「消えた年金」ならぬ「塩漬け年金」?~盛り上がる確定拠出年金業界の隠された悩み

消えた年金ならぬ塩漬け年金とは?(写真はイカの塩辛)(ペイレスイメージズ/アフロ)

消えた年金の次は塩漬け年金?

11月24日付の朝日新聞記事が話題となっている。今度は「消えた年金」ならぬ「塩漬け年金」だ。日本版401kとも呼ばれる確定拠出年金制度に「塩漬け年金」が1428億円もあり、57万人もの人がその対象となっている、というのだ。

確定拠出年金制度は2001年の秋にスタートした制度で15年の歴史がある。会社の退職金制度として導入される「企業型」と、個人が任意で加入し老後の資産形成を行う「個人型」に分かれており、いずれも盛り上がりを見せている。

企業型については来年春にも利用者数が600万人に達すると予想されており、これは会社員の6人に1人の利用率に相当する。利用者数は増え続けており、このままいけば2~3年後には5人に1人の利用率に高まるペースである。

個人型については利用率が低かったものの5月の法律改正で利用者の拡大が決定し、2017年1月からのスタートを前に金融機関各社の取り組みが盛り上がりを見せている。

(法律改正の詳細は筆者が解説した記事を参照されたい。→「本日午後1時、抜本的法改正成立!最速で確定拠出年金改正の重要ポイントを解説」)

iDeCoという愛称や統一ロゴも決定され、NISAスタート前夜のような活況である(少額投資非課税制度というなんとも微妙な名称だった制度が、NISAという愛称と株式市場の上昇ムードで一気に盛り上がりを見せ、今では1000万口座を獲得している)。

せっかくのいい雰囲気に水を差すような報道だが、この「塩漬け年金」はなかなか根が深い。というのも、15年前から続いている問題であり、誰かに責任を求めるというより、「塩漬けにされた本人」にその多くの責任がある問題だからだ。

そして皮肉なことに「消えない年金」だからこそ生じた現象が「塩漬け年金」問題なのだ。

なぜ塩漬け年金になるのか

確定拠出年金の塩漬け年金が生まれる仕組みはこうだ。まず企業型の確定拠出年金を採用している会社に勤める会社員が中途退職する。このとき、会社からは「転職先で企業型の確定拠出年金があればそこに、なければ個人型確定拠出年金に加入しそこに、資産を移すように」と説明を受ける。

退職後、金融機関から書類が送られてくる。しかしその書類だけでは、手続きは完了できない。なぜなら個人型の確定拠出年金の加入申込資料を一式入手しなければならないからだ。銀行の窓口でたずねてみても、「それはネットとコールセンターで対応しているので……」と逃げられてよく分からないまま時間が過ぎる。

気がつけば半年がたち、確定拠出年金のことなど忘れてしまう。すると郵便が一通届き、資産が会社から国民年金基金連合会というところに強制的に移されたことを知る。これが「塩漬け年金」になったという証である。

ちなみに転職をして企業型の確定拠出年金を実施している別の会社に働くことになった場合、塩漬けのリスクはかなり低くなる。新しい会社の人事部に対して「前職で確定拠出年金に入っていた」と告げれば必要な届出事項をリクエストされ、その後は会社のほうですべて手続きをしてもらえるからだ。

つまり、塩漬けになるのは退職後の進路による。具体的には

「転職したが企業型の確定拠出年金をやっていない会社であった」

「独立開業をした、あるいは無職になった」

「結婚退職をして専業主婦になった」

などのケースだ。

金融機関が悪さをしたわけでも、会社が意地悪をしたわけでもなく、退職後に手続きを自分でしなかったことが、「塩漬け年金」にしてしまうという構図である。

自己責任が大原則の確定拠出年金は塩漬けされるのも自己責任

なぜ、会社を辞めた本人が自分で手続きをしなければならないのか。それは確定拠出年金の基本コンセプトにある。つまり「自己責任」だ。

確定拠出年金といえば、自己責任型の年金制度だと説明されることが多い。資産運用の判断を自分で行い、うまく増やせばその分老後の受け取り額が増え、運用が低調に終わればその結果が老後の受け取り額になる。かつての企業年金制度は運用結果にかかわらず会社が最終的な支払い額を保証していたが、運用結果は自己責任に切り替えられているというわけだ。

(といっても、会社とお金が完全に切り離されるので倒産時には全額保全されるし、会社が経営危機に陥っても積立額を減額されることはない。OBや運用が下手な同僚を「支え合う」こともないので、自己責任は悪い話ばかりではないことは付記しておきたい)

