『鬼滅の刃』無限列車編(全7話)がいよいよ始まる。

9月25日の放送を見る限り、同作の映像とセリフは視聴者をガッチリ捉まえており、新たなストーリーやカットを加えた新シリーズも大いに期待できる。

元となった劇場版の放送が、どう視聴者を魅了していたのかを視聴データで分析することで、新たな放送のヒットを予見してみたい。

映像とセリフの魅力

ドラマやアニメ番組は、視聴データでどう見られていたかを分析できる。

例えば視聴者は途中で見るのをやめ、チャンネルを替えたりテレビを消したりすることがある。これらは基本的に、「番組が面白くない」「これ以上見たくない」と“ダメだし”されたと受け止めるべきだろう。

インテージ「Media Gauge」では、関東地区104万台のスマートテレビから、視聴ログで流出率を測定している。

世帯視聴率20%前後の番組では、番組がどんなに佳境であっても、15秒ごとに500~1000台ほどのテレビは「流出」を発生させている(関東地区)。CMの際には、その10倍以上ということも珍しくない。

その意味では、9月25日放送の土曜プレミアム・劇場版『鬼滅の刃』無限列車編(個人視聴率15.7%・世帯視聴率21.4%)は、流出率が極めて低かった。

人々の視聴状況が安定する番組開始3分からの10分では、流出率平均は0.055%だった。これは全10話の平均世帯視聴率が24.7%だった日曜劇場『半沢直樹』と比べても遜色ない。同シリーズの序盤3話は0.081%・0. 064%・0. 067%と『鬼滅の刃』より流出が多かった。そして中盤で互角、最終回で32.7%となった終盤でようやく流出が少なくなっていた。

もちろん他のドラマでは、流出率はもっと高くなる。

一般のドラマと比べると、『鬼滅の刃』は途中でやめる人が少ない作品だったのである。

番組が人々をどう魅了していたかを分析する視聴データは他にもある。

スイッチメディアが今月上旬にリリースした「テレビ注視データ」だ。テレビ視聴者の顔の向きを判定することで、番組内容への関心の高さを測定する手法で、関東エリア約900人で測定している。

「機械学習による顔認識」「リモコンログ」「音声マッチング」の3方式を組み合わせることで、精度を高めているという。

これで『鬼滅の刃』を測定すると、CMの間は20~30%に低迷するが、アニメ放送中は40~50%台で推移した。同放送の裏番組平均と比べると、10%ほど高かったという。

無限列車編の放送が、多くの人を魅了したことがわかる。

魘夢との対決

両データを使って、具体的に各シーンを分析してみよう。

炭治郎が「下弦の壱」眠り鬼・魘夢に眠らされて以降、注視含有率(見ている人の中の画面を注視している率)が高くなり始める。それまでの30%台が40%台に乗ってきた。そして術を破るため、眠りの中で自分の首を斬ると覚醒できると見破った瞬間に、注視含有率は45%を超え50%に迫るようになった。

さらに炭治郎が魘夢と直接対峙し、闘いが始まると注視含有率は50%を超えるようになった。

しかも魘夢は家族が惨殺された時の夢を炭治郎に見せる。皆を助けられなかった罪悪感に苦しめられる炭治郎だが、持ち前の胆力の強さから何とか覚醒する。

そして家族はそんな恨み言を自分に言わないと信じる炭治郎、「俺の家族を侮辱するな」と叫びつつ魘夢の首を斬った。その瞬間の注視含有率50%・流出率0.3%台、多くの視聴者が固唾を呑んで見守った。

魘夢を倒すため禰豆子・善逸・煉獄杏寿郎が乗客を守る。

視聴データ的には、禰豆子が闘い始めると注視含有率が上がり始める。そして彼女のピンチを善逸が救うと、数字は50%を超えた。さらに煉獄杏寿郎が登場すると注視含有率は50%を超え、流出率も0.02%台と極端に低くなった。

視聴者が誰に期待を寄せているか、視聴データはビビッドに反応したのである。

そして炭治郎と伊之助が連携して魘夢に立ち向かうことで、「無限列車編」前半は山場を迎えた。

両データとも好記録を続け、そして炭治郎が「ヒノカミ神楽」で魘夢を仕留めた瞬間は、流出率が0.01%台と最高記録を叩き出した。しかも1分半に及ぶ0.02%以下もここまでの最高記録だ。

家族への思いを引きずりながら、自分の弱さを克服しての勝利は、見る者の心も大きく揺さぶったようだ。

猗窩座との対決

無限列車編の後半は、上弦の参・猗窩座との対決だ。

魘夢を「ヒノカミ神楽」で倒した炭治郎は動けない。襲ってきた猗窩座とは、「炎の呼吸」を使用する炎柱・煉獄杏寿郎が対決した。

対決が始まると流出率は下がり、注視含有率は上昇した。

二人の対決で興味深いのは、単なる力の闘いが展開するのではなく、猗窩座の強さへの尊崇の念と、杏寿郎の強さに対する信念の闘いとなっている点だ。

猗窩座は敵である杏寿郎を、殺すより鬼となって強さを究める道を勧める。

ところが杏寿郎は断固断る。実は前提に“強さは弱き者を助けるため”という母の教えがあった。まさにノブレス・オブリージュの有無が、鬼と人間を分ける一線を示した名場面と言えよう。

この対決で、両データは興味深い傾向を示した。

激しい力の対決シーンで注視含有率は高くなり、闘いが一服すると数字は落ち着く傾向だ。ところが派手な場面でなくとも、例えば杏寿郎の安否が問われる緊迫シーンや、杏寿郎の信念の由来となった母との回想シーンでも、流出率は低いままだった。

そして映像とセリフなどの意味合いが重なる名場面では、両データがシンクロするように好成績となる。どうやら映像と意味合いの順列組合せで、番組は視聴者を長く釘付けにできることを、この作品は証明していたようだ。

番組の終盤の秀逸さ

番組の終盤は、まさにそれを声高に語っていた。

死んでいく杏寿郎のシーンは、映像的には大人しい。注視含有率は30%台から40%台前半と高いわけではない。ところが流出率は0.02%台が続き、杏寿郎が少年の笑顔を見せた際には0.01%台が出た。

杏寿郎の死を悼む炭治郎たち。

やはり注視含有率は40%台前半だったが、流出率は0.02%台が続いた。そして鎹鴉(かすがいがらす)が杏寿郎の死を伝え、他の柱たちのリアクションが続くシーンも決して派手な映像ではない。ところが流出率は0.01%台が1分15秒続き、番組全体の最高記録となった。しかも注視含有率も50%に迫る高記録で、両データが整う名場面になったのである。

さらにもう1つ、驚くシーンがエンドロールとCMの後に待っていた。

2019年に立志編で始まった同作は、20年に無限列車編となり、そして21年末にかけて遊郭編に向かうことが伝えられた。その3作をつなぐために無限列車編シリーズが、新たなストーリーやカットを加えて新シリーズとして放送されるというのである。

この一連は、言ってしまえば番組宣伝だ。

ところが注視含有率も流出率もあり得ないほど良い数字となった。注視含有率に至っては、煉獄杏寿郎などがフラッシュバックでテンポよく登場する15秒間が54.6%と番組全体の最高記録だった。

これほど効果的な番宣を、筆者はかつて見たことがない。

フジテレビのアイデア、恐るべしだ。

こういう智恵と手間暇をかけて放送される新シリーズ。予想を裏切るどんなサプライズが登場するか、恐らく多くの視聴者がそう思って番組に注目するだろう。

期待したい。