『鬼滅の刃』特別編集版が4夜まで放送された。

4作の平均個人視聴率は9.575%(世帯平均13.925%)。今年GP帯(夜7~11時)で放送された2時間以上のアニメの中では、圧倒的に高い数字となった(スイッチ・メディア・ラボ関東地区視聴率データによる)。

年始の新海誠『天気の子』に始まり、『ヱヴァンゲリヲン新劇場版』シリーズ3作、『ハウルの動く城』などジブリ映画5作、『サマーウォーズ』など細田守3作と、今年は劇場版アニメのテレビ放送が目白押しだ。

ところが『鬼滅の刃』は、これらの全平均と比べると1.5倍高い数字となった。

『鬼滅の刃』は他のアニメと何が違うのかを追ってみた。

鮮度が落ちない!

まず個人視聴率で比較してみよう。

単独の放送で比較すると、『鬼滅の刃』とほぼ肩を並べたのは、18年1月3日に地上波初となった新海誠『君の名は。』のみ。

ところが同作の2回目の放送(19年6月)は3%ほど数字を落とし、『天気の子』の地上波初(今年1月3日)は5.7%と振るわなかった。

ちなみに『鬼滅の刃』では、今回の9月11日「兄妹の絆」と19日「那田蜘蛛山編」は、去年10月に続く2回目の放送だったが、前者は0.6%下がり8.9%だったものの後者は逆に0.6%上げて9.7%となった。1年と空けない再放送でも鮮度はほとんど落ちなかった。

他にもジブリは4月と8月に合計5作放送した。

最初の『ハウルの動く城』こそ8.4%と健闘したが、5作は上下動があるものの右肩下がり傾向となり、平均は6.66%に留まった。

また健闘した『ハウルの動く城』も、2010年以降で5回放送され4分の3ほどに数字を落としている。

細田守の3作は、『おおかみこどもの雨と雪』5.6%、『バケモノの子』5.9%、『サマーウォーズ』7.2%と3週連続の中で数字を押し上げた。

ところが『サマーウォーズ』も、17年以降3回放送され数字は横ばいに留まる。さらに2010年の地上波初放送から比べると、2割以上数字は落ちている。

この中にあって今回の4作は、8.9⇒9.8⇒9.9⇒9.7%と推移し平均が9.575と断トツの高さだ。

しかも去年の3作平均9.567を少し押し上げた。

近年のアニメ放送の中では、大健闘といえよう。

好調の要因

では何故『鬼滅の刃』だけ別格なのか。

特定層視聴率で他のアニメと比較すると、幾つかのヒントが浮かび上がる。まず注目すべきは、「映画・ドラマ」や「アニメ」の関心層で一番高い視聴率となっている点だ。

ストーリー・演出の面白さ、さらに作画で視聴者を魅了しているようだ。SNSでもそうした声が幾つも挙げられている。

「鬼滅の刃は最高すぎる!!」

「鬼滅の刃アニメ、やっぱり作画えぐいなぁ。藤の描写とくに好き」

「やっぱり鬼滅は緩急の付け方が絶妙だな。鬼の過去で泣いたりかまぼこ隊で笑ったり」

「この年になると炭治郎が人格者で妹思いってだけで泣けるのよ」

こうした評価は、「ホンモノ志向」層や「歴史・伝統好き」層で1~2を争う視聴率となっている点からもうなずける。

そして他のアニメに比べ傑出するのがC層(男女4~12歳)と2層(男女35~49歳)だ。

子どもの心をガッチリつかみ、その親が一緒に見ている。結果として2世帯ないし3世帯で同居する人の視聴率も、他のアニメよりかなり高くなっている。

「子どもたちのリクエストで再び一緒に観ていますが、やはり問答無用で燃えるなあ」

「(子ども達)真剣な顔で見つめています…。大人2人だけ、しっかり泣いてる」

「(日輪刀を持ち)一緒に戦っていた。倒れるところは一緒に倒れていた。こんな子どもまで夢中にさせる鬼滅。やっぱり凄い」

「来週も子どもと一緒に見よ」

放送2回の差も別格

ふつうテレビ番組は、再放送になると視聴率は下がって行く。

既に紹介したように、ジブリの『ハウルの動く城』も、細田守の『サマーウォーズ』も、新海誠の『君の名は。』も例外ではなかった。

特に地上波初放送の時に数字の高かった『君の名は。』は、T層(男女13~19歳)や1層(男女20~34歳)で高かった分、再放送でT層が約3分の1、1層で約2分の1と大きく下げた。

ところが『鬼滅の刃』は、去年3回平均より今年の4回平均がC層で0.8%上昇し、家族が一緒に見るケースが多かった分2層も0.4%上げた。結果として個人全体は、去年と比べ全く落ちなかった。

実は去年は、3本中2本が夜9時~11時台の放送だった。

ところが3本目を7時スタートとしたところ、C層で5%以上、連動して2層が1%強上昇した。これを受けて今年の4本は、すべて夜7時に放送が始まっている。しかも3週かけて休みの日に、特別編集版の一挙放送だ。

こうした編集と編成の見直しも着実に奏功している。

「テレビつけて鬼滅の刃やってたら、観ちゃうよね」

「初めて鬼滅の刃観た。さっそく惹き込まれたわ」

「一挙放送してて流れで見たらどハマりした」

「YouTubeで飛び飛びで見たことはあったけど今日初めてまともに見た」

何度も見てしまう人も少なくないが、放送の仕方を見直したことで新たなファンも獲得した点が成功の秘訣ともいえよう。

母と子の新たなフジテレビ

フジテレビは70年代、「母と子のフジテレビ」と言われていた。

『ママと遊ぼう!ピンポンパン』のヒットをはじめ、『ひらけ!ポンキッキ』など子ども向け番組が充実していたからだ。

今回の『鬼滅の刃』大成功は、往時をしのぶような快挙だ。

C層の中でも特に未就学児で突出し、F2~F3(女性35~64歳)が随伴視聴し、M2~M3(男性35~64歳)も一緒に見ている。お母さんは主婦やパートが多いようだ。

ただし70年代の子ども向け番組は、穏やかなものが大半だった。

ところが『鬼滅の刃』には、激しい戦闘シーンや残虐で無残な映像がたくさん出てくる。それでも子どもも大人も夢中にさせるのは何故だろうか。

「他のアニメは表現の制限あるのに、何故か鬼滅の刃はオケという不思議(笑)」

「他のアニメだったら罵倒し合う戦闘シーンでも、炭治郎の言葉には優しさが満ち溢れてるのほっこりする」

「炭治郎の優しさに涙しながら観ています。ヒットするのも頷ける」

「この鬼滅の刃って言う作品があるからこそ色んな事に頑張れる!勇気をくれる!そして感動する!」

「日本でしかできないことやってて、めちゃめちゃ強い気がする」

ストーリー展開の緩急、厳しい戦いと優しい思いやり、そして現代人が見ても何故か懐かしい大正時代の雰囲気。こうした絶妙な組合せが、幼児からその親世代までを虜にしているようだ。

『鬼滅の刃』が切り拓いた新しい「母と子のフジテレビ」。

今後どんな作品を生み出していくのか、楽しみにしたい。