『カムカムエヴリバディ』が好調だ。

それに伴い『あさイチ』冒頭の“朝ドラ受け”も進化を続けている。

「ドラマ本編と“朝ドラ受け”は一つのコンテンツ」と受け止める人が増えているが、そのクオリティは高まっているようだ。

先週は冒頭から泣いてしゃべれなくなった鈴木奈穂子アナを、博多華丸・大吉とIKKOがフォローするハプニングが注目された。実は『カムカムエヴリバディ』になってからは、ドラマの出演者がゲストとなった日に、“朝ドラ受け”の白眉というべきアドリブの応酬が見られるようになっている。

では優れた“朝ドラ受け”とは、如何ほどのものなのか。

視聴データにその実力がはっきりと表れている。

“朝ドラ受け”の実力

“朝ドラ受け”とは、8時15分からのNHK『あさイチ』冒頭で、出演者たちが直前の「連続テレビ小説」についてコメントする半ば恒例のやりとりを指す。

『カムカムエヴリバディ』が始まった11月で分析してみよう。

11月3日と23日は祝日のために、朝ドラの後は特別編成で『あさイチ』はなかった。8時14分の視聴率を1として毎分視聴率を指数化すると、“朝ドラ受け”のない2日の平均値は8時15分で21%減、16分で35%減と急落した(スイッチメディア関東地区データから)。

ところが1~2分におよぶ“朝ドラ受け”がある平日の平均値は、8時15分で11%、16分で21%と、“朝ドラ受け”のない祝日よりはるかに下落率が低い。ドラマについてのやりとりを楽しんでいる人が大勢いることがわかる。

特に11月25日は圧巻だった。

NHKの鈴木アナが泣いて進行できず、博多大吉が「一か八かニュースセンターに振ってみる?」と笑いをとり、さらにIKKOが「まぼろし~ィ」「どんだけ~ェ」で一番おいしいところを持っていくという展開だった。

これにより8時15分の下落率はわずか4%。

16分でも12%と普段の半分ほど。“朝ドラ受け”のない祝日と比べると、落ち幅を1/3~1/5に留めるパワーだったのである。

「朝ドララストのナレーションに『え?』と呆然としていたら、朝ドラ受けで鈴木アナが号泣してて、もうそれ見たら涙が止まらなくなってしまった。車から降りられないぐらい泣いてしまい、乗るはずだった電車を2本逃してしまった」

「うわぁん…こんな高度な泣かせある?」

「IKKOさんによるまぼろしーで視聴者全員救ってくれた流れ最高にcoolだった」

「(“朝ドラ受け”の)流れ完璧」

この日はSNSでも、“朝ドラ受け”の書き込みで大いに盛り上がった。

1~2分長く見せる効果

視聴データには、流出率という切り口がある。

番組を視聴中に飽きてチャンネルを替えたり、用事ができてテレビを消したりする人の比率だ。

『カムカムエヴリバディ』については番組が終わる直前に少し流出率が高くなり、『あさイチ』に替わる15分に1.2%以上に急上昇、そして2分ほどで0.1%に落ち着く。この間に累積で3~4%を失うのが平均的なパターンだ(インテージ関東地区データから)。

ところが鈴木アナが涙を流した11月25日は別格だった。

『あさイチ』に切り替わった8時15分の跳ね上がりは0.8%と普段の2/3におさまった。“朝ドラ受け”の間の累積流出率は約2.5%で、やはりいつもの2/3程度で済んでいる。

15秒単位で分析すると、各出演者の役割分担の秀逸さが浮かび上がる。

口をおさえて話せないことを伝える鈴木アナ。華丸がソワソワする脇で大吉は淡々と挨拶を続ける。「ダメだもう」と鈴木アナがようやく言葉を絞りだした時点で、流出率は0.2%に急減した。視聴者も異常事態を察して、番組から離れられなくなっていた。

「ただの夢なのかなあ」と大吉がふって、鈴木アナがどの程度崩壊しているのかを確かめる。

進行困難とみて、「一か八かニュースセンターに振ってみましょうか?」とかまし、スタジオスタッフの爆笑を集める。「どうしよう」と鈴木アナが弱音を吐いた所で、流出率は同コーナー最低の0.18%。

ここで華丸が「これが噂の幻~ッてやつでしょ」と助け船。

ようやく鈴木アナがゲスト紹介をすると、「まぼろし~~~ィ」とIKKOが声を張り上げ、流出率を0.3%未満に保つ。この1分で立ち直った鈴木アナが視聴者からのFAX「(IKKOの)雄叫び、大好きです」を披露する。すかさず本人が「どんだけ~~ェ」と受ける。ここまでの40秒ほども流出率はずっと0.3%未満と安定的に推移した。

華丸・大吉とIKKOのアドリブによるフォローは完璧で、視聴者は完全に魅入っていた。

この日の個人視聴率は、朝ドラ終了直前の4.9%が『あさイチ』開始4分で3.4%にまで落ちるが、“朝ドラ受け”のお陰で下落カーブは明らかに緩やかになった。

その証拠に、8時16分30秒で流出率は0.7%近くとそれまでの倍以上に跳ね上がった。明らかに“朝ドラ受け”で流出が止まっていた視聴者たちが、2分ほど遅れて動き始めていた。

