人気アニメ『鬼滅の刃』の「特別編集版」1~2夜が放送された。

今月11日から23日まで5日間にわたる一挙放送の最初の週末だ。土日のゴールデンタイム(夜7~10時)は、各局が強力な番組を並べる激戦区だが、今回の放送によりほぼ全ての裏番組が視聴率を落とした。

そして『鬼滅の刃』だけが、前4週の同時間平均と比べ倍以上に視聴率を上昇させた。あおりを食らった各番組は、『世界の果てまでイッテQ!』をはじめ、ほとんどが壊滅状態だ。

『鬼滅の刃』快進撃のメカニズムを追ってみた。

週末の快進撃

まず9月11日(土)に、第1夜として「兄妹の絆」が放送された。

放送開始前後の10分間で、個人視聴率は2%ほど急伸した。そして右肩上がりが続き、9時1分に最高視聴率11.3%を記録した(スイッチ・メディア・ラボ関東地区視聴率データによる)。主人公の炭治郎が最終の選別試験に合格し、受け取った日輪刀を抜くと刀が漆黒に染まったシーンだった。

この快進撃で、NHKの『ニュース7』は前4週の土曜平均と比べ、個人視聴率は0.4%低くなった。日本テレビは『I LOVEみんなのどうぶつ園スペシャル』が0.8%下げた。テレビ東京『出川哲朗の充電させてもらえませんか?』も、東京オリンピックの影響を受けない4回分の平均と比べると0.6%減だった。

同時間に激突した各番組はことごとく数字を落としたが、特に日テレは近年重視しているコアターゲット(男女13~49歳)で0.8%失っており、痛手は大きいと言えよう。

翌第2夜「浅草編」は、個人視聴率を0.9%上げて9.8%となった(世帯平均は14.1%)。

最高視聴率は8時58分の11%。鬼でありながら無惨を殺そうと考える医師の珠世らと協力し、無惨が差し向けた刺客を倒した後、炭治郎の妹が自分たちを人間と認識し守ろうとしたことを知った珠世が涙を流した瞬間だった。

この放送により、テレビ朝日は『ナニコレ珍百景』が前4週平均比で0.7%を失い、『ポツンと一軒家』は0.8%減となった。TBS『バナナマンのせっかくグルメ!!』は0.3%と減少幅が比較的小さかったが、日テレは『ザ!鉄腕!DASH!!』が0.5%減、『世界の果てまでイッテQ!』だと1.8%失っていた。同番組は若年層での強さに定評があったが、C層(男女4~12歳)で1.8%、T層(男女13~19歳)で2.6%、F2(女性35~49歳)で3.1%失ったのが痛かった。

では『鬼滅の刃』の強さは何か。まず挙げるべきは圧倒的な作品の魅力だろう。放送後のSNSには、絶賛の言葉がたくさんつぶやかれた。

「やっぱりイイわーー。 段々と盛り上がって来るんだよね」

「丁寧につくられたアニメって面白いね」

「映画館の料金払ってもいい出来だったな」

「結末知ってても、何度見ても面白いなー」

「来週楽しみ〜」

家族いっしょに楽しむ番組

展開が面白く、根底にある兄妹の絆(あるいは家族愛)が麗しく、さらに丁寧に描かれるアニメのクオリティが魅力だが、見られ方が裏番組とかなり異なる点も忘れてはいけない。

第1夜のデータで、「アニメ好き」層の視聴率が圧倒的に高いのはある意味当たり前。

それより特筆すべきは、C層や小学生の視聴率が突出し、加えてF2M2(男女35~49歳)およびF3M3(男女50~64歳)で高い数字が出ている点だ。主婦でも高くなっているように、要は小学生や中高生と一緒に親世代が見ているということだ。

第2夜でも、波形はほぼ同じになった。

NHKの『ブラタモリ』や大河ドラマ『青天を衝け』は、4層(男女65歳以上)で傑出しているが、若年層で弱い。テレビ朝日の『池上彰のニュースそうだったのか!!』や『ポツンと一軒家』も似たようなパターンとなる。これでは若年層をはじめ、49歳以下で数字を稼げない分個人視聴率全体が伸び悩む。

一方『I LOVEみんなのどうぶつ園』『イッテQ!』など日テレの番組は、C層から3層までまんべんなく高い数字をとっており、バランスが極めて良い。

ところが『鬼滅の刃』はC層で突出し、家族一緒に見るタイプだったために2~3層も数字が膨らみ、結果として個人全体をより押し上げた。

「子供から大人まで楽しめるアニメだと思います」

「我が家は、今日は鬼滅鑑賞DAYでした」

「子どもも見るんだもんね。なんとなくみんながハマるのがわかった」

「今月の週末は子供にテレビのチャンネル権を独占されそう」

実は同アニメには、小さな子供がみるには残酷なシーンが頻繁に出てくる。

「見せるべきかどうか」と悩む親もいるようだ。

吾峠呼世晴による漫画『鬼滅の刃』は、2016年から2020年まで『少年ジャンプ』に連載された。

その『少年ジャンプ』と言えば、「友情・努力・勝利」の三原則が有名だ。『鬼滅の刃』も努力と根性で鬼殺隊員となり、鬼に勝利していく物語だが、その前提に家族愛や兄妹の絆がある。

鬼の始祖たる無惨の襲撃を受け主人公の家族は惨殺され、生き残った妹は鬼と化してしまった。

ただし主人公は鬼と闘う使命を帯びながらも、心優しく妹思いだ。この普遍的な価値観が、残虐なシーンの毒消しになり、多くの視聴者を物語に引き込んでいるようだ。

テレビの可能性

『鬼滅の刃』は去年10月に、フジテレビ『土曜プレミアム』で2週にわたって総集編が放送された。

その時は夜9時からと遅い時間帯での放送だったが、それでも高い視聴率をとっていた。今回は5夜におよび、かつ夜7時からの放送だ。結果としてC層がより多く見るようになっているが、そこを起爆剤として新たな視聴者も出てきている。

「たまたまテレビでやってて初めて鬼滅の刃見たけどめっちゃ良かった」

「はじめてまともに鬼滅の刃を見たなぁ」

「YouTubeで飛び飛びで見たことはあったけど今日初めてまともに見た」

SNSにも視聴者層の拡大をうかがわせるツイートが散見される。

そして評価が拡散し、新たなファンを増やしている。このように良い作品を、特別な編成にして放送することで、偶然作品と出会う人々を増やし、作品の価値が上がって行く。

もちろんテレビ局も、高い視聴率を手にすることが出来る。

どうやらテレビには、こうした編集と編成の妙で好循環を起こし、もっと上を目指すことが可能なようだ。『鬼滅の刃』が第5夜にかけて、どこまで伸びていくのか注目したい。