『鬼滅の刃』無限列車編(全7話)の快進撃が始まった。

その初回で驚いたのは、番組途中に入るCMが他の番組よりよく見られていること。

番組自体は世帯視聴率10.0%で、同日夜9時に放送したTBS『日本沈没』の15.8%に後れをとった(ビデオリサーチ関東地区)。ところが視聴者がCMを集中して見る度合いで比べると、『鬼滅の刃』の方が大きく上まわった。

テレビをリアルタイムで見る人は減っている。

結果としてテレビ局は、広告収入の減少に苦しんでいる。ただしCMは露出の仕方を工夫すると、大きな効果を出すことがある。そのヒントが同アニメにはある。

『日本沈没』vs『鬼滅の刃』

関東地区2000世帯5000人のテレビ視聴を測定しているスイッチメディアの測定によれば、10月10日に放送されたTBS『日本沈没-希望のひと-』の個人視聴率は8.6%、フジテレビ『鬼滅の刃』は6.3%だった。

放送スタート時間が夜9時と夜11時15分を考慮すると、『鬼滅の刃』は大健闘だったと言えよう。

C層(男女4~12歳)3.8%・T層(男女13~19歳)4.6%だったが、先月に夜7時から放送された5夜一挙放送では、C層が4倍弱、T層でも2倍弱あった。さらに子どもと一緒に見た親が多く、2層(男女35~49歳)も1.5倍を超えていた。

もし深夜でなく7時に編成されていたら、『鬼滅の刃』の個人視聴率全体は『日本沈没』を上回っていたかも知れない。

年層別の他に、特定層別個人視聴率も興味深い。

「ドラマ好き」では『日本沈没』、「アニメ好き」で『鬼滅の刃』が上回るのは当然だ。ところが「経済・ビジネスに興味あり」と答えた男女20~64歳では、9.8%対8.0%で個人全体より『鬼滅の刃』が相対的に高くなる。第一線で働く人々にも、同アニメに仕事のヒントを探ろうとしているのだろうか。

さて最も注目すべきは、テレビCMをめぐる視聴者の反応。

「CMで商品を認知する」ことがよくある層の個人視聴率は、『日本沈没』の66%に留まったが、「半年以内にCMがきっかけで実際にその商品を購入した」ことのある層では、『鬼滅の刃』に関しては74%と数字が上昇する。

子どもや十代が多いこともあるが、スポンサーからみれば『鬼滅の刃』の方が広告効果を期待できる番組と位置付けられる。

テレビCMの注視度

視聴者が具体的にどう反応しているかを、最新の視聴データで分析してみよう。

スイッチメディアは視聴者の顔の向きから、番組の各場面がどれだけ注視されているかを1秒単位で測定している(関東地区でサンプル900人の「テレビ注視データ」)。

それによると、日曜夜9時台は夜11時台よりテレビの注視度が高い。

それでも『日本沈没』は全ての裏番組平均と同じ程度で、30%台後半だった。ところが『鬼滅の刃』は、裏番組平均よりかなり高く50%弱に達していた。

しかも『日本沈没』の前半は、裏番組平均より低い。

ストーリーが佳境に入る後半でようやく上昇していた。一方『鬼滅の刃』は、序盤から50%を超えることもあり、終盤まで安定した高さを保ち続けた。

もう1点、気になることがある。

番組途中でCMになった際、『日本沈没』の注視度は大きく落ちる。ところが『鬼滅の刃』では、アニメ本編より少し下がる程度。特に番組が始まってほどなく流されたCMでは、番組提供社の紹介で一旦注視度が下がったが、CMになったら明らかに急上昇した。

その1回目のCMを、両番組で比べて見よう。

両番組は提供社コールまでで、共に注視度を大きく落としていた。

ところがCMが始まると、グラフは対照的な動きを示す。『日本沈没』では2分間に4本流れた30秒CMのうち、最初の3本はみな数値を下げたが、最後の1本のみ少し右肩上がりとなった。本編がまもなく始まることの影響だろうか。

一方『鬼滅の刃』では、明らかにCMで注視度が上昇した。

最初はバンダイの15秒CM2本だったが、注視度は24%から37%まで1.5倍に急伸した。次がauによるケータイのCMだったが、前のCMで上昇した数値をほぼ維持した。

実は両CMとも番組と連動型だ。

特にバンダイはアニメをそのまま使って制作している。人気のキャラクターがテンポよく登場し、子どもや若者を魅了していたようだ。

見られるCMへの挑戦

『鬼滅の刃』CM2で、注視率の推移を詳しく見てみよう。

CM2に入る直前は、注視率が40%台後半へと盛り上がった。ところがCMへのブリッジ(5秒)で、数字は6%ほど下落した。それでもCMが始まった後は、大きくは落ちていない。アニプレックスのゲームソフトのCM15秒が2本流れたが、アニメのカットが次々と流れ、注目したままの視聴者が少なくなかった。

次はバンダイの日輪刀。

これも『鬼滅の刃』関連グッズのCM30秒で、商品と検索の仕方紹介部分を除けば率はほぼ横ばいだった。やはり番組連動型CMは強い。

ところが3本目のエネオスCM30秒では、後半で10%以上も数字を落とした。

エネゴリくんのアニメ部分はしばらく健闘したが、やはり後半で視聴者の視線が外れている。番組との関連がない点が痛かったようだ。

テレビCMへの視聴者の反応は、録画再生視聴の際に顕著に出る。

ドラマ・映画・アニメなどの物語系番組では、CMスキップが7割前後に達する。視聴者はCMを基本的に邪魔な存在と見ていることがわかる。

ところがリアルタイムで番組を視聴している際には、視聴率はそこまで下がらない。

『鬼滅の刃』CM2の部分で言えば、個人視聴率6.6%が6.5%に下がった程度で、チャンネルを替えたりテレビを消したりした人の比率は少ない。

それでも注視率でみると、『日本沈没』ではCMで半減している。

トイレなど所用でテレビから離れたり、そのまま座っていてもスマホや雑誌などに視線を映したりするケースが多い。要は意識がCMから遠ざかっているのである。

ところが『鬼滅の刃』のように番組連動CMだと、注視度は高いまま推移する。

いわばアニメのカットなどが撒き餌となって、商品の認知を高められるのである。特にバンダイのキャラクターグッズや、プレステの関連ゲームだと、欲しいと思う子供や若者も少なくない。実際に売上は伸びているだろう。

こうした番組連動CMは、10年ほど前から増えている。

最終回の世帯視聴率が20%を超え社会現象にもなった『逃げるは恥だが役に立つ』(2016年秋)では、ドラマの登場人物がCMになってもそのまま登場し、自動車の広告塔になっていた。この頃からタイム広告主のCMが、番組連動型で視聴し続けてもらえる工夫がさまざま凝らされるようになった。

スポットCMでも変化が起きている。

本来はどの時間帯で流されるか指定できない広告だが、大手代理店は番組の世界観に近いCMを番組内で流せるような売り方を始めている。

ここに視聴者の注視度が測定できるようになってきた。

1秒単位の測定なので、CMのクリエーティブを検証することも出来る。さらに番組本編との連動具合も数値化できるようになる。

広告効果のPDCAをより正確に回せるので、CMは一段と進化することになろう。

インターネット広告に比べ、劣勢が続いたテレビCM。

2019年にはじめて逆転され、20年は7000億円弱の差をつけられた。しかしテレビ陣営も手をこまねいてばかりはいられない。

視聴データなどを動員することで、テレビ広告費がどう挽回するのか、大いに注目したい。