秀逸な“朝ドラ受け”様々

『カムカムエヴリバディ』が始まってからの“朝ドラ受け”には、他にも優れた回があった。

例えば11月16日は、稔(松村北斗)の母・美都里を演ずるYOUがゲストとして登場した。縁談が持ち上がった稔に近づくなと、美都里に釘を刺された安子(上白石萌音)は、自ら身を引く決意を固めた。

その気持ちを稔に伝えた悲しいシーンの直後に、『あさイチ』冒頭に登場したYOUは、「申し訳ございません。国民の皆様に謝罪申し上げます」と切り出した。

華丸は「僕らのことを小せい漫才師と思っていませんか」と突っ込む。

「でけい漫才師だと思っています」と返すYOU。

さらに視聴者からの質問に、再び謝罪する。

こうしたやりとりが合計1分40秒ほど続くが、この日の流出率は鈴木アナが泣いた日より低く、その反動で“朝ドラ受け”が終わった後に、より大量の視聴者が離れて行った。

「YOUさんの役が怖すぎてびっくらこいたw」

「YOUに怖い姑役をキャスティングした人はすごいよ」

「悲しい結末を迎えた後の『あさイチ』に生出演して、第一声が『申し訳ありません。国民の皆様に謝罪申し上げます』なの最高。テレビでしか、生放送しかできないことだよな」

ドラマの迫真の演技と打って変わって穏やかな立ち居振る舞い。

しかも役と実際の自分との落差を、ドラマの直後に解説する展開は多くの視聴者を釘付けにした。

注視率でも証明

同様の傾向は、視聴データの注視率でも確認できる。

画面を注視していた人の割合で、両日ともに平日の平均より大幅に高い。しかも鈴木アナが泣いた11月25日は、本編のドラマは平日平均並だったが、“朝ドラ受け”で5~10%ほど高くなった。ドラマそのものより上を行くのは滅多にない現象だ(スイッチメディア関東地区データから)。

16日のYOUが参加した“朝ドラ受け”は、平日平均より10~30%ほど高かった。

しかも2分超も続く名コーナーとなった。ドラマで演じた人が直後に生で登場して解説するしかけが、大きなパワーを持つようだ。

実は安子の母・小しずを演じた西田尚美が登場した11月10日も同様だった。

橘家では算太(濱田岳)が勘当され、安子に家業を継ぐための婿を迎える縁談が持ち上がる。彼女は翌日、大阪の稔に会いに行くが縁談の話は切り出せないままだった。

夜。一人で岡山に戻ったところで泣き始める。

ここで大阪と岡山の距離を暗示するようにオープニング曲が1分20秒ほど流れるが、歌詞が物語に完全にリンクする。そして列車に一緒に乗っていた稔が登場するという想定外の展開をみせた。

その直後に生放送で登場した西田。

第一声が「もう~、見合いなんかさせたから、あんな~」と涙ぐんだ。「安子のことも算太のことも、甘々ですねえ」とおっとりした会話が展開し、流出率が小さくおさえられたが、人々の反応はSNSのつぶやきに如実に表れた。

「朝ドラ受け小しず母さん涙ぐむ、西田尚美さんもいいね!」

「尚美さんの言葉で更にドラマの内容が入ってきてジンときてる」

「半分小しずさん、半分西田さんで我々と一緒になってあの世界に浸ってくれていたのがもう嬉しかったです」

“朝ドラ受け”の進化

以上のように鈴木アナが泣くというハプニングも話題にったが、実はハプニングそのものより、ドラマを見た視聴者の気持ちに句読点を打ってくれる“朝ドラ受け”が求められているのではないだろうか。

流出率の低さと注視率の高さにも表れるが、視聴者のこんな声が実は核心を突いる。

「あさイチのオープニングトークが毎度毎度私の気持ちを代弁してくれる」

「フィクションと現実の見境つかなくなる方多いから、YOUさんからのあのアフターフォローは安心できた」

「YOUさんのお詫びを聞いた在宅勤務な旦那さん『これで少し落ち着いて仕事始められる…。今日この人があさイチに出てくれてよかった…』辛すぎて仕事したくなかったらしい」

ドラマの出演者が生で出演して、舞台裏や役と役者のギャップなどを解説するのは言うに及ばず、『あさイチ』キャスターの3人やゲストがそれぞれの想いを披露することで、視聴者は自らの感情に始末をつけているようだ。

手紙・FAX・メール・SNSなどを介さなくとも、ドラマ直後に出演者の生な感想が飛び出すことで、視聴者はテレビと双方向のやりとりを出来ていると実感し満足しているようだ。

“朝ドラ×朝ドラ受け”というテレビの新境地。

採り上げるテーマ・切り口・発信者のバリエーションなどで、まだまだ進化の余地がありそうだ。想定を超える新発明に期待したい。