この春の改編で名古屋の民放2局が、火曜夜7時に激突することになった。

先週その初回対決があったが、結果はほぼトリプルスコアとなった。

中京テレビ(CTV)制作『オモウマい店』(日テレ系)が、中部日本放送(CBC)制作『サンドウィッチマンのどうぶつ園飼育員さんプレゼン合戦 ZOO-1グランプリ』(TBS系)を圧倒したのである。

CBCは7年前に、ワイドショー『ゴゴスマ -GO GO!Smile!-』を地元以外の関東でも放送を始めた。その後TBS系列の多くの局が受け、全国番組に出世した。名古屋の地方局が情報系番組の発信局となる珍しいケースだった。

一方CTVは昨春から、『オモウマい店』の全国放送を始めた。

放送当初から好評で、関東地区の個人視聴率は平均7%台と、横並びでトップを独走した。

その両雄の直接対決とあって注目を集めたのが、今年度の火曜夜7時枠。

ところが初回の結果は、『オモウマい店』の圧勝となった。もちろん番組作りの上手さも大きいが、実は同番組には業界でも珍しいマーケティング手法が駆使されていた。

同番組の秘密に迫ってみた。

両バラエティの明暗

『ZOO-1グランプリ』は、全国各地の動物園の飼育員が自慢の動物をプレゼンする番組。

CBC制作の番組がTBS系列のゴールデンタイム(夜7~10時)で放送されるのは28年ぶりで、同局が満を持しておくる力作だ。

対する『オモウマい店』はグルメバラエティ。

安さ・ボリューム・サービスなどが独特でおもしろい飲食店を紹介する内容で、東海3県で人気の『PS純金』を全国版にした番組。CTVが企画制作から放送までを単独で行うのは開局以来初のことだ。

両番組の見られ方を、まず性別と年代別の個人視聴率で見てみよう。

『ZOO-1グランプリ』を良く見る層は、男女65歳以上・女性50~64歳・女性35~49歳・男女4~12歳の順。中高年に癒しを提供していることがわかる。また子供も惹きつけており、その親が随伴視聴している様子もうかがえる。

ところが『オモウマい店』の視聴層は格段に大きい。

一番は男女50~64歳だが、T層(男女13~19歳)から2層(男女34~49歳)でも良く見られている。個人全体の視聴率は『ZOO-1グランプリ』の2.8倍だが、F1(女性20~34歳)は3.1倍、M1(男性20~34歳)3.9倍、T層(男女13~19歳)に至っては7.1倍と、特に若年層で強い(以上はスイッチメディア関東地区データから)。

実は今春から同番組の広告単価はアップした。

広告主のニーズに合致したからで、広告営業で各局各番組が苦戦する中ではとても珍しい。

若年層からの支持が大きくものを言ったのである。

特定層での比較

性年代別だけでなく、特定の傾向を持つ層の視聴率も興味深い。

小学生やペットに興味を持つ層こそ、『ZOO-1グランプリ』も健闘している。ただし他の層では、『オモウマい店』がぶっちぎりだ。

例えば中高生は7.5倍、大学生も6.9倍と高い。

女子高生に限定しても4.3倍ある。若者は癒しより食欲が優先なのか。そもそも動物の面白映像は、インターネットにふんだんにあり、それをテレビに求める人は多くないのかも知れない。

CTVは単に安さやボリュームを売りにするのではなく、店で働く人の個性を面白く見せている。

こうした映像はネットになく、これがテレビで成功する秘訣の一つとなっている。

会社員も『オモウマい店』に惹きつけられている。

しかも平社員(3.3倍)より、部課長(4.2倍)がより見ている点が興味深い。ボリューム満点なのに格安というやり方、加えて顧客を惹きつける店主のキャラクターなど、商売や経営の観点からも興味深い番組になっているようだ。

子供世代に注目され、しかも親たちも興味を持っている。

親子二世代同居の人々が個人全体より高い視聴率となっているのは、「家族一緒に見られる番組こそテレビに大切」と考えたCTVの勝利だろう。

ロケと構成の妙

若年層はじめ幅広い層に見られるには訳がある。

ふつうグルメ番組は「豪華」「高級」「美味しい」店を取り上げる。ところが『オモウマい店』では、ボロボロの大衆食堂が中心。内容もボリュームがあり過ぎて食べきれずに困惑する客を映したり、店主のとんでもないキャラクターをクローズアップしたりなど、他のグルメ番組にはない側面が多い。

