消費税8%なら年金生活者はタイムセールで買い物せよ、の前に語った肝心な一言
消費税が上がったら年金生活者はタイムセールで買い物せよ!
4月1日、消費税率が8%に引き上げられました。コンビニで買い物をして、いつもより数円高いレシートを見て消費税の引き上げを実感した人も多いでしょう。あるいは、この期に端数切り上げの値上げをしたため、10円高くなった買い物をした人も多いはずです。私も1日に入ってから最初の買い物をしたレシートはつい撮影してしまいました。
4月1日、日本経済新聞の3面記事で、消費税引き上げの現場をレビューした記事「消費税8% 日用品・医療費など負担増」が載っており、ファイナンシャルプランナーの山崎俊輔さんがこうコメントしています。年金生活者は「老後の財産を使い切らないようセール時間帯に買い物に行くなど工夫してほしい」と。要するに値引きが始まるタイムセールで買い物をせよ、というわけです。なんだか冷たいコメントです。もちろんこの山崎俊輔というのは私です。
新聞記事にコメントを載せていただくのは有難い話ですが、実際に話したことのすべてが掲載されるのはまれです。むしろ私の趣旨とズレた形でコメントを使われることもあります(記者の記事構成に合うコメントを採用するのは当然のことですし、新聞や雑誌記事はこうしたコラムと比べて文字数制限がタイトなので、別に記者が悪いわけではありません)。
せっかくなので本欄で、取材にあたってコメントしたことのフルバージョンを紹介してみたいと思います。
年金生活者はこの春、さらに年金額が0.7%下がった
年金生活者にとって、今回の消費増税はさらに年金額カットもセットで行われています。2014年4月から年金額も0.7%引き下げられているからです。昨年の物価はプラス0.3%だったのでこれは1.0%の年金カットに相当します。
これは過去のデフレ時に年金額引き下げを行っていなかった分、つまり過払いである分についてを昨年秋から3段階に分けて調整しているものです。昨年の10月には1.0%のカットを行っています。なお、過去にさかのぼって過払い分を返す必要はなく、将来分だけで反映されます(国民全体では過払いの累積は8兆円となっており、回収できるならしたいものだが、現実には難しい)。
4月の引き下げが実際に年金額に反映されるのは6月支給分からになりますが、年金生活者は消費増税とダブルパンチで家計に影響が出ることになるわけです。実はこれ、年金生活者は「消費増税以上の負担増」と考えるべき大きなポイントです。
参照)http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/0000035972.html
来年行われる予定の給付金政策も消費増税を満たすことはない
なお、消費税が10%引き上げになった時点で、年金生活者支援給付金が予定されています。来年10月を予定されている制度で、年金生活者への配慮を行おうというものです。しかし、これをアテにすることはほとんど無理でしょう。
なぜなら、この制度は低所得の高齢者を対象としたものであり、老齢基礎年金の満額に達しない人が対象です。つまり、一般的な年金生活者、特に会社員であって年金生活に入った厚生年金受給者はほとんどの場合対象外となります。
また、給付金の対象者は5~600万人にとどまります。しかも最大でも月額5000円の給付でしかなく、実際には満額をもらえない人も多く出る見込みです(過去の未納期間など長い人は給付金も満額もらえないこととしたため)。給付金をもらえた人であっても、5%から10%へ引き上げられた消費増税分を吸収してくれる水準ではないわけです。
参考)http://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/nenkin/nenkin/topics/2012/tp0829-01.html
http://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/nenkin/nenkin/topics/2012/dl/0829_01_31.pdf
年金生活世帯は毎月1万円の節約が必要
現役の会社員などは、ベースアップや賃上げにより消費増税分の収入が増えたり、共働きをして夫婦の合計年収を増やすこともできます。しかし、年金生活者はそうはいかないところに消費増税の苦しさがあります。基本的には収入を増やす戦略はとれないとすれば、負担増と年金減相当分については「節約」で乗り切るしかないからです。
持ち家を取得済みで、年金収入がほぼ全額、日常生活費に回っている年金生活世帯の場合、家計調査年報(平成24年)によれば毎月の消費支出が239878円です。これはつまり、228455円の消費に5%相当の11423円の消費税を払っていたことになる計算です。
もし消費を切り詰めず、8%消費税を払うと18276円が必要で、差額の6854円のお金に相当する預貯金を取り崩すか、同程度を節約する必要があります。イメージとしていえば、年金額のカットも考えて毎月1万円くらいの節約を意識したいレベルです。
このとき、年金生活者が現役世代より有利な点がひとつあるとすれば、たくさんある時間を有効活用できることでしょう。お店の割引情報を収集、比較検討したり、セールの時間をねらって来店することができますが、これは現役世代にはなかなか難しいことです。
毎月1万円の節約は毎日340円くらいの家計ダイエットになります。チャレンジすれば不可能ではないが、ハードルは高い節約です。気を引き締めて家計の見直しをしたいところでしょう。50代の生活であまり「倹約」してこなかった人も多いのですが、年金生活では、割引やお値頃の商品を探す習慣を身につけたいところです。
追加で1万円取り崩すやりくりは可能か
ところで、経済的に余裕がある年金生活者であれば、毎月の取り崩し額を1万円アップし、生活水準を落とさないことも可能でしょう。しかし甘く考えないほうがいいと思います。
お金がある人の場合「毎月1万円くらいなら」と思うかもしれません。しかし統計的には、老後が20~25年間にわたることを考える必要があります。つまり、240~300万円の取り崩しです。今までの想定より老後の財産を取り崩すペースは速まることになります。最悪の場合、まだ生存中であるにもかかわらず老後の資産を使い切る恐れもあり、油断は禁物です。
さらに長生きをして、30年のセカンドライフ(90歳はもはや珍しいことではない)を考えるのなら、360万円が必要ですし、今後のインフレの可能性などを考えれば400万円以上の負担になるかもしれません。また、消費税が15年後くらいにさらに5%上がれば、その後の生活はプラス1万円の取り崩しが必要になります。これも無視できない水準です。
取り崩しは慎重かつ計画的に行うことが必要であり、やはり節約を前提とすべきだと思います。
参考)http://www.stat.go.jp/data/kakei/2012np/gaikyo/pdf/gk02.pdf
セール品を買えばいい、という簡単な話ではない
ここまで読むと、年金生活者は「老後の財産を使い切らないようセール時間帯に買い物に行くなど工夫してほしい」と述べたファイナンシャル・プランナー山崎俊輔さんの真意もおわかりいただけたことと思います。
年金生活者はあまりネットで記事を読んでいないかもしれませんが、しっかり家計を引き締めて消費増税を乗り切ってほしいと思います。