『鬼滅の刃』無限列車編の地上波初放送が、世帯視聴率で20%を超えた。

去年10月の劇場版公開に合わせた3話の放送は、平均が15.5%(ビデオリサーチ関東地区調べ)。無限列車編までを一挙に放送した今月の5話分は、14.2%でいずれも好調だった。

ところが25日放送の無限列車編は、これまでの平均を一挙に5%以上押し上げ、世帯平均を20%台の大台に乗せた。

夜9時から11時40分までの放送だったため、これまで最もよく見ていたC層(男女4~12歳)はあまり伸びなかったが、他に倍増した世代があり、結果として個人も世帯も3割以上率を押し上げた。

視聴者層はどう変わったのか。成功の要因は何だったのかを考える。

裏局をぶっちぎり

フジテレビは放送の前番組として、『超逆境クイズバトル!!99人の壁』アニメSPを編成した。

「これさえみれば鬼滅の刃の魅力がわかる」と謳った番組で、横並びで個人視聴率トップだったが、他局との差は大きくはなかった(スイッチ・メディア・ラボ=SMLの関東地区視聴率)。

ところが夜9時に本編が始まると、10%近く爆上げした。

『鬼滅の刃』の本領発揮で、その後も15%超で推移し平均世帯視聴率は21.9%となった。ただしこの数字は関東地区2000世帯5000人をサンプルとするSMLのデータで、関東地区2700世帯で調査するビデオリサーチ(VR)の発表はまもなくだ。

視聴率は測定方法やサンプルが異なれば、当然数字も揺れる。

では両社の間には、どの程度の差が生ずるのだろうか。無限列車編までの8話を比べると以下の通りとなる。SMLが先、VRは( )で併記した。

2020年

10/10 13.5%(16.7%)

10/17 13.6%(15.4%)

12/20 13.8%(14.4%)

2021年

9/11 12.9%(13.3%)

9/12 14.1%(13.4%)

9/18 14.5%(14.4%)

9/19 14.2%(14.7%)

9/23 14.9%(15.0%)

2020年の3話は、VRの方が高く出た。

ところが21年の5話については、9月12日の放送のみSMLの方が0.7%高かったが、他4話はVRと大きくは変わらない。

この傾向から推定すると、今回のSMLで21.9%となった無限列車編は、VRでも22%前後となる可能性が高い。

夜10時に始まったTBS『新・情報7daysニュースキャスター』の冒頭で、安住紳一郎氏は「今日は裏番組が・・・」と『鬼滅の刃』に言及した。

普段のこの時間帯では横並びトップとなることの多い同番組だが、この日ばかりは半分の数字に留まった。『鬼滅の刃』は圧勝だったのである。

若年層を魅了

関東地区で約71万台のスマートテレビの視聴状況を調べる東芝視聴データTimeOn Analyticsによれば、若年層が視聴の中心だったことがわかる。

4層(男女65歳以上)は4%ほどに留まり、3層(男女50~64歳)も12%ほど。ところがT層(男女13~19歳)で15%を超え、M2(男性35~49歳)で16%強、1層(男女20~34歳)とF2(女性35~49歳)はいずれも17%台となった。

しかも波形の傾向が年齢層で少し異なる。

4層はゆるやかな右肩下がりとなった。22時以降に睡魔に勝てなかった高齢者がいたようだ。また3層はほぼ横ばいとなったが、若年層は明らかに右肩上がりを描いた。

頻繁にCMが入った10時台半ばまで、1層から2層は出入りの激しい展開となった。

さらにT層に至っては、約40分間で右肩下がりが続いてしまった。「CM多すぎ」がトレンド入りしたほどだったのである。

「CM多過ぎて各駅停車言われてるの草、あたぼうよ!」

「全集中できないぞ」

「全然ストーリーが入って来ない」

「“無限CM編”になってる」

それでも煉獄杏寿郎と上弦の参・猗窩座との死闘の間はCMが挿入されず、視聴率は右肩上がりに転じた。特にT層は2%近い急伸を見せた。

「23分間はCMなし、ノンストップで放送」

「(二人の)シーンをCMで挟まないようにするための工夫が見えて区間急行とか言われてた」

「真剣勝負カットしなかったのは褒めてあげる」

視聴者層の変化

実は今回の「無限列車編」は昨秋以降の8話の放送とは視聴者層が大きく変わっていた。

もともと共通していたのは、4層(65歳以上)の高齢者にはあまり見られていない点。そしてC層の視聴率が一番高く、一緒に見た母親世代(F2)や父親世代(M2)が突出していた。

