事前の苦戦予想を覆し、自民党が単独で絶対安定多数を確保した衆院選2021。

ただし開票速報を伝えた各局の放送上の闘いは、各党の死闘以上に混戦模様となった。

関東地区2000世帯5000人のテレビ視聴動向を調べるスイッチメディアによれば、31日24時までの4時間の個人視聴率では、首位争いは日本テレビとNHK。2017年の前回選挙でトップだったテレビ東京は、今回はフジテレビとの3位争いに後退した。そしてMCで話題を集めたテレビ朝日とTBSは、残念ながら後塵を拝する格好となった。

各局の明暗をわけた要因の筆頭は、当選者や政党の重鎮に対するインタビュー。

特に小選挙区で落選した甘利明自民党幹事長へのインタビューは、象徴的なコーナーとなった。そして次に各局の伝え方のテンポと鮮度が大きく影響したようだ。

視聴データに基づきポイントを整理してみた。

前回選挙との違い

2017年の衆院選挙では、フジだけがプロボクシングの中継を入れてきた。

その「村田諒太vsエンダム戦」という逆張りで、同局は21時過ぎまで個人視聴率でトップを快走した。ただしタイトルマッチ終了後は、一挙に数字を落としていた。

代わりに首位に躍り出たのは、テレ東の『TXN選挙SP 池上彰の総選挙ライブ』。

池上無双の異名を持つ池上彰の、政治家への容赦のない質問や指摘が支持されての数字だった。

「相変わらず池上さんの切れ味が良かった」

「突っ込んだ質問が面白い」

「わかりやすい」

「池上さんの突込みで、政治家の質が少し垣間見えるので飽きずにみられる」

以上は「こんなに要らない!?開票特番~衆院選テレビ報道を振り返る(上)~」から

そして世帯視聴率で高いNHKは、個人では日テレと接戦となった。

50歳以上の中高年の数が多いなどサンプルの違いで生まれる差のようだが、両局の熾烈な争いは今回の開票速報でも同じだった。

そしてテレ朝とTBSが最下位争いとなった。

プロボクシング中継の終了後は、フジと三つ巴だったが、今回の開票速報も似た構図だった。

開始早々に失速したNHK

では今回のNHKと日テレによる首位争いからみてみよう。

前番組がバラエティだった日テレは、開票速報のスタートまでに2%以上数字を落とし、ドラマから3%以上を伸ばして始まったNHKに並ばれた。

ところが20時10分過ぎに、NHKは急落する。

ビジュアルなセットとCGで華やかに番組は始まっていた。さらに議席予測で「与党過半数確実」「自民単独過半数ギリギリの情勢」「立民議席増の勢い」「維新3倍以上見通し」など、大勢の判明予測もアイキャッチだったにもかかわらずだ。

敗因は最初の10分ほどで動きが停滞したからだ。

視聴者からすると、一通り概要がわかった時点でテンポが落ち、他のチャンネルに移ったり、スイッチを切ってテレビから離れたりした人が少なくなかったようだ。

加えて今回の開票速報での事実上の主役となった、甘利明自民党幹事長へのインタビューが致命的だった。

番組開始と同時に苦戦と報じられた同幹事長に、民放各局は責任など鋭く突っ込んだ。ところがNHKだけ、立憲民主党の長妻昭副代表と抱き合わせのインタビューで、接戦と伝えながらその要因となった6年前の疑惑について一言も聞かない。

スタジオの政治部記者も全く機能しない。

まず質問への政治家の回答に対して、二の矢三の矢を放たない。視聴者が聞きたい答えを一言も求めない腰の引け方だった。

しかもインタビュー後の解説も、「発言のポイント」として繰り返すのみ。聞いていればわかる内容をオウム返しにしたのみで、これでは専門記者の存在感はゼロと言わざるを得ない。

