初回から2週連続で同時間帯の番組横並びトップとなった『鎌倉殿の13人』。
ただし初回と2話を比較すると、見られ方は大きく変化している。大河ドラマ3作目で、三谷マジックがどう本領発揮するのか、視聴者は興味津々で画面に注目した。
初回はその期待に違わぬ面白さだった。
ところが2話では、早くも見方は冷静になり、一部のSNS利用者は別として、サイレントマジョリティの見方は1ドラマとして普通の見方に変わっていた。
三谷マジックの賞味期限は、早くもお仕舞となってしまったのだろうか
2回の視聴実態から、三谷幸喜の大河ドラマは今後どう展開したら面白いのかを考えて見た。
注視度の違い
初回と2話とでは、注視度が決定的に違う。
注視度とは、視聴者が番組中に画面を見ている度合い。スイッチメディアは秒単位で測定しているので、どの映像、どんなセリフが人々の心を動かしたのかを詳細に浮かび上がらせられる。

初回と2話が放送された時間帯、裏の全番組の平均注視度は31~32%だった。
ふだんの日曜8時台とあまり変わらないが、大河初回の平均は55.1%と20%以上高くなった。圧倒的な注目度だったのである。
これに対して2話は47.2%。
相変わらず普通のドラマと比べると高いが、初回からは大きく後退したと言わざるを得ない。
特に序盤で大きな差が出来、初回は中盤にも山が何度もあり、さらに終盤に盛り上がりがあったことが大きかった。
初回で面白いという印象を強烈に植え付けようという制作陣の意気込みは成功していた。
それでも2話は後退
それでも制作陣の思惑に反し、2話の視聴率は後退した。

スイッチメディアのデータでは、個人全体は初回7.2%から2話は0.9%下がって6.3%となった(関東地区)。
1分視聴率では、初回は時間と共に微増していたが、2話はほぼ横ばいのままで大きな変化は見られなかった。
これをテレビ視聴者の過半を占める50歳以上を男女別に見ると違いが生じていた。
初回のF3(女性50歳以上)は、時間経過とともに明らかに視聴率が上がっていた。途中でやめる人が少なく、途中から見始めた人が多かったことがわかる。
ところが2話では、3%以上低く始まり、途中で上がることもなかった。
残念ながら初回の時の熱は、下がってしまったということだろう。
M3(男性50歳以上)は少し違う。
番組開始時は、初回も2話も大差がない。ところが初回は45分頃までほぼ横ばいだったのに対して、2話は微減傾向となった。
ここで得られる仮説は、大河3作目で熟練したはずの三谷マジックが、早くも狙い通りに効かなくなっているということだ。
テロップで静止画
注視率の動向を分析すると、今回の三谷大河には3つのマジックがあったことがわかる。
1つは初めて登場する重要人物を2~3秒の静止画にしてテロップを重ねる手法。
初回では主人公の義時(小栗旬)と父・時政(坂東彌十郎)、政子(小池栄子)、頼朝(大泉洋)、実衣(宮澤エマ)などで用いた。いずれのケースも注視率が数パーセントぐっと上がっていた(★印の場所)。

2話でも、清盛(松平健)と宗盛(小泉孝太郎)で有効だった。
やたらと登場人物が多く、誰が誰だか分からなくなりがちな時代劇だ。2~3秒なら邪魔にならない程度に理解を助けており、有効な手法として今後定着しそうだ。
ただし数字が上がらないケースもあったことを付け加えておかねばならない。視聴者はあっという間に慣れていく。
光るセリフと人物像
三谷幸喜の大河ドラマは、セリフや人物像がユニークだ。
「首チョンパ」など、現代語のような生き生きしたセリフが思わぬタイミングで飛び出す。
しかも主人公・義時(小栗旬)も、思い込みの激しい兄・宗時(片岡愛之助)などに振り回される性格として描かれる。妹の実衣(宮澤エマ)も、現代っ子を思わせるような茶目っ気たっぷりの言動を弄する。
要は視聴者が「こんな人いるいる」と、自分の身の回りの出来事に投影して見られるように作られている。
これらは2話でも健在で、視聴者の指示も高いままだった。
頼朝が北条家全員と挨拶を交わした際の各人の性格をにじませた会話、頼朝が食事について「好き嫌いを言える立場ではない」と言っておきながら家来に出した細かい指示、それを受けた鯵をめぐる政子と頼朝のやりとり等。
時代劇としてはどうでも良い些事かもしれないが、人間ドラマとして視聴者を引き込むシーンとなっており、いずれも高い注視率を記録した。
飽きさせない工夫として秀逸と言わざるを得ない。
短くなったタイトルバック
3つ目のマジックはタイトルバック。
今回の尺は2分あまりで例年より30秒以上短い。しかも土で作った人形のようなイメージで、鎌倉時代の雰囲気がよく出ている。

初回を注視率で見ると、平均で58.9%と本編より3%以上高い。
いかに多くの人の目を引き、しかも長すぎないために最後まで飽きずに見せたかがわかる。大成功だろう。
ただしこの種の目新しさも、飽きられるのが早い。
2話の平均は41.6%。初回から17%も落ちていた。特に2回目は始まって直ぐに10%以上落ちた。最初の印象が強かった分だけ、2度目の露出では注目度が下がってしまった。
大切なのはバランス
以上から言えるのは、目新しさは効果的でも本質的ではないということ。
視聴者として最も数が多くなるF3が2話目の冒頭でチャンネルを合わせていなかったし、途中で見るのをやめる人も一定数いた点を重視すべきだろう。
ここまでで挙げなかった重要ポイントもある。
初回では冒頭とエンディングで出て来た馬での逃走シーン。やはり大活劇は多くの人が血湧き肉躍るようだ。
他に祐親(浅野和之)と祐経(坪倉由幸)の軋轢、主人公ら4人の密議など、緊張感のあるシーンは高い数字になった。
2話でも、祐経による祐親への襲撃や祐親と娘の八重(新垣結衣)の頼朝や千鶴丸をめぐるやりとりは好成績となった。
つまり硬軟取り混ぜた展開が大切で、『鎌倉殿の13人』の序盤は時代が大きく動くダイナミズムを、コメントでいうほど具体的な展開で示せていなかったのかも知れない。
三谷大河では、セリフや人物像での遊びの面白さは折り紙付きだ。
その変化球の絶妙さに見合う剛速球の醍醐味次第で、今後の評価が定まりそうだ。
申し分のないバランスで、名作大河となることを期待したい。