NISA以上のインパクト。確定拠出年金(日本版401k)大改革へ~平成27年度税制改正大綱示される~
税制改正大綱の個人最大のインパクトはNISA拡充ではない!
2014年12月30日、与党の税制改正大綱が示されました。通年であれば15日前後に示されるものが今年は選挙の影響があって年末にずれ込んだものです。
一般的なニュースでは、ふるさと納税の利便性拡充、住宅資金贈与の非課税枠や結婚・子育て資金の一括贈与の非課税枠創設、NISAの非課税枠拡充(および子どもNISA創設)などが紹介されているようですが、実はNISA以上のインパクトがある税制改正が含まれています。
それは、「確定拠出年金の大改革」です。いわゆる日本版401kとして2001年10月にスタートした制度ですが、抜本的に改革を行うための税制上の措置が今回認められています。
筆者は確定拠出年金の専門家の1人ですが、今回の要望は「無理筋」と考えていましたのでほぼ満額回答を得たことに意外感を感じています。
一方で、実現すればこれはNISA以上の大きなインパクトがあると考えています。今回は税制改正大綱から、個人最大のメリットになりうる確定拠出年金見直しのポイントをまとめてみます。(以下、確定拠出年金についてDCと略す場合があります)。
確定拠出年金関連の2015年度税制改正大綱のポイント
2015年度税制改正大綱の、確定拠出年金関連項目は大きく3つです。
- 中小企業の場合、会社が個人型DCに掛金拠出をしてもよい(企業型DCの会社掛金と同様、損金となり、個人の所得ともみなさない)
- 個人型DCに加入できる対象者を拡大する(企業型DC加入者、企業年金のある会社の会社員、公務員、専業主婦等の第3号被保険者)
- 会社の制度変更にもとづくDC、確定給付企業年金、中小企業退職金共済間での資産の引き継ぎを可能とする
このうち、(1)については会社が企業型のDCを運営できない中小企業については、個人型のDCに社員を加入させ、会社はそこに会社の経費として退職金積立のための掛金を入金できるというものです。中小企業の企業年金実施率低下が著しい現況に即した対策といえます。
また、(3)は企業合併や吸収などで再編が行われていく中で、企業年金が法律上の制約によりリセットされることのないよう手当てを行うものです。これにより、吸収された会社の企業年金は現金精算して、ゼロリセットされるような心配が減ると思われます。これも時代の要請にマッチした改革です。
しかし、もっともインパクトがあるのは(2)です。これは、NISAと同じかそれ以上の金融商品を、現役世代に広く提供する、という意味を持っているからです。
この10年まったくといっていいほど普及しなかった個人型DCに改革の好機
確定拠出年金といえば、トヨタや日立、富士通などが導入したニュースばかりで、企業が退職金の一部として採用するイメージがあります。これは企業型DCです。
実は個人型確定拠出年金というものも設けられており、個人が任意で利用できます。金融機関の多くは、NISAや投信窓販に並んで個人型DCも販売していますが、対象者に占める利用率は1%にもなりません。
2014年3月末時点で個人型DCを利用している人は18.4万人。掛金を定期拠出せず運用のみ行っている人が37.4万人です(国民年金基金連合会HPより)。NISA口座は2014年6月末で727万人が利用しているのと比べてあまりにも少ない数字です(制度としては10年以上たっているのに!)。
投信窓販やNISAの陰に追いやられていた感のある個人型DCが、今回の改正で一気に魅力を高める可能性がでてきました。なぜなら、NISA以上の税制優遇があるからです。
NISAより強力な税制メリットがある個人型DC
NISAは少額投資非課税制度と呼ばれますが、投資の運用益(譲渡益)が非課税であることに最大のメリットがあります。しかし、譲渡益非課税のメリットは一度限りしか行使できません(再度購入した場合、年間の投資枠を新たに使うことになる)。
確定拠出年金は、もともと譲渡益非課税の仕組みでした。しかも何度売り買いしても非課税メリットを行使し資産形成を行うことが可能であり、NISA以上に優遇されていることはあまり知られていません。
