も、微妙に不幸せになる

仕組みを分かったうえで、上限いっぱいふるさと納税を使っている人もいます。実はこういう人たちの一部は、微妙な居心地の悪さを抱えています。

「いや、自分の住んでいる市区町村が困るといっても、法律がいいっていっているじゃないですか」

「これだけ納税しているのだから少しは還元してもらわなくちゃ」

というような言い訳を口にして、ふるさと納税を利用しています。こういう利用者は「微妙に不幸せ」を感じていることになります。もちろん返礼品は嬉しいのですが、心の底がチクリと痛むわけです。なんだかスッキリしない話です。

また、「保育園○軒分の税収不足」とか「小学校の給食費分の不足」といわれると「自分は子どもがいないから」なんて強弁する人がいますが、実際には市区町村の行政のコストがまんべんなく少しずつ削られている、と考えたほうがいいと思います。つまり、じわじわと、あなたの住んでいるエリアのサービスが劣化していくことになるのです。

気楽なのは、税の大幅な移転が生じているような問題を知らずにふるさと納税を使っている人でしょう。何せ知らないのですから、罪悪感も感じる必要はないからです。

でも、このコラムを読んでしまった人やある程度ニュースを読んでいる人なら、「微妙な居心地の悪さ」から無縁ではいられないはずです。

本来の「ふるさとに納税」を個人の「自覚」で使わせるのはたぶん無理

ふるさと納税を「返礼品無用」として利用している人もいます。こうした人は文字通り応援したい地方自治体をみつけてその取り組みに賛同している人です。

東北や熊本の震災被害を目にして、「返礼品無用」と書いたうえでふるさと納税を行うのは、もしかするとふるさと納税の「ちょっと気持ちいい使い方」かもしれません。しかしそれでも居住地の税収減という問題は残ります。

あるいは自分が子どもの頃育ったエリア、つまり学校や公民館などの行政サービスに育ててもらった「本当のふるさと」にふるさと納税するのも、本来の趣旨に近い方法といえます。

ただ、これはこれで「マジメな納税姿勢」を個人が自覚して利用しなければなりません。私はそういう制度を国が運用するべきではないと思います。

私は中学校のホームルームを思い出します。誰か悪いやつがいてウソをついてクラスに迷惑をかけたとき、「みんなでマジメに反省しなさい」と怒られるようなシーンです。怒られる必要がない人ほど反省して、反省すべき人がへらへら笑っていることがありますが、マジメな人が得をしない仕組みはよい制度とは言えないと思います。

そろそろ、ふるさと納税はおしまいにして見直しの時期ではないか

今年も、私と妻はふるさと納税をガマンしますが、本当は返礼品を欲しいと思います。でも利用する人をずるいと言うこともできません。今年ももやもやした気持ちでふるさと納税のニュースを見ることになるでしょう。

もちろん、法に許されているわけですから、ふるさと納税を使うのは「賢い行動」です。利用される方は、堂々とご利用になってください。でも、心の底で少しだけモヤッとしていただければと思います。

ふるさと納税制度がスタートして10年になります。利用した人も利用しない人もすっきりしない制度をこれからも続けていいのでしょうか。制度そのものが、見直しをするべき時期に来ているのではないでしょうか。

フィナンシャル・ウィズダム代表/お金と幸せについて考えるFP

フィナンシャル・ウィズダム代表。お金と幸せについてまじめに考えるファイナンシャル・プランナー。「お金の知恵」を持つことが個人を守る力になると考え、投資教育家/年金教育家として執筆・講演を行っている。日経新聞電子版にて「人生を変えるマネーハック」を好評連載中のほかPRESIDENTオンライン、東洋経済オンラインなどWEB連載は14本。近著に「『もっと早く教えてくれよ』と叫ぶお金の増やし方」「共働き夫婦お金の教科書」がある。Youtube「シャープなこんにゃくチャンネル」 https://www.youtube.com/@FPyam

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