秋改編が行われて1か月が経過した。

全局を通じて最も注目されたのは、テレビ朝日の『報道ステーション』。元NHK政治部記者の大越健介が民放ニュースのメインキャスターとなり、番組がどう進化するのかに関心が集まったからだ。

ところが最初の週こそ9月の4週平均より視聴率は高かったが、2週目には失速し1か月間苦戦が続いた。SNSのつぶやきやネット記事でも、評判はあまり良くない。

先月末の衆院選開票速報でも、氏はテレ朝の選挙特番の顔に抜擢された。

しかしNHKと民放5局の中では、視聴率でTBSと最下位を争ってしまった。

大越キャスターが仕切るスタジオについて、視聴データが浮き彫りにした課題を考えてみた。

個人視聴率の動向

大越氏がNHKに入局したのは、『報ステ』の前身『ニュースステーション』が始まった1985年。

以後テレ朝は、『朝まで生テレビ』『サンデープロジェクト』『ビートたけしのTVタックル』など、硬派な番組で視聴率を上げてきた。

「ニュースの商品化」に民放ではじめて成功した局だったのである。

そのテレ朝の看板番組『報ステ』のメインキャスターに氏が就いた。

久米宏や古舘伊知郎が親しみやすく「中学生でもわかるニュース」路線を定着させた枠である。元NHK政治部の記者が仕切るとどんな報道番組になるのか、多くの関心が集まった。

しかも番組はリニューアル早々、ツキにも恵まれた。

放送初日は岸田総理誕生の日。氏本来のフィールドたる国会からリポートする力の入れようだった。

2日目には真鍋淑郎がノーベル物理学賞を受賞するというビッグニュースが飛び込んできた。そして4日目も、番組の途中に関東で震度5強の地震が発生するなど、ジャーナリストの本領を発揮する機会に恵まれた。

第2週も岸田首相の初の国会論戦から始まり、衆議院の解散もあった。

12日にはサッカー日本代表戦の中継から番組になだれ込んだ。13~14日は『相棒』や『ドクターX』の初回放送つながりで、高い視聴率から番組が始まる幸運に恵まれた。

本人も「報ステ後記」で、「つくづく、僕は持っていると思う」と運の良さを認めている。

ところが現実は、そんなに甘くなかった。

ビデオリサーチ関東地区の個人視聴率で番組リニューアル前後を比較すると、結果はあまり芳しくない。9月4週間の月~木平均は7%前後だったが、大越キャスターになって以降で数字が向上するどころか、苦戦気味に推移している。

大越氏が出ない金曜は大きく変化してないが、月~木は明らかに苦戦している。

ネタに恵まれた第1週はまずまずだった

地震に遭遇した7日(木)は1%高い。ところが第2週目は、月~木の平均で1%以上下がってしまった。前番組のおかげで高い数字で番組がスタートしたにも関わらず低下していたのである。