しかも、積立元本を拠出した段階でも非課税メリットを受けられます。個人型DCへの拠出額については全額所得控除となっているため、「自分の老後のために積み立てると、自分の所得税と住民税が軽減される」ということになります。これはNISAにはない大きなメリットです(NISAは課税後の資産から投資する)。
受取時にはさすがに課税されますが、これも退職金みなし(退職所得控除の対象)となりますので大きな非課税枠があるうえ、超過しても2分の1課税ですみます。
つまり「入り口:非課税」「途中:非課税」「出口:ほとんど非課税か若干課税されるのみ」というお得な口座なのです。
すべての現役世代が確定拠出年金を利用できるようになる
今まで、個人型DCについては自営業者か、企業年金のない会社員しか利用できないことが難点でした。
今回の税制改正大綱では、利用範囲が拡大され、企業型DCを実施している会社の会社員(規約で認められた場合のみ)、企業年金があるがDCではない会社員、公務員、専業主婦(第3号被保険者)が利用できるようになりました。
これにより利用可能な範囲は「現役世代すべて」に拡大されます。確定拠出年金の税制優遇は大きなメリットでしたが、限られた人だけではなく誰もが利用できる老後資産形成の器として解放されることになるわけです。
マーケットが広がることにより、ビジネスの活発化も期待できます。たとえば地方銀行が地方公務員を対象に積極的に営業展開する可能性が考えられます。ただし、2001年に個人型DCを提供したままほとんど放置プレイしている金融機関がいくつかあり、こうした金融機関については商品性や手数料体系を見直さなければ、新たなユーザーの支持を得ることは難しいでしょう。また、規制により商品体系の見直しが難しい部分もあり、規制緩和が必要です。
枠は小さいが、老後の準備としては現実的
確定拠出年金がNISAと比べて見劣りする部分もあります。まず60歳まで原則解約できない点は注意が必要です。ただし、これは「何度売り買いしても非課税」のトレードオフであることと、老後資産形成のための税制優遇であることを考えるとやむを得ないところです。
むしろ、公的年金で不足する分を自力で資産形成する器が提供されたと前向きに考えるほうがいいでしょう。
また、NISAが120万円に年間拠出枠が拡充されることと比べて、個人型DCは拠出枠は月額数万円にとどまります。具体的には以下のとおりです。
自営業者 月額6.8万 年81.6万円
企業型DCのある会社員 月額2.0万円 年24万円(※)
企業年金のない会社員 月額2.3万円 年27.6万円
企業年金のある会社員 月額1.2万円 年14.4万円
公務員 月額1.2万円 年14.4万円
専業主婦(第3号被保険者) 月額2.3万円 年27.6万円
(※)会社が認めた場合のみ可能。また企業が拠出してよい限度額はその分減額される
DCでは定期的に積立することが原則であることもNISAとの違いです。
とはいえ、額が小さいことも、むしろ子育て費用や住宅ローン返済と平行して無理なくコツコツ老後の資金準備をするための枠であると考えてみるといいでしょう。仮に40歳でスタートし、毎月2万円を20年積み立てれば60歳時点では643万円になります(年間手数料5000円、運用益年3%で試算)。老後のゆとりを作るには悪くない金額です。
実施は数年後か それまでに準備しておきたい
税制改正大綱が認められたものの、これから確定拠出年金法の改正を行い、金融システムの対応などを踏まえて、施行になりますので、早くても2016年度、おそらくは2017年度スタートになるのではないかと思われます。
ちょっと待たされる感はありますが、未参入であった金融機関も個人型DCに参入してくるかもしれません。商品ラインナップや手数料体系で競争が進めば、これも国民にとってメリットです。
それまでに、家計のやりくりをして定期拠出額を捻出したり、NISAなどを通じて投資の経験を積んでおきたいところです。
アメリカでも、401(k)プランの普及(これは日本では企業型DCに相当)に合わせて、IRA制度の普及(日本の個人型DCに相当)が進んだことが、国民の金融資産を増大させるとともに、金融市場の活性化にもつながりました。一般個人のリスク資産保有のきっかけになっているのも大きな役割のひとつです。
10年後をにらめば、もしかすると確定拠出年金制度の抜本的見直しが、NISA以上に大きな意味を持ってくるかもしれません。