今クールは金曜から月曜まで、アクの強いミステリーが4作も並んだ。

金曜は高橋一生『インビジブル』。刑事と犯罪コーディネーターという異色バディが凶悪犯に挑む。

土曜はディーン・フジオカ『パンドラの果実』。法や警察組織の対応が追いつかない科学犯罪に迫る。

日曜は二宮和也『マイファミリー』。前代未聞の“完全誘拐”に、自分たちの力だけで解決する物語。

月曜は綾瀬はるか『元彼の遺言状』。キャラの強い主人公が立ち回る痛快リーガルミステリー。

これら4本を各種データで分析すると、興味深い事実が浮かび上がる。

『マイファミリー』は老若男女に見られる王道・日曜劇場らしい実績。『元彼の遺言状』は低予算ながら高齢者を取り込み、しっかり数字を残している。そして『パンドラの果実』や『インビジブル』は、ライツビジネスを視野に入れ尖がった作りに挑んでいる。

4作の序盤戦からは、テレビ局が単に視聴率だけを意識せず、新たなビジネスへと向かっている姿が浮かび上がる。

王道の『マイファミリー』

4ミステリーの中で視聴率トップは『マイファミリー』。

人気実力ともに備えた二宮和也が、演技に定評のある多部未華子と冷えた夫婦を演じている。時代の寵児と持てはやされるゲーム会社の社長とセレブな奥様が、誘拐された娘を取り戻す中で関係性を少しずつ取り戻していく微妙な様子も見ものだ。

10代女子やF1(女性20~34歳)に圧倒的な支持を得るミステリーとなっている。

誘拐犯とのやりとりにゲームが使われる辺りも上手い。

MC(男性4~12歳)の視聴率も傑出しており、T層(男女13~19歳)の高さも加え、その親世代と一緒に見られている。

老若男女に見られる王道・日曜劇場らしい視聴者層だ。

しかも今作は、従来の日曜劇場と比べテンポが格段に早い。

前半4~5話と後半という2部制が多かったが、今回は3話で1部が終わってしまった。4話からの2部は友人で弁護士を演じる賀来賢人の娘の誘拐事件、さらに3部では元刑事で今は調査会社の濱田岳の娘の事件へと展開するようだ。

倍速で映画やドラマを視聴する若者も、親心を刺激する誘拐事件の展開も、老若男女を巻き込む作りになっている。

初回から4話まで視聴率がほとんど下落していない辺りは、「さすがにドラマのTBS」と言ったところだ。

コスパが良い『元彼の遺言状』

視聴率が高く、4話までの下落率も少ないという意味では『元彼の遺言状』も健闘している。

人気女優の綾瀬はるかが主人公で、1話完結のミステリーというわかりやすさで、中高年をしっかりおさえている。テレビ朝日『相棒』『科捜研の女』のような戦略をフジテレビ月9が定着させようとしているようだ。

広告収入の前提となるライブ視聴率をまず確保している。

加えて主人公とタッグを組むのが大泉洋。

ミステリー4作の中では、最も笑えるシーンが多く、結果として若年層も捉えている。MT(男性13~19歳)でトップは、大泉に負うところが大きいだろう。

しかも同作はシーンの数が少なく、綾瀬と大泉の場面が圧倒的に多い。

制作の裏側から言えば、制作費が低くおさえられている。実はフジは、10年以上続いた視聴率の下落と、それに伴う広告収入の減少で、番組制作費を最も圧縮してきた局だ。この15年ではピークの3分の1ほどカットされている。

前作『ミステリと言う勿れ』も今作も、シーン数も登場人物数も極端に少なくして制作費をおさえているようだが、内容の力で実績を確保している。

コストパフォーマンスが高い路線を確立しつつあると言えそうだ。

『パンドラの果実』はライツビジネス狙い!?

視聴率に走っていないのは『パンドラの果実』だ。

副題に「科学犯罪捜査ファイル」とあるが、とり上げるテーマは「能力を上げる脳内チップ」「自我を持つA.I.ロボット」「脳を転送するマインドアップロード」「亡くなった人に会えるVR」等など、最先端テクノロジーが次々に出てきて、会話にも難しい言葉が並ぶ。

結果として十代女子や65歳以上の高齢者で視聴率が大きく落ち込んでいる。

その実態は、初回の流出率にも表れている。

流出率とは、番組の途中で別のチャンネルに切り替えたりテレビを消したりして、その番組の視聴をやめた人の比率を示したもの。

これで見ると、『パンドラの果実』は初回の冒頭15分で大量の視聴者が脱落したことがわかる。しかも最後まで、流出率は他4ミステリーより高いままだった。

視聴率が振るわないのは当然と言えよう。

しかし日本テレビは、敢えて難しいドラマに挑んだ気がする。

同局は早くからhuluを買収し、ライツビジネスで多額の収入を得てきている。今年はウォルト・ディズニー・ジャパンと戦略的協業に関する合意書を締結し、今後はディズニープラスで番組の世界配信も手掛けていく。

この方針に沿って、『パンドラの果実』もライツビジネスの可能性を模索しているように見える。現にMTやM1(男性13~34歳)では高い数字をキープしている。

単にマスを追わずに、広告収入以外の収益を視野に入れた挑戦をしているようだ。

『インビジブル』の過激な挑戦

最も過激にライツビジネスに挑んでいるのは『インビジブル』だろう。

個人視聴率も4作で最低だ。3話までの下落も最も大きい。FCからF2まで(女性4~49歳)の数字が低迷しているのが痛い。

残酷な殺人シーンがこれでもかと出てくる辺りが、多くの女性には正視に耐えない作品となったのだろう。

ただし注視率でみると断トツだ。

注視率とは、テレビの前にいる人々の顔が画面に向かっている比率を測定したもの。つまり音だけ聞く“ながら視聴”ではなく、番組内容に注意を払う“専念視聴”をしている人の割合を示したものだ。

初回の実績でみると、他ミステリーより格段に高い。

高橋一生の狂気と、手を組んだ犯罪コーディネーター(インビジブル)を演じる柴咲コウの不思議な雰囲気が、視聴者を見入らせているのだろう。

実はTBS金曜10時枠は、こうした作品が多い。

前作『妻、小学生になる。』も注視率が圧倒的に高かった。その前の『最愛』も、見逃し配信で21年度最高の再生数を誇った。いずれもライブ視聴率は決して高くなかったにも関わらずだ。

今作『インビジブル』も、数は多くなくともハマる人をしっかり作っているようだ。ライツビジネスにつなげる意図が見えている。

そもそも今期GP帯ドラマは、ミステリーやサスペンスが7作と多い。

ハマる視聴者を作り出し、視聴率を前提とした広告ビジネス以外の新たな収入を視野に各局が入れ始めた証拠だろう。

その中で、コスパを意識した『元彼の遺言状』、視聴率も確保しつつ映画好きにリーチしする『マイファミリー』、特定層に強烈に届く『パンドラの果実』や『インビジブル』など、各局の戦略は先鋭化し始めている。

結果がどうなるか、テレビドラマの新たな時代が楽しみだ。