『第72回NHK紅白歌合戦』が世帯視聴率34.3%で「史上最悪」云々と言われている。

しかし視聴占有率でみると、前年比で大きく下がったわけではない。“テレビ離れ”の影響が出たことが一つの要因だった。

ただし登場した全歌手が、どれだけ視聴者を魅了したのかを視聴データで見える化してみると、今回の紅白にも課題があったことが浮かび上がる。

出場者の魅力が、例年に比べ乏しかったのである。

視聴データで測定できる魅力

視聴率の高低は、視聴者の流入と流出で決まる。

その番組を途中でも見始める人が増えれば、数字は上がる。テレビをつけたり、裏番組からその番組に切り替える人たちである。

もう一つ、視聴率向上に必要な要素がある。

流出率を低くおさえることだ。その番組に飽きて、裏番組に逃げたりテレビを消されないようにする努力だ。これをゼロにおさえ続ければ、一定の割合でザッピングする人がいるので、視聴率は次第に上がっていく。

その流出率の前提に注視率がある。

視聴者がテレビ画面を見ている割合を指す。番組に興味を失いスマホを見たり居眠りを始めると、やがて流出につながる。番組制作者は番組の各シーンを魅力的にし、注視率を高くしなければならないのである。

この注視率はスイッチメディア、流出率はインテージが測定している。

これらの視聴データを組み合わせると、『紅白』全出演者のパフォーマンスが視聴者をどれだけ魅了していたのかが浮かび上がる。

魅力度上位グループ

メディアの中には、瞬間視聴率の高低で歌手の魅力を表現する記事がある。

1位はMISIAの39.2%、2位福山雅治36.5%、3位鈴木雅之36.2%といった具合だ。ただし『紅白』は、例年1部の数字が低く2部が高い。しかも終盤は必ず数字が伸び続ける。つまりどの位置で歌ったかにより数字は左右されるので、視聴率で歌手の魅力を云々するのは間違いだ。

注視率が高く流出率が低かった歌手が、視聴者を魅了していたと見る方が妥当だろう。

その意味でいうと、MISIAも福山雅治も成績上位者ではあるものの、ともにベスト5には入らなかった。

実は最も視聴者を魅了した出演者は、歌手ではなく、劇団ひとりによる照明スイッチングなどのいたずらコーナーだった。

流出率0.101%は他を大きく引き離し、注視率44.93%もトップと僅差の2位だった。彼の演技とアイデア、そして演出力の賜物と言えよう。

2位は続いて登場した松平健「マツケンサンバⅡザ・カラフルREMIX」。

流出率0.129%は同率2位、注視率46.19%は堂々の1位に輝いた。ネット記事の中にも「絶妙な演出」と絶賛するものがあった。瞬間記録では、流出率0.062%・注視率49.63%が出たが、番組全体を通して最高記録だった。

ただしマツケンサンバについては、単純に凄かったわけではない。

そもそもトップとなった劇団ひとりのパフォーマンスが露払いとなった点が大きい。しかも松平健が登場して歌い出すと、まもなく流出率0.2%台、注視率40%割れとなる。彼の1ショットの部分である。つまり歌そのものが魅力的と映ったかは怪しい。

ところが腰元ダンサーズの派手で迫力のあるパフォーマンスで数字は反転する。

圧巻は歌1番と2番の間のカラフルダンサーズが次々と繰り出すパフォーマンス。流出率も注視率も好記録が続いたのである。

要は多くの出演者が総動員で盛り上げた演出が功を奏したのである。

歌手の上位

企画コーナーを除き、歌手としての上位3組は以下の通り。

トップは郷ひろみ「2億4千万の瞳-エキゾチック・ジャパン-」。流出率0.134%、注視率38.47%だったが、歌の後半ほど両データが良くなっていたのが特徴だった。

2位は「きらり」と「燃えよ」を歌った藤井風。

『紅白』初出場で、史上初となる「自宅での出演」の直後に会場に登場するサプライズが注目された。そのサプライズの瞬間に両視聴データも跳ね上がった。しかも4分半という長時間の出演にもかかわらず、両データとも悪化しなかった点に、彼の実力が表れていたと言えよう。

その直後が3位のYOASOBI。

オーケストラと100人を超えるダンサーとの共演で披露した歌は『群青』。青で統一した群舞は、まさに曲のイメージにマッチした。

曲全体は5分45秒と長かったにもかかわらず、やはり両データは好成績を維持した。会場の設定やカメラワークの独自性に加え、最後に群青が「群青」を合唱する演出の勝利と言えよう。

上位グループの他の曲は、以下の通り。

鈴木雅之「め組のひと2021紅白ver.」は、流出率0.141%・注視率36.33%。

三山ひろし「浮世傘~第5回けん玉世界記録への道~」は、流出率0.156%・注視率38.15%。歌を聞くというより、126人のけん玉ギネス記録の行方に注目した結果と言えよう。

そして「天体観測」と「なないろ」を歌ったBUMPOFCHICKEN。歌の時間が2曲で7分45秒と全歌手の中で最長だったが、流出率0.139%・注視率34.19%と気を吐いた。

  

歌手の下位

視聴データで最低は、山内惠介「有楽町で逢いましょう」。

流出率0.334%・注視率24.66%は、『紅白』1部と2部の間に放送された5分の『ニュース』にも及ばなかった。直前の曲紹介での既に大量流出が起こったが、視聴者ニーズと如何に大きく乖離していたかがわかる。