そのユニークな戦略は、視聴者の注視度データにも表れている。

先週の両番組を比較すると、『ZOO-1グランプリ』は視聴者数が少ないために注視度が上下に大きくばらついたが、最初の1時間が平均で50%前後と高かった。

ところが『オモウマい店』は30%前後しかない。

普通の評価では、視聴者が画面により注目する『ZOO-1グランプリ』が良く出来た番組となる。ところがインテージが測定する流出率では、別の評価が下る。流出率とは、その番組を視聴している人がどのくらいの割合でチャンネルを替えたりテレビを消したりしたかを示すデータだ。

これで両番組を比較してみよう。

両方が放送された7~8時でも、『ZOO-1グランプリ』の方が明らかに比率は高い。2%を超える部分はCMだが、本編放送中でも視聴者の1.5%以上が頻繁に逃げ出している。

序盤から7時半前後にかけて、珍しい映像に注目こそすれ、途中で飽きてしまった人が少なくなかった事実が浮かび上がる。

注視度データの2時間番組の後半1時間が下落の一途だったことからも、“飽き”が推測される。

一方『オモウマい店』は、注視度こそ30%前後しかないが、流出率は低い値でも安定している。

「豪華」「美味しい」とは無縁でも、予想を裏切る「とんでもない展開」が、7時台の食事中などの“ながら視聴”にマッチし、低流出率となっているのではないだろうか。

実際に接触率の波形でも、明暗がはっきり分かれた。

15秒単位で追うと、『オモウマい店』は7時台後半にかけて尻上がりに高くなった。ところが『ZOO-1グランプリ』は徐々に下がってしまった。

CTVの放送時間も考慮した戦略の賜物と言えよう。

マーケティングの勝利

『オモウマい店』の強さには、もう一つ決定的な秘密がある。

マーケティング戦略だ。

関東地区の同番組の視聴率は、北関東で極端に高いという特徴がある。

埼玉・茨城・群馬・栃木・千葉で高く、神奈川や東京で低いのだ。その理由は、同番組が取り上げる店が埼玉以北の北関東に多く、東京・神奈川は少ないからだ。

21年上半期の22回の放送で数えると、茨城の店は16回、埼玉と千葉は各9回登場したが、東京は4回しか出てこない。

実はこれには理由がある。

CTVは7時台にテレビをライブ視聴する割合を地区別に調べた。すると埼玉・茨城が格段に高く、東京23区は3分の2以下と低い。要は都心より郊外に住む人々の方がテレビをライブ視聴しているのである。

そこで同番組は、北関東の店を多く取り上げる方針とした。

地元の店が出れば、その地域の視聴率は当然高くなる。また地元でなくとも、郊外という似た環境の地域では、関心を持ってもらいやすい。

ライブ視聴をしてくれる人々の関心に寄り添うことでその地区の数字を上げ、関東地区の平均値を押し上げる作戦だったのである。

しかも作戦を確実に成功させる努力も惜しまなかった。

茨城・栃木・群馬の3県では、地元のお店を取り上げる際に、茨城新聞・下野新聞・上毛新聞に宣伝を出稿するようにしていたのである。

これらの新聞社では、テレビの全国放送が直接訪ねて来たのは初めてだと証言している。

筆者も全国放送が、県別の宣伝をしたということを聞いたことがない。

CTVのこうしたマーケティング戦略が、視聴率が高くなりやすい地域の数字をしっかり確保し、関東の平均値を押し上げていたのである。

プロダクトアウトの時代は終わった!?

かつてテレビはプロダクトアウトで大成功した時代があった。

優れたクリエイターが、勘から当たる番組を連打した時代だ。82年から12年連続“三冠王”を達成したフジテレビは、それをシーズ戦略(種を育てる作戦)と呼んでいたが正にその典型だった。

ところが今や、テレビをライブ視聴する人は減る一方だ。

それでも視聴率を維持するには、番組論や編成論だけでは限界がある。どうしたら限られたパイの中で一定数の人に見てもらえるか、今回のCTVのように“よく練られたマーケティング戦略”が、制作陣と歩調を合わせた場合に成功をもたらすのではないだろうか。

昨春の新番組や枠移動のバラエティは、P帯(夜7~11時)で7つあった。

『オトラクション』『オオカミ少年』『家事ヤロウ』などだ。その中にあり若年層やコアターゲットで高い視聴率を獲得したのは『オモウマい店』だけだった。

キー局以外が制作する番組が傑出したこの事態に、やはりタイムシフト視聴が増える時代、テレビ番組はいよいよ他にない知恵が不可欠になったと痛感する。

テレビ界では、一つ成功例が出ると真似をする番組が後に続く。

今や北関東を取り上げる番組が増えている。しかし『オモウマい店』のように番組内容とマーケティング作戦でユニークな例はそうはない。真似だけで簡単に成功するとは思えない。

厳しい時代だからこそ、番組制作者には今までに見たことのない新たな切り口を発明して欲しい。

ネットにない独自性こそが、テレビが発展する唯一の道と信じたい。