結局この7分ほどのコーナーで、個人視聴率は1%ほど下落した。

オープニングから情勢概要まで好調だっただけに、視聴者の失望は小さくなかったと思われる。

対照的な日テレ

NHKと対照的なのが日テレだ。

グラフでわかる通り、民放だけに22時までに10回CMが入り、その度に数字を落としていた。ところがCMが1回もないNHKより右肩下がりの度合いは明らかに緩やかだ。

まず開票速報が始まって最初のCMまでの約27分間、8%近くと高い数字を保ち続けた。

この間に紹介した話題の選挙区は35か所以上。1か所40秒前後という絶妙なテンポで、視聴者はザッピングする暇がない。取り上げた候補も与野党のバランスに配慮し、数字だけでなく実感としてどんな情勢なのかが体得できる作りになっていた。

CMでの下落のリカバリーも巧妙だった。

最初のCM後は、クラブ飲みで批判を浴びた“銀座3兄弟”の選挙戦。他に不祥事からの再起をかける候補者ドキュメントなどで、下落分の大半をしっかり挽回していた。

結局こうした最新の当落情報で1時間以上を構成し、数字はほとんど失わなかった。テンポとバランスの勝利と言えよう。

そして圧巻はインタビュー。

最初は小泉進次郎前環境大臣。MC3人がそれぞれの関心から質問し、4分間まったく数字を失わなかった。しかも今回の選挙の主人公・甘利幹事長の部分では、5分間で0.2%押し上げている。

「敗北したら幹事長は辞める?」

「(総裁と決めるというが)ご自身の気持ちは?」

「(自民党の苦戦は)ご自身の政治と金の問題が影響した?」

「弁護士の調査報告書を公表すれば良いのでは?」と有働由美子キャスターは何度も踏み込んだ。さらに小栗泉解説委員による「比例での復活当選でも幹事長を続ける資格はある?」の質問に対するフニャフニャした回答には、「甘利さんほどのベテランは、まずご自身で決断すべきでは」と容赦ない。

それでも甘利幹事長が「一番最初はカメラの前ではなく、総裁に離すのでは」と逃げると、今度は有働キャスターが「カメラの向こう側には国民がいるわけですが・・・」と強烈な皮肉を一発。

甘利幹事長の内向き姿勢をスマートに批判してみせた。

他の民放の課題

日テレの勝因は、女性2人と櫻井翔の役割分担できちんと核心に迫るという新鮮さだろう。

これに対して、テレ東・池上彰は一定の鋭さを保っていたものの、既視感もぬぐえない。前回より数字を落としたが3位をキープというあたり、一定の固定ファンを獲得している様子が見て取れる。

フジはゲストの橋下徹の存在感が大きい。

甘利幹事長に金銭問題の調査報告書の公開を厳しく迫ったのは迫力があった。ただし率の浮き沈みが大きいように、視聴者の関心にどこまで寄り添っていたのか、バランス感覚で日テレとの差があったと見えた。

問題は前回同様に最下位争いとなったテレ朝とTBS。

TBSは「太田光が政治家に直球質問」を売り物にしたが、感情の噴出をとり急ぐあまりインタビューがチグハグとなった嫌いがある。選挙報道しての核心には迫れていない印象だ。

テレ朝は『報道ステーション』でキャスターに起用した大越健介元NHK記者がMCを務めた。

20時40分頃まで倍増近くまで数字を上げる健闘ぶりをみせたが、その後はCMの度に下落し挽回できずにズルズル後退していった。

整然と伝えて安定感はあるが、弾ける感じはしない。NHKに次いで「まじめ度」が高く、NHKとの差別化がない。大越キャスターを見てみようかという人も、長くはとどまらず視聴率的に損をした印象だ。

以上が各局冒頭2時間の分析だ。

全体を見渡すと、NHKはかつてのように視聴率で圧倒的な存在ではなくなっている。「災害と選挙はNHK報道の二枚看板と公共放送の存在理由の柱だったが、今やその面影はない」とNHK報道のOBは嘆いていたが、視聴者の知りたいことを的確に聞き出すインタビューをしないのは決定的だろう。しかも時代は、テンポやバランスに配慮した選挙報道を求めている。

各局はその辺りを究めないと、視聴者からの支持は得られないと心すべきだろう。