第3週目も平均で1%弱低かった。

視聴者やメディアの反応も芳しくない。

SNSには評価する声もある。

「物腰柔らかくてほんと好き」

「声が疲れた夜にトゲトゲしないでいい感じにニュースみれるわぁ」

「やはり安定感がある」

ただし視聴率が下落したことを裏付けるような厳しい声も少なくない。

「ニュースウオッチ9 の続き見てるみたい」

「鳴り物入りだったから期待して見てんだけど、大したこと言わないな」

「番組としての主張が見えなくなったなあ、と感じる」

失望の声が目立つが、ネットの記事では辛辣なものも散見された。

「大越健介キャスターがつまらない!」

「NHK時代よりおとなしくなっちゃった」

「なんとも物足りない」

没個性を批判する記事である。

「どんよりしていて葬式会場みたい」

「なんか辛気臭い」

「落ち着いていると地味をはき違えてるなぁ」

氏のもつ雰囲気が民放番組に合わないという指摘もあった。

これらを裏付けるように、氏のスタジオ部分に問題があることが視聴データからは浮かび上がる。

選挙特番での課題

まず政治部経験の持ち味が期待された10月31日の選挙特番から分析してみよう。

まずはNHK・日テレ・テレ朝の特番オープニング。

NHKだけが個人視聴率を7%台へと一挙に3%急伸させた。災害・大事件・選挙などビッグニュースに強い同局の面目躍如といったところか。

ただしNHKは8時10分台で失速する。

拙稿『開票速報はインタビュー、テンポ、そして鮮度が命!?』で詳述したが、出口調査から自民党苦戦と伝えながら、甘利明自民党幹事長(当時)へのインタビューで視聴者が知りたいことを全く突っ込まなかった点が致命的だった。

これに対して日テレは、スタジオもVTRもテンポが良く、CMで視聴率が下がる以外は、番組本編は健闘していた。

これら2局の明暗は、スイッチメディアが関東地区で測定する注視率でも裏付けられる。注視率とは、視聴者の中でテレビに顔が正面を向いていると判定された人の比率。番組やCMが人々をどれだけ惹きつけていたかの一つの目安となる。

これによると、NHKは甘利氏の部分で注視率を急落させた。

聞くべきことを聞かない番組に、失望した視聴者が少なくないとがわかる。対する日テレは、最初のCMになるまでの20分ほど、注視率は右肩上がりとなっていた。視聴者のニーズに合致していたと言えよう。

そして大越キャスターの特番。

前番組の数字もパッとしなかったが、特番になるところで視聴率を上げたわけでもない。鳴り物入りだった割に、人々の期待が大きくなかったことが露呈した。少なくともNHKに視聴者が吸い寄せられる流れを止めることは出来なかったのである。

最大の問題は特番でのスタジオ部分。

最初のCMは8時40分台まで出てこないため、視聴率こそゆっくり右肩上がりとなっていた。ただし注視率データでみると、CMでもないのに急落するポイントが3か所ある。

最初は大越氏と大下容子氏が2人で仕切ったオープニング。2分間で半減以下に急落している(①部分)。

次がスタジオで「BREAKING」と物々しく演出しながら、肝心の新着ニュースがでなかった瞬間(②)。

3番目は、同局が「“野党一本化”の闘い」と題したコーナー(③)。

良く言えば落ち着いた安定感あるオープニングだが(①)、2人のキャスターでは視聴者を惹きつける魅力に欠けることが証明されてしまった。

次に仕掛けが機能しなかった②では、注視率は一挙に12%台まで下がった。この数字は40分台に出るCM部分と同レベルで、番組中では最低水準だった。グダグダな展開は、速報を売りにする報道特番では致命的だ。

③では出口調査の結果から激戦となっている20選挙区を一挙に紹介した。

ところが取り上げた候補者の知名度や関心度が今一つ。大越キャスターは政治が本来のフィールドのはずだが、その切り口は視聴者の感覚とはズレていたようだ。

『報ステ』もスタジオが課題

『報ステ』でも選挙特番と似た現象が見られる。

例えば第1週の番組前半は、明らかにスタジオで注視率が下がっている。例えば10月4日の初回は、初登場で興味を持った視聴者が多かった。

オープニングのスタジオや、氏が自らカメラを回した国会からのリポートなどは、注視率30%台と好成績。ところが大越氏とテレ朝の政治部官邸キャップとのやりとりのスタジオは、注視率の平均が24.3%と10%ほど低くなった。

リニューアル3日目は、コロナの制限緩和のニュースから入った。

しかしVTRリポート後のスタジオで、注視率は13.1%と急落した。政府の分科会で多くの専門家の意見を取材してきた経済部記者とのやりとりが中心だった。

そして4日目は、「経済安全保障」の問題にクローズアップした。

ここでも大学教授とのスタジオがネックだった。平均注視率17.1%、最後は10%ほどまで数字が下がってしまった。

これら3回には共通点がある。

政治部記者・経済部記者・大学教授と相手は異なるが、基本的にやりとりの内容は解説に徹しおり、政権や政策をチェックする姿勢はない。また身内の記者、あるいは取材で協力を得た大学教授とのやりとりは、ストーリーがカッチリと固まっており、意外性がない。

