22年冬ドラマが熱い闘いを始めている。

この中で注目したいのは、TBS火曜と日テレ水曜で主役を演じる“朝ドラ新旧ヒロイン対決”。

去年『おかえりモネ』で好評だった清原果耶は、『ファイトソング』で夢破れたスポ根ヒロインに挑戦している。

一方6年前の『とと姉ちゃん』でブレイク女優1位に輝いた高畑充希は、『ムチャブリ!わたしが社長になるなんて』で突然社長に就任させられる役となった。

それぞれ初回の視聴率は、世帯が9.2%対8.9%、個人が5.0%対4.8%と互角(ビデオリサーチ関東地区調べ)。ただし放送中の接触率波形や、人々の注視率動向は対照的となった。

若い女性向けに恋を絡めた物語だが、小さくて大きな差はどこから来るのかを分析してみた。

全体の比較

両ドラマ初回を注視率で比較すると、清原果耶に軍配があがる。

注視率とは視聴者がテレビ画面を見ている割合で、スイッチメディアが測定している。CMを除くドラマ本編で比較すると、『ファイトソング』は平均で30%台後半と、同時間帯の裏番組平均より15%ほど高かった。

一方『ムチャブリ!』の平均は30%台前半。

同時間帯の裏番組平均より5~6%上回る程度。最高注視率でも、清原ドラマが56.8%に達しているのに対して、高畑ドラマは47.1%と10%近く水をあけられた。

10代で民放連ドラ初主人公を射止めた清原の新鮮さに加えて、ジャニーズの人気者・菊池風磨やイケメンの間宮祥太朗が共演している点が強みとなったようだ。

ところが接触率の波形や流出率データだと、両ドラマの評価は逆転する。

インテージは関東111万台のネット接続テレビの視聴動向を調べているが、これによれば『ムチャブリ!』の接触率は途中でほとんど下落することなく、終盤は右肩上がりと健闘した。ところが『ファイトソング』は、終盤を除けば基本的に右肩下がりだった。

原因は流出率にある。

『ムチャブリ!』は、途中で飽きてチャンネルを替えたりテレビを消す人が比較的少なかったが、『ファイトソング』は冒頭から50分過ぎまで、退屈と感じた人や視聴をやめた人が多かった。

視聴者層の違い

両ドラマの見られ方の差は、視聴者層の違いによるところも大きい。

スイッチメディアが調べる特定層別個人視聴率で比べると、男女年層による違いはあまり大きくない。また「ドラマ好き」層の視聴率も互角だ。

ただし切り口を変えると支持する層が対照的となる。

『ファイトソング』は「女子高生」「美容・ファッションに興味」「タレント・芸能人に興味」層で明らかに高い。自らの美意識や感性で画面を注視している様が思い浮かぶ。ただし自らの基準に合致しないと、脱落していく人も多い。高注視率でも流出率も高くなった理由は、そのあたりにありそうだ。

一方『ムチャブリ!』は、女性の管理職や経営者・自営業者で高かった。

さらに「ベストを尽くす生き方」を支持する人々でも高く出た。どうやら時代の変化や女性の社会参加などで、意識の高い人々により支持される傾向にあるようだ。

序盤の比較

こうした視聴者層の違いは、ドラマの序盤から如実に表れた。

注視率でみると『ファイトソング』は、空手に挑戦した清原果耶の凛々しい形、少女時代の主人公が男の子を回し蹴り一撃で倒すシーン、大学生の主人公が空手大会の決勝戦ラスト1秒で劣勢を挽回して優勝したところで高くなった。要は見た目が派手なシーンで高かったのである。

一方『ムチャブリ!』では、ダメな場面が高注視率となった。

主人公の高畑充希が、思いもよらず新会社の社長に任命され困惑するシーン。主人公を敵視する大牙(志尊淳)が専務に励まされる場面。さらに新会社の懇親会での情けない展開などだ。

格好良さではなく、内面の心理が噴出する瞬間に視聴者の注目が集まっていたと言えよう。

ところが見栄えするシーンで高注視率となった『ファイトソング』は、序盤で離脱する人も多かった。

こうしたカットに多数の視聴者が反応していたものの、「ちょっと違うかも」「微妙」と脱落する人も一定比率でいたようだ。

逆に『ムチャブリ!』では、多くの耳目を集める華麗さやスリリングな場面は少ないが、ドラマの設定や切り口に失望する人は少なかったようだ。

終盤の比較

以上のように対照的な両ドラマだが、終盤では差が縮まっていた。

序盤や中盤で注視率があまり高くならなかった『ムチャブリ!』は、終盤で高い数字を出すようになっていた。ダメ社長だったが自らの弱さをさらけ出したことで、頑固だったシェフの協力が得られ新メニュー作りに漕ぎつけた。そして社長続投を決めたシーンなどが注目された。