さて、確定拠出年金制度の基本コンセプトが自己責任である以上、退職後の手続きも退職者が自ら行うことが道理になる。特に個人型確定拠出年金に移す場合については、金融機関によって運用商品のラインナップや口座管理手数料の体系が異なるため、自らどこかの金融機関を選んで手続きをしなければいけない。離職前の会社が勝手に特定の金融機関に資産を移すことができないのだ。

一方、確定拠出年金の資産は個人ごとに完全にデータ管理されており、その資産額にかかる権利は誰も奪うことができない。いってみれば「消えない年金」といっていい。

そのため、本人が手続きをうまくできない場合、それはすぐ塩漬けになってしまう運命にある。「消えない年金」という優れた特性も自己責任であるがゆえに「塩漬け年金」になってしまうのだ。

塩漬け年金のほうが本当は有利?

塩漬け、という言葉からイメージできるように、塩漬けされた資産はロックされてまったく増えなくなる。確定拠出年金の用語では自動移換者という言葉を使うが、自己責任による運用の指図(注文)がなされていない以上、勝手に定期預金等に預けることもできないため、まったく利息もつかない状態になるのだ。当座預金がこれに近いイメージだろう。

しかも、さらにお金が引かれていく。

まず、データ管理や資産保全のコストがかかることから、資産の受け入れ時に4269円が引かれ、さらにその後も月額51円の管理手数料が引かれていく。

さらに、手続きを踏んで個人型確定拠出年金や企業型の確定拠出年金に資産を再度移す場合にも1080円の手数料が徴収されるというおまけつきだ。一年も放置すれば残高から5000円も引かれるのだからけっこう大きな費用だ。

といっても、正規に個人型確定拠出年金の口座を作って資産を移した場合にも事務費用はかかる。個人型確定拠出年金の口座新規開設時には国民年金基金連合会2777円+金融機関ごとの手数料が生じるほか、国民年金基金連合会月103円+資産管理を担う信託銀行の月64円+金融機関ごとの手数料(条件つきで月0円~400円まで各社各様)が生じる。

簡単に比較すると

項 目  塩漬け口座 個人型確定拠出年金口座

資産移換時  4269円   2777円+α

毎 月    51円   167円+α

となる。一見すると塩漬けのほうが得するようだが、残高が100万円あって年1%の利息がつくなら年10000円、運用で年4%増えれば年4万円の資産増加があるから、利息ゼロの塩漬けより得となる。

また、毎月積立を行う場合、個人型確定拠出年金には所得税や住民税の軽減効果があり(所得控除)、掛金の15~20%相当くらいが節税になる。仮に月1.2万円積み立てるとすれば年2.8万円くらい税金面で得をするので、これまた塩漬けより有利ということになる。

時折「低金利だから塩漬けのほうが有利」という解説も見受けられるが、一般にはちゃんと個人型確定拠出年金口座に資産を置いておくことのほうが得になる可能性が高い(資産が50万円程度で現状のような超低金利環境で、追加の掛金を出さない場合などは、確かに塩漬けのほうがマシ、ということも起こりうるが、これも月51円が今後も続けば、という前提である。近いうちに値上げがされると筆者は予想している)。

それでも塩漬けを減らすためにできることはあるか

本記事冒頭で紹介した新聞記事などは塩漬けされた人を被害者的に位置づけ、国や国民年金基金連合会(個人型確定拠出年金の実施主体)、金融機関や退職した会社に責任があるようにまとめることが多い。

しかし本稿で説明したとおり、この問題の本質は「自分が悪い」である。会社は退職者への説明義務があるので、これを怠っていた場合のみ咎があるといえる。

「消えない年金」だからこそ生じる「塩漬け年金」の問題を改善したいと思うのならば、その方法は「そもそも塩漬けの状態にさせない」ことしかない(一度塩漬けした人はなかなか外に出さない傾向があるため)。

あえて改善策を提示するなら、退職時に個人型確定拠出年金の加入申込書類一式を渡してしまうか、仮申し込みまでさせてしまうしかないだろう。しかし、これをやると、辞めた会社の確定拠出年金を引き受けていた金融機関が個人型の確定拠出年金の口座ももらっていく構図になりかねず、フェアな競争にならない懸念もある。

幸いにして、個人型確定拠出年金のほうはビジネス的に盛り上がりを見せており、情報収集のチャネルが拡大している。これを活かして、手続きの必要性を周知させつつ、少しずつ塩漬けを減らしていくしかないだろう。

何度もいうが「消えた年金」より「塩漬け年金」のほうが100倍マシである。消えたわけではなく、そこにちゃんとデータも資産もあって、手続きさえすれば回復することができるのだから。むしろ皮肉な形ではあるが、確定拠出年金の「消えない年金」の特徴が明らかになったともいえるのだ。