「大したこと言わない」

「番組としての主張が見えなくなった」

「なんとも物足りない」

「つまらない」

こうした批判は、砕けた表現や演出を多用し、個人的な意見を散りばめた久米宏や古舘伊知郎時代と様変わりしたことによる。

また富川悠太局・小木逸平など局アナがメインキャスターを務めた2016年以降も、コメンテイターによる鋭いツッコミがあった。こうした要素が一掃されたことで、スリルやわくわく感がなくなった点が痛い。

傾向はリニューアル2週目も変わらなかった。

岸田内閣初の国会論戦が始まった10月11日も、政治部と経済部の記者が登場したスタジオが16.2%とブレーキになった。

コロナのブースター接種問題を扱った13日も、接種を推奨する医師とのやりとりのスタジオが13.0%と急落した。政府広報の匂いが気になる点といえよう。

そして極めつけは岸田首相が生出演した12日。

首相へのインタビュー部分は、1回目が平均注視率20.2%、2回目16.2%、3回目15.8%とVTRリポート部分より低く、しかも右肩下がりの軌跡を描いた。

SNS上では賛否が分かれた。まずは大越インタビューを誉める声。

「岸田総理と大越キャスター 見ごたえがあります」

「やっぱり大越さんはきっちり言いますねー さすが」

「政権への追求姿勢が徹底していて気持ちいい」

「批判だけでなく建設的な話を向けていたのがよかったです」

ただし内容が今一つという厳しい声も、評価する声と同じくらいあった。

「今日はまだ本領発揮とはいかなかった!?」

「遠慮しないでもっと突っ込んでほしかった」

「大越さん、虚しくありませんか? (中略)なんだか、とても寒々しく感じましたー」

「個人的に聞きたかった事をあまり聞いてくれ無かったな」

スイッチメディアが調べる関東約6000人の個人視聴率では、インタビューの間に1割ほど数字が下がっていた。岸田首相の答え方の問題でもあるが、明快なやりとりになっていないことへの不満だろう

「同じところをグルグル回して中身が薄い」

「もっともらしいこと言っていたけど、具体的な政策や何をするかとか、全く言及しなかった」

「本当につまんない。ビジョンがない。のらりくらりと抽象的な話ばかり」

「え、わかんなかったよ?大越さん、岸田さんの発言、何がわかったの?」

大越のインタビューは話題を変えているだけで、納得できない部分で二の矢三の矢を繰り出すことはない。

岸田首相発言の“具体性のなさ”“不十分な部分”を指摘しなければ、視聴者が知りたいことは置き去りにされ、徒に時間を空費させるだけだ。視聴率も注視率も徐々に下がった所以である。

スタジオでは小木逸平・渡辺瑠海の局アナ2人も質問した。

ところが経済やコロナ問題の専門性から出る鋭い質問にはなっていない。そもそも大越『報ステ』は、政治部記者・経済部記者など身内が登場することが多いが、これでは八百長と言わないまでも予め用意された展開通りでハプニングも想定外の発言も飛び出さない。

「破調に真実が表れる」のが世の常で、テレビはそれを映し出すから面白いのだが、残念ながらそこに踏み出さなければ「つまらない」と言われてしまうのは必然だ。

目先は変わるが深まらない大越『報ステ』。

このままでは、テレ朝が切り拓いた「ニュースの商品化」がとん挫しかねない。これまでに築いてきた「分かりやすさ」「面白さ」に、大越起用で「通も納得する深さ」を追求しようとしたのだろうが、そのためには事の本質に切り込む姿勢は不可欠だ。

これなしで形ばかり整えても、「NHKみたい」とみられるだけだ。

NHK選挙特番が甘利インタビューで失速したように、視聴者は離れていく一方となろう。

リニューアル1か月で見えて来た数々の課題を乗り越え、テレ朝らしい新しい『報ステ』を見せて欲しいと願うばかりだ。