派手なシーンで高注視率をとっていた『ファイトソング』は、終盤では一転して内面へと向かった。

芦田(間宮祥太朗)の演奏を聴いて絶妙な泣き顔を見せた清原果耶。子供の頃の回想から現在の状況がフラッシュバックで描かれ、1年ほど続いた挫折感が徐々に解け始めていた。

それを見た芦田も、スランプから次の一歩を踏み出そうとしている。

終盤の流出率では、『ファイトソング』の脱落者はごく少数に転じていた。

裏局の番組が入れ替わる11時前後でも、見るのをやめる人がほとんどいなかったのは、大半の視聴者が見入っていた証拠だろう。

一方『ムチャブリ!』も、終盤は盛り返した。

ダメダメだった新社長が、ようやく浅見社長(松田翔太)のイエスマンを脱し、自ら判断し行動するようになった。流出する人が少ない分、10時50分台にザッピングする視聴者を集め、接触率は尻上がりに伸びていった。

設定や展開の問題

終盤だけみると、両ドラマとも申し分ない。

ただし『ファイトソング』は、ヒューマンラブコメディで女子高生らの関心を保てるかも知れないが、設定や展開を考えると2話以降で苦戦するかも知れない。

まず序盤で脱落者が多く出た問題。

確かに清原果耶の空手の形は凛々しかった。SNSでも多くのツイートが絶賛した。

「空手の型キマってるやん」

「なかなか様になってたんじゃなかろうか」

「キレキレだったので、有段者かと思ってました!」

ただし違和感を持った人もいた。

「序盤の空手シーンは正直うーん?」

「小さい頃の主人公は上段げり凄い足上がってたのに、大人になったら足上がらなくなってんの」

「清原果耶ちゃんの空手は専門家から見てどうなんだろう」

確かに形はまだしも、組手には不自然さが目立った。

清原の攻撃に対して、相手が全く動かない、あるいは防御に入ろうとしないカットが複数編集されていた。しかもスローでカットを重ねるので、不自然さが際立ってしまった。

決勝戦が劣勢で、最後の1秒で大逆転するのも既視感がある。

優勝の瞬間からタイトルが出て以降の1分15秒で0.5%が脱落したが、設定・演出・展開にノーを突きつけた人が一定数いた証拠だろう。

実写ドラマは、こうした部分が致命傷になりやすい。

年末深夜に放送された瀧本美織主演『踊り場にて』も、序盤で躓いた人が少なくなかった。海外でプロのバレエダンサーをめざしたが挫折し、学校の教師として再出発する物語だった。

ところが設定や演出について、実際に海外で活躍した経験を持つイーリスバレエの神田彩名氏(注)は厳しく批判する。

「バレエ界ではプロは10代で目指すもの。29才はプロになった人が退団考える年齢」

「プロ未経験者が29才で受けられるオーディションは現実にはない」

「立ち振る舞いがプロバレエダンサーを目指した人には見えなかった。プロの指導者によるオーディション用のレッスン場面は最低限欲しかった」

残念ながら同ドラマは、始まって10分ほどで中高生の視聴率が半減した。

せっかくバレエで若い女性の関心を集めたのに、物語の真のテーマ「必死で努力しても夢が叶わない時、どうやって立ち上がるか」を見てもらえなかったのである。

話を両ドラマに戻そう。

『ファイトソング』は、大会で優勝したその日に、主人公は交通事故で選手生命を絶たれる。そして1年間、ぐうたらな生活を送り、耳が聞こえなくなるかも知れないという爆弾を抱えて男女の三角関係に突入していくようだ。

物語を面白くするための仕掛けなのだろうが、人気のある俳優が揃っていようと、強引な設定と展開にどれだけの視聴者が共感するのだろうか。

「さて次週見るか、脱落か、それが問題です」

「ただただ清原果耶が可愛らしいのでもう少し見てみよう」

SNSでは微妙な声も散見される。

これに対して目の前の仕事に精一杯で自分で決められない30歳が、立場を与えられどうやって自立していくのか。『ムチャブリ!』は幅広い層の関心を集めそうだ。

ただし連ドラは“2話の谷”と呼ばれる試練に沈むことが多い。

初回を試し見した人が2話でやめるケースだ。初回で対照的だった“朝ドラ新旧ヒロイン対決”となった両ドラマが、どんな展開をみせるのか楽しみにしたい。

(注)神田彩名氏 

元イギリスノーザンバレエ団ソリスト、2013年イギリスにてピラィ資格取得、同年から日本でピラティス、バレエを教えている。

現在イーリスバレエで講師を務める。