次が関ジャニ∞の「Re:LIVE」。

注視率こそ31.4%と悪くなかったが、流出率0.302%はワースト2位と低迷した。出演したジャニーズ5組の中で最低だった。

他にも宮本浩次「夜明けのうた」が、流出率0.258%・注視率28.27%。

GENERATIONSfromEXILETRIBE「MakeMeBetter」が、流出率0.251%・注視率27.9%。

millenniumparade×Belle(中村佳穂)「U」が、流出率0.257%・注視率29.62%。

櫻坂46「流れ弾」が、流出率0.221%・注視率26.98%。

星野源「不思議」が、流出率0.204%・注視率26.38%と低迷した。

最初から悪い数字で全く改善しないケース、最初はまずまずだが途中で視聴者に飽きられるケースなどが主なパターンだった。ちなみに瞬間の注視率で最低だったのは、21.21%の天童よしみ「あんたの花道~ブラバンSP」だったが、大阪桐蔭高校吹奏楽部とコラボしたことが幸いしたのか、流出率は0.0189%と平均値で踏ん張った。

曲順による傾向

以上が歌手の上位と下位の概要だ。

ただしこうした実績には、曲順による影響もある。視聴者側の気分の問題であり、直前はどの曲が来たのか等だ。

例えば7時台は、裏でボクシング世界タイトルマッチが行われていた。

他にも日本テレビが、大晦日恒例だった人気番組『ダウンタウンのガキの使いやあらへんで!』が放送できなくなり、代わりの特番『笑って年越したい!笑う大晦日』が気になり、頻繁にザッピングした人も少なくなかった。

30分に6組と出場者は少なかったが、流出率も注視率も他の時間帯よりバラつきが大きくなった。

8~9時台は、次第にバラつきが少なくなって行った。

年の瀬の用事が片付き、徐々にテレビを見る態勢が整った人が増えたのだろう。さらに裏番組とのザッピングも減っていった。

10~11時台は、最も安定した時間帯となった。

流出率も注視率も、ブレの幅が小さくなった。特に流出率では、高い数値となる歌手がほとんどいなくなった。ところが注視率では、10時台から11時台にむけて数値が低くなった。

この傾向を、両データと各歌手の持ち時間を併せたグラフにすると、状況が良くわかる。

流出率も注視率も、7~8時台は上下動が激しい。歌手が歌う時間は短めにもかかわらず、人々のテレビ視聴が安定していないことがわかる。

ところが9時台から11時台にかけては、流出率も注視率も数字が下がる傾向だった。

画面に目が行っている割合が減っているが、視聴をやめる人も少なくなっていたのである。

注視率について一つ言えるのは、長時間におよんだために次第に演出に慣れ、画面への集中力が薄れていたようだ。

特に中高年の中には、うたた寝をしていた人も少なくない。筆者の知人や親せき縁者の中でも、そう証言する人が何人もいた。

流出率については、最後がどう終わるのか気になった人が少なくなかった。

若年層の中には、家族に付き合った人、スマホなどに目が言っていたが、最後をチェックするため耳だけ『紅白』に傾けていた人も一定量いた。

演出側も後半の流出は減ることがわかっているようで、歌手の持ち時間を長くしていた。途中で少々飽きたとしてもザッピングされにくいので、しっかり歌を聴いてもらう作戦にしているのである。

過去最低となった番組側の要因

以上が今回の概要だ。

ではこうした展開の中で、裏番組も含めた“テレビ離れ”以外に、『紅白』自体にはどんな敗因があっただろうか。

ここ数年の『紅白』を視聴データで検証してきた筆者は、9時台から11時台前半に課題があったと見る。

まず注視率では、1部終盤の劇団ひとりやマツケンサンバのような、突出して高いパートが皆無だった。結果として流出率も、極めて低い時間帯がないし、数曲に渡って好成績が続くことも少なかった。

唯一の例外が、藤井風からYOASOBI、さらに鈴木雅之へと続く3曲だった。

ところが数値の力強さは今一つで、視聴率の上昇力も跳び抜けたものではなかった。拙稿「『紅白』歴代最低視聴率からの再生法~前回の企画『エール』から嵐とLiSAへの連打にヒントあり!~」で詳細を説明したが、ここ何年かの『紅白』には視聴率を上げる飛び道具が存在した。

2017年はトップアイドル嵐に続き、引退を発表をしていた安室奈美恵の生放送があった。

18年は、テレビにはじめて生出演した米津玄師の人気曲「Lemon」で一挙に盛り上がった。

20年は、その年に話題となった『エール』の企画コーナー、その主題歌を歌ったGReeeeN(初出場かつテレビ初顔出し)、その日で活動休止となった嵐、その年に大ブレークした『鬼滅の刃』の主題歌を歌ったLiSAまでの4連打。

これらは『紅白』終盤に構成されてはいなった。

10時台後半から11時台前半に置かれ、途中で視聴率を押し上げることで全体の平均値を底上げした。特に20年の4連打は、9時台に配置することで絶大なパワーを発揮した。

やはり『紅白』の基本は、その年を代表する突出した曲があるか否かだ。

大晦日恒例の国民的イベントではあるものの、デビュー〇×周年などの理由で出る歌手はいらない。単なる送り手の論理に踊らされるほど、視聴者は愚かではない。多くの視聴者のニーズに謙虚に耳を傾け、演出と構成を工夫することこそ大切なのである。

その意味で今回の『紅白』は条件が整っていなかった。次での捲土重来に期待し