ところが「無限列車編」では、C層の上昇はさほど大きくなかった。

代わりにT層と1層が大きく伸びた。SMLのデータによれば、2.3倍となったFTが一番伸び、2倍弱のMTと1層が続いた。

つまり10~20代が視聴の中心だったのである。

として2層と3層も1.5倍ほどの伸びを見せた。

昨秋の3話や今月の5話は、C層の子供と一緒に見た親が中心だったが、今回は子供の年齢層が上がった分、親の年齢層も少し上がっていたようだ。

「少年ジャンプ」に連載された漫画が原作だが、3層(50~64歳)の視聴率が1層より高いアニメとは珍しい現象と言えよう。

視聴者層変化の3パターン

SMLのデータでは、より詳細な層の変化が浮き彫りになる。

大別すると3パターンある。まず興味深いのは未就学児。昨秋の3話から今月の5話で視聴率は1.4倍ほどとなった。ところが「無限列車編」では失速し、1.2倍を切ってしまった。

夜9時以降の放送が多かった昨秋の3話から、すべて夜7時からの放送となった今月の5話では、未就学児が最も増えていた。ところが再び夜9時スタートとなり、最後まで見続けられなかった幼児が少なくなかったようだ。

ただし未就学児の代わりに小学生が躍進した。

これによりC層の数字は落ちることなく、逆に3%ほど上昇した。さらに10~20代が急伸したために、親子世代あるいは三世代同居する人たちの視聴も伸びた。

随伴視聴が多いため、世帯視聴率以上に個人視聴率が上昇する理想的なパターンとなったのである。

その中核を成したのが、「アニメ好き」「映画・ドラマ好き」層。

実はこの層は、再放送が中心だった今月5話ではあまり反応しなかった。ところが地上波初放送となった「無限列車編」で1.7倍と最も伸びた層だったのである。

もう一つ興味深いのは、75歳以上が右肩下がりとなった点。

夜7時からの放送だった今月の5本で2割ほど減り、地上波初放送だったが今回さらに下がった。夜9時スタートが堪えたという側面もあろうが、基本的に『鬼滅の刃』が守備範囲とならない層と言えよう。

結果としてコア層(13~49歳)が1.8倍近くと最高の結果となった。

実は各テレビ局は今、スポンサーのニーズを反映すべく、この層の視聴率を最も気にしている。その意味では子供から親世代までを虜にする同アニメは、世帯や個人よりコア層の視聴率が高く出る理想的な番組なのである。

新作で急伸するメカニズム

最後に昨秋3話、今月5話を並べたフジテレビの編成戦略を挙げておかなければならない。

もともと同アニメは、原作コミックスの第1巻から第7巻冒頭までが映像化され、19年にTOKYO MXほか全20局で放送されていた。

この総集編などでフジが昨秋3話、再放送も含め今月5話を放送した。

今回の「無限列車編」は、この流れを受けての地上波初放送だった。「アニメ好き」「映画・ドラマ好き」「ホンモノ志向」の10~20代を中心に、幼児から親世代の40~50代を巻き込んだ結果、テレビ視聴の最大層である高齢者に見られなくとも、世帯視聴率20%超という大記録につながったのである。

しかもコア視聴率16.9%は、最終回の世帯視聴率が20%に迫ったTBS『TOKYO MER~走る緊急救命室~』6.1%の約2.8倍という快記録だ。

そのメカニズムは、東芝視聴データTimeOn Analyticsで一部がトレースできる。

昨秋の3話から今月5話のうちの最初の2話までで、同アニメは測定対象テレビの38%で見られていた。初回以降も新規の視聴者が多く、結果として1回でも見た人が4割ほどまで広がったのである。

同アニメの話題喚起力が浮き彫りになる。

ところが再放送が多く、途中で脱落した人も少なくなかった。

それでも完全に離れたわけではなく、回によっては戻って来る人が多かった。結果として見たり見なかったりという層は、今月の2話までで2割いた。5話までのデータが出てくると、その数字はもっと上がるだろう。

これが「無限列車編」地上波初放送をリアルタイムで見る人の分母となった。世帯視聴率20%超は、こうして達成されたのである。

幅広い層を魅了するアニメの総集編を、直前に一気見できるようにしたフジの編成戦略は明らかに奏功した。

大台突破の好記録、テレビはやり方次第でまだまだ力を発揮できると証明されたのである。