春ドラマに対しては、「視聴率低迷」「軒並み惨敗」などの批判が喧しい。

     

しかし世帯視聴率に基づく評価をよそに、別の狙いで制作に臨むテレビ局が増えている。そもそも世帯視聴率は広告収入と連動しなくなっている。別の指標を視野に、ドラマは作られるようになっているのである。

    

この考え方だと、視聴率も獲り、別の収入にもしっかりつなげている総合力の『マイファミリー』は盤石だ。

いっぽう世帯視聴率だとGP帯(夜7~11時)ドラマ13本中9位と振るわないように見えるが、『金田一少年の事件簿』は若年層に支持をされ、ネット展開でも成果を出そうとしている。

    

ドラマは世帯視聴率以外で勝負する時代となった。

その2強はどこが凄いのかを分析してみた。

総合力の『マイファミリー』

主演の二宮和也が、15年ぶりに多部未華子と夫婦役で共演した『マイファミリー』。

前代未聞の完全誘拐事件が連続するノンストップ ファミリー エンターテインメントとTBSは謳っている。

グラフは両社のデータから作者が作成
グラフは両社のデータから作者が作成

その宣言通り、同ドラマは幅広い層に見られている。

65歳以上でこそ5位だが、他の世代や特定層では大半でトップとなっている。世帯視聴率でも強く、同局が重視するファミリーコア(13~59歳)や新ファミリーコア(4~49歳)で他を圧倒している。

     

こうなるとビジネス的にもメリットが大きい。

放送による広告収入は最も多いが、若年層ニーズの高いスポンサーも納得してもらえるので、見逃しサービスでの広告収入も期待できる。

さらに同ドラマはディズニープラスで世界配信も行っているが、配信料収入も入ってくる。GP帯ドラマ13本の中で、同ドラマは間違いなく最高の収益を上げるだろう。

     

前提にはTBSのドラマ戦略がある。

去年「TBSグループVISION2030」を発表し、放送事業以外の売上を2030年までに2000億円増やすと宣言した。その柱の1つがドラマで、見逃しサービスでの広告収入・有料配信料・グッズ販売などのライツビジネスに力を入れ始めているのである。

     

既に昨秋からエンジン全開となっている。

去年夏の『TOKYO MER』(鈴木亮平主演)や秋の『日本沈没』(小栗旬主演)から全世界配信に踏み切った。見逃し配信では『最愛』(吉高由里子主演)が、全話合計で2700万再生を超え歴代1位に輝いた。2020年夏の『MIU404』(綾野剛と星野源のダブル主演)は、劇中で使われたメロンパン号が全国を行脚し、グッズ販売で莫大な売上を誇った。

     

つまり同局ドラマは、放送後に大きな利益を生むようになっている。

『マイファミリー』もこの路線を継承し、横綱相撲を展開していると言えよう。

    

具体的には“ノンストップ”と謳われる通り、テンポがもの凄く早い。

従来の日曜劇場は、一部・二部と分けて山場を2度設けることが多かった。ところが今回は、最初の誘拐事件は3話で終了し、4話以降は次々と新たな事件が発生し山場が次々に押し寄せてくる感じだ。

関心が集まる犯人像も、主人公・温人(二宮和也)のビジネスパートナー・香菜子(高橋メアリージュン)や、温人の友人・東堂(濱田岳)など、次々に疑わしくなって行く。

こうした作りが評判を聞きつけて見始める人、複数回視聴する人を増やす。タイムシフト視聴者や有料配信利用者を生み出し、ビジネスを拡張させるのである。

突破力の『金田一少年の事件簿』

一方、道枝駿佑主演『金田一少年の事件簿』は対照的だ。

幅広い層に受ける『マイファミリー』とは異なり、10代から1層(20~34歳)に特化しているからだ。特に中高生には断トツで、世帯視聴率で4%上回る学園ドラマ『未来への10カウント』(木村拓哉主演)に対して、4倍以上の差をつけている。

    

1層でもベスト3に入る。

この結果、広告主ニーズの高いコア層女性(13~49歳)の中の、「ファッションに関心あり」「美容エステに関心あり」「結婚願望あり」層でトップ争いをしている。

見逃しサービスでのCM単価が高くなりやすくなっている。

             

同ドラマも、ビジネスとして新たな挑戦をしている。

日テレは8年前にHuluを買収し、今や330億円近い売上を誇るにまで成長した。ここで一気見を可能にするなど、会員獲得に貢献している。

さらにTBSと同様、ディズニープラスでの世界配信にも乗り出している。

放送からの広告収入だけでなく、ライツビジネスにつながりやすい層を取り込もうとしているのである。

一点突破のドラマ群

2強以外にも、新たなビジネスを意識するドラマが増えている。

『悪女~働くのがカッコ悪いなんて誰が言った?~』(今田美桜主演)や『持続可能な恋ですか?~父と娘の結婚行進曲~』(上野樹里主演)の世帯視聴率は7%台と振るわない。

ところが両ドラマとも、若年層に強く、特にファッションや美容に関心を持つ若い女性に見られている。広告主に支持され、ライツビジネスにも可能性を残している。

      

世帯で6%台以下のドラマも健闘している。

『金田一少年の事件簿』と同じように、『パンドラの果実~科学犯罪捜査ファイル~』(ディーン・フジオカ主演)・『恋なんて、本気でやってどうするの?』(広瀬アリス主演)・『やんごとなき一族』(土屋太鳳主演)は6%台。

『ナンバMG5』(間宮祥太朗主演)に至っては、世帯平均は5%に留まっている。

それでも各ドラマは、新たな可能性を模索する姿勢を見せている。

     

『パンドラの果実』は、コア層女性の「こだわりあり」「書籍・文芸好き」と、「研究職」の人々でベスト5に入る。

『恋マジ』は、M1(男性20~34歳)で圧倒的に人気だ。『やんごとなき一族』は、コア層女性の「ファッション好き」をおさえている。そして低視聴率でとやかく言われている『ナンバMG5』も、小学生でベスト5入りしている。

      

世帯視聴率を指標としていた時代、ドラマは万人受けする内容を狙った。

ところが世帯に意味がなくなり、ライツビジネスなど収入が多様化した今、各局は明らかに特定層を狙ったドラマ作りに挑戦している。

1点突破が新ビジネスへの近道だからだ。

      

かくして各ドラマの多様性が増している。

ライター諸氏には「視聴率低迷」「軒並み惨敗」など、世帯視聴率だけで安易な批評をせず、挑戦的な内容が増えていることを論評してもらいたい。

テレビドラマは、間違いなく面白くなり始めている。