今クールのGP帯(夜7~11時)には、学園ドラマが3作ある。
そのうちテレビ朝日『未来への10カウント』と日本テレビ『金田一少年の事件簿』が、初回視聴率で接戦となった。
ただし誰がどう見ているかを詳しくみると、両ドラマは同じように高校を舞台にしながら大きな違いがある。
その差は何を意味するのか、制作したテレビ局の狙いなどを含めて考えて見た。
キムタクは中高年のヒーロー!?
『未来への10カウント』は木村拓哉が主演。
弱小ボクシング部を指導することになったキムタク。生徒が強くなり、同時に人生に疲れたコーチも立ち直っていく物語だ。
一方『金田一少年の事件簿』は、なにわ男子の道枝駿佑が主演。
名探偵・金田一耕助が祖父の高校生・金田一一が、遭遇する難事件を解決するテレビシリーズだ。初代は堂本剛(1995年~)、二代目・松本潤(2001年)、三代目・亀梨和也(05年)、四代目・山田涼介(13年~)を経て、今回で五代目だ。

両ドラマの初回、個人視聴率は4.5%と4.4%と差がほとんどない。
ただし性別や年齢別に比べると、両者の視聴者層は対照的だ。『未来への10カウント』は65歳以上の高齢者が中心。11.5%対5%と2倍以上高い。しかも独居あるいは夫婦のみの世帯に限定すると、13.9%対4.9%と3倍近くに差が広がる。
テレ朝ドラマの視聴者は、そもそも中高年に偏っている。
『相棒』『科捜研の女』『警視庁・捜査一課長』など、50歳以上や特に65歳以上で突出して見られることが多い。逆にT層(男女13~19歳)や1層(20~34歳)は極端に低い。主人公はじめ主な登場人物が50~60代と年齢が高く、若年層に人気の役者があまりいないのが主因だ。
さらに何年も続くシリーズドラマが多く、マンネリ感が若者に敬遠される要因となっている。
今回は舞台を高校にして若年層を狙ったのだろう。
ところが49歳の木村拓哉が中高年のヒーロー物語を担ったことで、『相棒』『科捜研の女』と同じような視聴者構成になってしまった(以上はスイッチメディア関東地区データによる)。
10代にリーチする効能
『金田一少年の事件簿』もシリーズドラマではある。
それでもテレ朝のシリーズとの違いは、主人公を演じる役者がシリーズ毎に入れ替わり、絶えず十代か二十歳前後と若い点だ。ヒロインも『未来への10カウント』の満島ひかりと比べると、美雪役の上白石萌歌は一回り以上若い。
出演者同様、視聴者層もかなり若い。
65歳以上で『未来への10カウント』に大きく後れをとっても、個人全体で接戦となっているのは、若年層で挽回しているからだ。T層で1.9%対5%と2.5倍以上、中高生では2%対5.8%と3倍近い。同じ学園ドラマでも、主に高齢者が見ているか同世代が見ているか、視聴者層が対照的なのである。
ただし十代だけでは、視聴率全体は苦しい。
少子高齢化と若者のテレビ離れで、テレビの視聴者は人口構成以上に中高年がボリュームゾーンとなっているからだ。ただし日テレは20年ほど前からコア層(13~49歳)をターゲットにしてきた。T層に見てもらうと同時に、その親世代の2層(男女35~49歳)に一緒に見てもらおうという戦略だ。
『金田一少年の事件簿』でもその狙いは的中している。
2層では男女とも2倍前後の差をつけ、視聴率全体を押し上げたのである。
狙いは視聴率プラスα
実は日テレの狙いは、視聴率だけではない。
視聴率の結果得られる広告収入は、今後減少して行くことを織り込んでいる。それを補う手立ての一つが映画化やネット配信などのライツビジネスだ。
そこにつなげるためにも、高齢者でなく若年層にリーチする必要がある。

単に年齢だけの問題でもない。
視聴者が作品にハマるように出来ていなければならない。仮にテレビで1千万人が無料で見るとして、その1割の100万人がネット配信や映画も見てもらえれば、広告収入の減少分を補えるという計算だ。
そのためには、見始めた視聴者を虜にしなければならない。
作品の出来がそうなっているか否かは、インテージの流出率が一つの目安となる。番組の途中で逃げ出す人がどれだけいるかを示したデータだ。
これによると両ドラマは中盤までほぼ互角だが、『未来への10カウント』は終盤で多くの人が見るのをやめている。SNSでも「古典的なストーリー」「設定がステレオタイプ」などの不満が散見されるが、既視感が拭えず、脱落する人が出たのだろう。
実際に2話3話と、同ドラマの視聴率は下落の一途となった。
対する『金田一少年の事件簿』は波形が異なる。
序盤こそ流出がやや高いが、中盤から後半にかけ見なくなる人は減り続け、終盤では大半が展開にハマっている。
「あっという間に1話終了しちゃった笑」
「何度も見てるはずのミステリーなのに、やっぱり面白い!」
「やっぱりストーリーがめちゃめちゃおもろです」
SNSでも、夢中で見たことを伺わせる声が多い。
こうした没入感が、ライツビジネスへの誘因となるが、同ドラマはそこもしっかり意識されているようだ。
テレビ番組は視聴率がビジネスの前提だ。
ただしライブ視聴での数字を狙うあまり、中高年狙いや受けやすい物語は“保険をかけた”つもりで裏目に出ることがある。視聴者のテレビに費やす可処分時間は減っているのに、ドラマの数は増えている。ユニークな切り口や傑出した展開でないと、視聴者はすぐに飽きてしまう。
ましてやライツビジネスにはつながらないのである。
春ドラマは序盤戦が終わったばかり。
これから物語は佳境に入って行くのだろうが、見たことのない新鮮なドラマを見せて欲しい。
各局の奮闘に期待したい。