7月10日投開票に向け、参院選が始まった。

しかし残念ながら、あまり盛り上がっているとは言えない。

各政党がしのぎを削っているものの、論点が明確に伝わってこない。有権者が判断するための材料も、メディアが適切に提示しているだろうか。

多くの国民は、誰に投票するかをテレビ報道で判断する。

ところが各局が放送する党首討論が、はっきり言って面白くない。注目する人も限られる。

こうした放送の何が問題なのかを考えてみた。

見てもらえない党首討論

そもそも党首や党幹部による討論は、あまり見られていない。

今回の参院選の公示前、6月16日にテレ朝『報道ステーション』とTBS『news23』が党首討論を行った。また19日にはフジ『日曜報道 THEPRIME』が続き、NHK『日曜討論』も各党幹部による討論を放送した。

ところが、いずれの番組もふだんの放送回と比べて見られてない。

まず個人視聴率では、全番組が2割前後下がった。

しかも不思議なことに、T&1層(男女13~34歳)の若者より、65歳以上の方が党首討論を敬遠していた。特に『報ステ』で25%減、『news23』に至っては4割が逃げた(スイッチメディア関東地区データによる)。

投票率が高く選挙に関心が高いはずの高齢者が、党首討論番組を普段のニュースほど見ていない。

政治との関わりが大きい人も見ていない。

企業に務める部課長は、政治・経済・社会の動きが自らの仕事に直結することが多い。それでも『報ステ』や『日曜討論』は、2割ほど視聴率が落ちていた。

さすがに「政治に関心あり」層は違っていた。

それでも『報ステ』『日曜討論』も、ふだんの放送回を上回ることはなかった。また『news23』に至っては、「政治関心層全体」でも「その若年層」でも4割前後も数字が落ちていた。

実はこの日の『news23』は、途中で視聴をやめた人が続出した。

主な原因は、小川彩佳キャスターが党首の発言をかみ砕いて要約することを一切せず、機械的に次の党首に振っていたからだ。視聴者は並列的な編成を好まない。筆者は「一つ、二つ、三つ、たくさん」と呼んでいたが、似たような要素が3つ以上並ぶのは、退屈な構成なのである。

一方『報ステ』は、縦の流れが出来ていた。

大越健介キャスターが前の党首の発言の論点を絞って次の党首に当てていた。発言が機械的な順番でなく、内容に応じて流れを作った分、『news23』ほど飽きることはなかった。

さすがに経験の差の有無が明暗を分けたと言えよう。

かみ合わない議論

ただし『報ステ』ですら、よく見られたとは言えない。

原因は党首の発言に、視聴者の関心をつなぎ留めるほどの力がなかったからだ。各発言に視聴者がどう反応したのかを、視聴データで明らかにしてみよう。

インテージは15秒単位で流出率を測定している。

途中で番組の視聴をやめた人の割合で、その場面の良し悪しなどが影響する。数値が高いほど、逃げた人が多い。逆に低いほど、人々の関心を集めていたという意味だ。

これで見ると、岸田首相のほとんどの発言で流出率が上がった。

「国の安全保障」がテーマで、「軍事力より外交力」を主張した共産党や社民党に対して、岸田首相は「敵基地攻撃能力」と「反撃能力」の言葉の説明でモタモタ時間を使い、野党発言への反論にならなかった。こうした“論点の曖昧化”や“議論回避”の姿勢は、大越キャスターに突っ込まれるあり様だったが、視聴者の一部が「視聴に値しない」と判断するポイントになっていた。

「暮らしどう守る」でも、状況は似ていた。

視聴者に身近なテーマゆえに、具体的な議論を期待した人は少なくない。野党の5党首も、「消費税の減税/廃止」「賃金の引上げ」「年金の追加給付」など、具体的な対策を主張した。

ところが岸田首相は「ご指摘は大切」としつつも、「様々な対策を用意した」の一言でまとめてしまった。形式的には対話だが、内容がかみ合っていたとは言えない。

岸田首相の発言は最初から流出率が高いままだったが、一部の視聴者の失望ぶりがわかる(インテージ関東地区データから)。

専念視聴に値しない

テレビ画面への視聴者の注視度からも、いろんな面が浮かび上がる。

まず裏で放送するバラエティやドラマと比べ、党首討論はあまり視線が画面に集まっていない。裏番組全体の平均は26.73%だったが、この日の『報ステ』は平均で5人に1人しか画面に顔が向いていない。党首討論が映像的にも地味で、視聴者はスマホを見るなど“ながら視聴”していたことがわかる。

視聴者の集中力も続いていない。

番組が始まって20分ほど、注視率は右肩下がりに落ちていった。並列的な要素の羅列、かみ合わない議論などで、視聴者の関心が薄れた様子がわかる。

ただし番組が始まって20分ほどで、注視率は一挙に跳ね上がった。

初めて発言の機会を得たNHK党の立花党首が、討論のテーマを無視した発言を始め、大越キャスターが制止した末に出演が打ち切られたからだ。

一連のやりとりの平均注視率は28.16%。

皮肉なことに討論からは逸脱していたが、番組全体の最高値となった。これは何を意味するのか。予定調和ではなく、異なる意見がガチで激突する箇所で人々の目が止まったということだろう。

ただし立花党首の部分は、番組テーマからみると意味はない。

しかも以後の展開で、数字はどんどん下がり、最後3人の発言は裏番組平均より10%以上低い体たらくだった。『news23』よりは工夫が見られたが、『報ステ』も面白い番組だったとは言えない。

では改善点は何か。

衆院選2021に対する拙稿「開票速報はインタビュー、テンポ、そして鮮度が命!?」に詳述したが、やはり議論がきちんと成立していることが大前提だろう。

衆院選2017では、テレ東特番で池上彰キャスターが政治家に容赦なく突っ込み、「わかりやすい」「政治家の質が少し垣間見えるので飽きずにみられる」などの評価を得た。

衆院選2021でも、日テレのキャスター3人が甘利幹事長(当時)に鋭く斬り込んだ部分の評価が高かった。

党首討論では、残念ながらどの局もガチな対決を演出していない。

白熱した議論もなければ、論点がぼけた党首の発言に対して番組MCが二の矢三の矢を放つことも稀だ。これでは視聴者が「時間の無駄」と判断し、視線を画面から外し別のことをし出したり、見るのをやめてしまったりも仕方ない。

放送の公共性には、「健全な民主主義の発展に資する」がある。

ところが、こんな党首討論ばかりを見せられたら、国民の政治への関心は失せる一方だ。論点を明確にし、政治家の説明責任を全うさせる。そのためには軋轢も厭わない。

こうしたメディアの基本を貫けば、自ずと番組は面白くなり、視聴者が諦めることも減る。

投開票日の7月10日まで、同様の機会はまだあるだろう。

テレビは言葉という論理だけではなく、政治家の表情など実存もあますことなく映し出す。その特性を発揮し、視聴者の重要な選択に貢献するよう頑張ってもらいたい。