9月17日に自民党総裁選挙が告示された。

候補者は、届け出順に河野行革担当相、岸田前政調会長、高市前総務相、野田幹事長代行の4人となった。

8月26日に総裁選の日程が決定し、9月3日に菅首相が退陣を表明した。

この間に4人の立候補表明と政治的な動きが続き、テレビも新聞も一連の動きを大きく取り上げて来た。その中で特に注目されたのが、総裁に誰がふさわしいか聞いた世論調査だった。

なぜ特に注目されたのか、理由は二つある。

一つは、総裁選挙の仕組みに由来する。党員票が国会議員票と同数の383票と大きなウェイトを占めるからだ。党員党友の考え方は、一般国民の動向、とりわけ自民党支持層の動向に近いのではないかという見方があり、趨勢を見通す根拠に世論調査がなるという見方だ。

もう一つは、直後に衆議院選挙が控えているからだ。

菅内閣の支持率が低迷し、次の衆議院選挙では自民党の後退が言われていた。選挙を心配する議員の中には、自らの当選につながる「選挙の顔」となる新総裁を選びたい、世論調査はその参考になるという思惑だ。

世論調査と政治の動き

各社の世論調査の調査日程と総裁選をめぐる政治の動きを振り返ってみよう。

各種報道から著者が作成
各種報道から著者が作成

閣僚を辞任して立候補した候補が敗れるという横浜市長選挙の衝撃も冷めやらぬ8月26日、自民党は任期満了に伴う総裁選挙の日程を9月17日告示、9月29日開票との日程を決めた。

同じ26日、岸田前政調会長が立候補を表明した。菅首相に対抗する形で、「国民の声を聴く政治」「コロナ対策のための法改正の検討」「新しい日本型資本主義」を訴えた。

このあと菅首相を巡る政治的な動きが続き、9月3日に菅首相の突然の退陣表明となった。

これをきっかけにして、菅首相の後継を目指す立候補の動きが一挙に出てくる。

この段階でいくつかの世論調査が行われた。

9月4~5日で読売新聞が菅首相の退陣表明を受けての緊急世論調査を実施、次の首相にふさわしい政治家を自民党の政治家10人から選んでもらっている。自民支持層に限った調査結果も公表し、6日朝刊1面などで大きく扱った。

同じ4~5日でJNNも世論調査を行った。

やはり自民党総裁にふさわしい人を選んでもらっており、自民支持者の結果も出している。この時期の調査をステージAとしよう。

総裁選の動きはさらにあわただしくなった。

9月8日に高市前総務相が立候補を表明、「国家の主権と名誉を守り抜く」「財政出動による経済立て直し」などと訴えた。

その直後の10日には、河野規制改革相が立候補を表明した。

「ぬくもりのある社会「未来につながる投資」「安全が確認された原発の当面の再稼働は現実的」などと訴えた。

このタイミングで日経緊急世論調査が9~11日に行われ、次の総裁にふさわし人を聴いている。

また11~12日には朝日新聞も世論調査を行い、新総裁にだれがふさわしいか質問している。結果を9月14日の1面などに掲載、自民支持層の中での結果も出している。この段階の調査をステージBとしよう。

15日に石破氏が不出馬を表明した。

一方16日に野田幹事長代行が立候補を表明し、「女性や、子供、高齢者、障がい者が生きる価値があると思える保守政治」を訴えた。

告示日の前日になって、岸田氏、高市氏、河野氏、野田氏の選挙の構図がようやく固まった格好だ。

この間に行われた世論調査の結果は、インターネットニュースやテレビのワイドショーで拡散した。

「民意」のお墨付きに使われたり、この候補とこの候補の支持率を足すと過半数などとコメンテーターが話題にしたりした。アナウンス効果の拡大再生産が続いたのである。

疑問あり!問題なし?

これらの調査は、それぞれに質問の仕方や政治課題と候補者の組み合わせをたずねるなどの工夫をしているが、基本的な疑問を持ってしまう。

まず調査の段階で立候補表明をしている人やしていない人など、バラバラなことだ。

多くの調査でスポットライトがあてられた岸田氏、高市氏、河野氏、野田氏、石破氏の5人について見てみると、ステージAの段階では、立候補を表明したのは岸田氏だけだった。一方ステージBの段階では、岸田氏、高市氏、河野氏の3人が立候補表明しているが、野田氏、石破氏は出馬・不出馬が決まっていない。

これではニュートラルな調査結果と言えるか疑問だ。

さらに問題と思われるのは、世論調査の回答者が何を根拠に答えているかだ。

例えばいきなり電話がかかってきて質問が読み上げられ即答するわけだから、大半の人の判断の根拠は知名度やイメージしかない。ステージAの段階はもとよりステージBの段階であっても、各候補者の政策や政見は多くの一般国民に浸透していなかった。各候補が互いに議論を交わす討論の機会もなく、知名度とイメージ頼みの“人気投票”の色彩が強い世論調査だったと言わざるを得ない。

こうした“人気投票”をもとに、多くのメディアが情報提供を繰り返した。

テレビのワイドショーでは、「改革」「既得権」などファクトの明解でない「イメージ表現」が独り歩きして、合従連衡など人治主義的なお話が主流になってしまった。特にテレビメディアやネットニュースでは、政治姿勢や政策を具体的なものとして一般国民に伝える努力は二の次になりがちだった。

瞬間判断の“人気投票”がもたらすもの

この“人気投票“の色彩が濃い世論調査が、現実の政治に与える影響は小さくない。

党員党友の投票行動ばかりでなく、「選挙の顔」を求める議員心理を大きく左右するからだ。いわば条件反射に近いあやふやな回答の集積が、一国の総理大臣を決めかねないのである。

実はNHKも、11~12日に9月の世論調査を行った。

その結果は13日の『ニュース7』で放送されたが、見出しは菅内閣の支持率だった。「何をいまさら」とシラケ気分満点になるニュースと言わざるを得ない。

ちなみに総裁選挙がらみでは、どんな政策の議論を最も期待するかを聞いている。

結果は、新型コロナ対策44%、経済財政政策33%、外交安全保障政策8%と続いた。ただし自民党総裁にふさわしい政治家の調査は行われなかった。

ある意味で“良識”かもしれないが、視聴者の関心に応えたとは言えない。

NHKに限らずメディア各社は、もっと別のやり方があるだろう。

すべての候補者が出そろい、政見・政策を発表するのはもちろん、討論を聞く機会の後に世論調査を行うべきだ。

ちなみに17日には4候補の共同記者会見、18日は日本記者クラブ主催の討論会など4候補の政策を聞く機会が続く。それまでは各候補の新型コロナ対策や、経済財政政策などを具体的に伝えるにとどめておくべきだったのではないだろうか。

そして4候補の意見が出そろったタイミングで、世論調査を行い、誰がどの程度支持されたのかを示すべきだろう。

繰り返しになるが、総裁選報道は日本の首相選びに大きな影響を与える。

ひいては人々の生命や暮らしに大きくかかわる。それだけに“人気投票”のようなエモーショナルなものでなく、ファクトに基づく世論調査を行い、具体的かつ分かりやすい報道に努めてもらいたい。